第16話 カイナの決意
「まずは降りるか」
辺りを歩き回り、できるだけ緩やかな斜面を探してテルと俺は岩山を滑りながら下った。
「なんかスキーしてる感じで楽しい」
両手でバランスを取りながら、身体の向きを半身にして滑り降りる。初めはテルの後ろから付いて行こうと考えていたが、あまりに土埃が凄かったので隣に立って降りることにした。
しばらくして無事にダメージを負うことなく斜面を下ることに成功した。なのでさっそく、支援物資を要請できそうな場所を探すことにする。
「どんな場所が理想なの?」
テルが闇雲に探しても意味ないと感じたらしい。
「そうだな……周囲の見渡しが良くて、かつ身を潜めれる岩や穴がある場所かな」
「見渡しが良いと敵から見つけられやすくなって危ないんじゃない?」
「いや、そもそも支援物資を要請してる時点で位置は把握されるんだ。だったら逆にこちらが敵を確認できる場所にした方がメリットが大きい」
隠れたとて近くに敵がいたら勝手に集まってくる。さらに見渡しが悪い場所だと、こちらの位置は敵から把握されるのに、敵の位置は把握しずらくなる。ならむしろ身を隠すのは諦めて、敵も自分もお互いに発見しやすい環境の方が良いと考えた。
しかし奇襲は怖いので、影に隠れたり魔法から避けれそうな岩や穴があると便利だろう。
「まぁそんなご都合な場所が簡単に見つかるわけがないけどな。運営側もフィールドの調整をして悪い地形ばっか作ってそうだし。むしろそんな場所は敵が陣取ってる可能性が高いわけで--」
「あ、見つけた」
「うそでしょ?」
さすがに信じられないのでテルの指定した場所まで行って確認した。
「まじジャン」
動揺して語尾が外国人みたいにカタコトになってしまった。まさかこんな早く見つかるなんて思わないだろ。だって探し始めて1分も経ってないよ?
「とんでもねぇラッキーガールじゃんか」
「私に感謝してよね」
アーテル様にありがたく感謝しながら目的の場所に向かう。そこは自分達が岩山から降りた地面よりさらに標高が低く見下ろすことが出来る場所だった。改めて確認すると、周りに岩山や谷がなく、足場も平坦になっていて少し開放的な場所だ。
もしここで人が住むなら間違いなくここに拠点を作るだろう。さらに人の丈ほどの岩が辺りに生えて?……刺さって?……いる。崖の端までいけば洞窟のような場所もあり、身を隠して奇襲に備えるにはうってつけの場所だ。
「よし、ここで支援物資を要請しよう。あの岩の裏に落としてもらうよう調整して……戦闘機が来るまでは洞窟か岩の裏で身を隠して敵の位置を確認するまでジッとするのが1番だな」
「りょうかい。なら私が呼ぶ。カイナはどっかに隠れてて。私が前線で戦ってカイナが支援するほうが勝利に繋がるでしょ」
女の子だから前線は危ない、なんてことは嘘でも言えない。そんなこと自分がよく分かっているし、弱いくせに守ろうなんて愚の骨頂だ。彼女の隣で戦うなんて邪魔になるだけで、後ろで支援することすら精一杯で限界だってのに。
……もし彼女なら、こんな場面でも――
「カイナ、アルのこと考えてるでしょ」
「い、いや、浮気なんて滅相もないです刺さないでください」
「まず付き合ってないし浮気とか意味わからないけど刺すよ?」
はぁ、とため息をついてアルは指定の場所に走ろうとする。
しかし、何かを察したのか、俺の顔を見ずに一言だけ溢していく。
「私は私の意思でカイナを選んだの」
その一言で、俺は自分を責めることを辞めれた。
なんて単純な男なんだろう。我ながらバカだと実感する。
今ここに誓おう、俺は彼女を全力で支援して、これからの戦闘に勝利だけをもたらすと。絶対に無駄な魔法は使うまい。
決意を胸に秘めていると、テルが数メートル先の岩裏でデバイスを操作していた。おそらく支援物資の要請をしているのだろう。
すると、視界の右上、タイマーの下に新たな表示が追加される。
「アーテルより支援物資が国に要請されました。到着まで残り01:30です」
なるほど、到着まで時間が分かるのか。便利なもんだな。
タイマーが刻々と数を減らしていく。
聞こえるのは、荒野の砂を吹き上げる風と、自分の心臓の音だけだ。
静かに、ただ静かに待つ。
さぁ、来るなら来い――
今ならどんな敵でも冷静に対処して勝つ自信が――
「はーはっはっはっは!!!!! そこに隠れているのは知ってるぞ!!!!!! ここが支援物資を呼ぶに相応しい場所ってことは事前に確認済みだからなぁぁあああ!!!!!!」
……我慢だ、耐えるんだカイナよ。
「兄貴ぃぃ!!! さすがっす!!!! 感激感動っす!!!! おい敵!!! 覚悟しやがれ!!!!!」
さっき決意したばっかだろ。
「正々堂々と戦おうじゃないか!!!! まずは名前からだな!!!!! 私の名前は――」
「うるせぇぇぇ!!!!
「ごふばぁ!!!!」
「あ、兄貴ぃぃぃぃ!!!!!!!」
俺の決意は、1分で終わった。
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