第14話 女王籠城戦・開幕



「ふぅ……。ここ高すぎるだろ、登るのに一苦労だぜ。なんでエレベーターとエスカレーターが壊れてんだよ」


「戦場の都市って設定だから壊れてても仕方ないでしょう、グレイ。とりあえずお疲れ様と言っておくわ」


 敵プレイヤーを仕留めた後、しっかりドロップ品を回収し、おそらくアルが遠距離射撃で仕留めたであろう武蔵とかいうプレイヤーの分も回収して、再びアルが待つビルの屋上に向った。


「作戦通り、仲間は倒してくれたんだな」


「当たり前ですわ。あんなに位置を分かりやすく魔法で射撃して、かつ敵に回復の時間をかけさせたおかげで、倒すのに時間はあまり必要なかったわ」


 アルと別れる前に「仲間が分裂してる場合は位置が発覚次第に魔法を打つ」と伝えておいたので、その情報を元にアルが敵を探してくれたらしい。しかし、敵の数的優位を無くすため、足止めで十分だったのだが倒してくれるとは思わなかった。


「遠距離射撃したのは分かったが、どの魔法で倒したんだ? 雷上位魔法Lyzerだと威力が足りなく、しかしIgnisでは距離があるのと速度が足りなくて避けられると思ったんだが」


「いいことを聞いてくれましたわ! 新しい発見をしたのよ!!」


 どうやらどうしても聞いてほしいらしい。いきなりテンションが上がって少しビックリしたじゃねぇか。


「わかったわかった、どうしたんだ?」


「私も雷魔法と炎魔法をどうしたら上手く組み合わせていいか考えたの。Ignisじゃ避けられるし、Lyzerを打ってスタンしている間にIgnisを打っても距離があるから当たる前にスタンが切れるわ」


 そうだな、どうしても距離があるせいで2つの魔法に衝突するまで時差が生じる。


「そこで、Ignisが当たる直前にLyzerを当てればいいって考えましたわ! そうしたらLyzerが当たってスタンしている間にIgnisが当たってジ・エンドよ!!」


 いや、ジ・エンドって、それが出来たら苦労しないだろ。それをどうしたのか聞きたいわけで――


「グレイ、火の魔法が水の魔法に当たるとどうなるかしら?」


「ああ? そりぁ火の魔法が消えるだろ」


 その現象は先程さっそく試したばっかだ。水の魔法は速度が遅く避けられやすい代わりに魔法自体の効果が優秀なのだろう。


「じゃあ、火の魔法と雷の魔法がぶつかるとどうなるかしら」





「……もしかして」






「そう、




 ……そうか、そうだよな。これでお互いに消滅するなら水の魔法の優位性が意味なくなる。


 ということは、先にIgnisを放ち、ある程度時間が経過してLyzerを後から打つことで、後から打ったLyzerがIgnisを後ろから貫通して追い抜かし先にプレイヤーに衝突。

そうすると、雷魔法の特性スタンが効いている時間内に、先に打っておいたIgnisをプレイヤーに当てることが出来るってことか。


まあそもそも、そんな技ができるのはごく一部で、遠距離狙撃に自信があるプレイヤーでないと無理な芸当だ。


しかしこれは面白い結果だ。次から戦闘する時にさっそく利用できるじゃねえか!


「ふふん、褒めていいですわよ」


 アルが腰に手をあて、自慢気に胸を突き出してドヤ顔をする。元から飛び出ている胸をさらに突き出すのはやめてほしい。非常に目のやり場に困る。


「ああ、すごい。これはよくやったよ」


 褒めるときはこうしないとご機嫌ナナメになるからだ、仕方ない。


「えへへ……ふふーん♪」


 どうやらかなり満足しているらしい。これのなにがいいのか……さっぱり分からん。この大人しさが続けば苦労しないのだが。


……あ、そういやビルに来る途中、メールで通告が来てたな。走りながら軽く確認したが、残り人数と、支援物資と、マップ関連だった気がする。重要な情報だからアルと話し合うか。


「そういえばアル、メールみたか?」


 さっきまでの緩んだ顔をギュッと引き締め、数回咳払いをすると、凛々しいアルが戻ってきた。


「ええ、見ましたわ。支援物資は絶対に欲しいですわね」




 パラララララララ




「ああ、だが敵から位置がバレる危険性がある。使いみちには十分気をつけないとな」





 パラララララパラララララ





「誰かが使ったことを確認して判断すべきだ。どうやって届くのか分からないのに要請するのは馬鹿がすることだぜ」







 パララララララララパララララララララ








「なんださっきから、うるさいな。いい加減にし――」




 先程から頭を響かせる爆音が鳴り止まないので周囲を確認する。すると、上空を逞しい戦闘機が通り過ぎ、去り際に置き土産のよう大きな赤い箱を落としていった。




「……おい、まさか」





 箱にはパラシュートが付いており、ゆっくり、ゆっくりと落下していく。





「まさか、支援物資を要請したのか……?」








 質問されたアルが、何の悪びれない顔で言う。


「ええ、もちろん」


 その瞬間、大きな赤箱にめがけてTonitrusが放たれ、その結果パラシュートが焼け落ちて箱が自由落下を開始。俺らの目の前にドスンッと重音を鳴らして落ちてきた。

 このTonitrusは「お前らに支援物資は渡さない。いまから奪うから覚悟しろ」という敵からの宣戦布告だろう。さっそく周囲の敵に位置がバレたのだ。






 ふぅ……どうやら何も考えない馬鹿がここにいたらしい。






 さっきの褒めたことは撤廃させてもらう。






「なにしとんじゃ馬鹿!!!!」



 結果、この支援物資を「取らせない」「奪いたい」と考えた周囲のプレイヤーがビルに集まり、ここに「チーム女王籠城戦」が開始された。

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