第21話 乙女の心情
「ちょ、どこいくの」
「あそこだよ、あの洞窟!!」
カイナが指したのは、支援物資を要請するに相応しい場所を探っていた時に見つけた小さな洞窟……というより壁に空いた穴だった。
「あそこで上手く身を隠せば躱せる気がする!!」
「死んだらカイナが責任とってね」
「いつでもテルの責任は取るよ、だって俺はテルの――おっぶ!」
また変なことを言い出しそうだったので、蹴ってカイナを壁の空洞に押し込んだ。
慌てて私も空洞に入るが……
「狭い」
人が二人ギリギリに入るくらいの空洞で、無理にでもくっつかないと外に出てしまうほどだった。これでは魔法ダメージを避けれそうにない。
「ちょ、もっと押し込むね」
「入ってるから、もう奥まで入ってるから!!」
このセリフが逆だったら危ない絵面になるところだった。
しかし、あれだ。やけに狭い。絶対にミスだ。
こんなに近いと、色々と問題があって、心の準備もできてないし、ほんと近いし、ほぼ抱き合うみたいになるし、なんか顔が熱くなるのは魔法のせいにして、何とか密着する。
「ん、顔が赤いけど大丈夫? そんな熱いか――」
「うるさいバカしね!!」
なんとかして二人が空洞に収まった瞬間――
ドガァァァァァァァン!!!!!!!!!
凄まじい爆発音と共に、地震があったかのような振動と、火を纏った熱風が押し寄せてきた。
まともに喰らってたら二人とも一瞬で死んでいただろう。そう思わせるくらいの激しい衝撃だった。
どうにか生きられたと安心しかけたとき、徐々に二人のHPが減っていることに気づく。
「まさか……この熱風のダメージ!?」
「うそだろ!? ソル・イグニスぶっ壊れすぎるだろ!!」
そうこうしているうちに熱風でHPがどんどん削られていく。すぐに死ぬほどではないが、もともと二人とも戦闘後で残りHPが少ないので危ないかもしれない。
「これじゃダメだ」
すると突然、カイナが私の腕を引っ張って無理やり立場を入れ替えた。
私が奥に入って小さく縮まり、カイナが上から覆う形になる。
「ちょ、なにして――」
「テルは……死なせない」
……あぁ、
なんて卑怯だろう。
いつもみたいにふざけてよ。
こういう時に限って――
そんな真剣な顔して守らないで。
こんな密着して、逃げられなくて、必死に守られて……
これでドキドキしない女がいるわけない。
――しかし、このままずっと守ってもらいたいという気持ちはあるが……そうも言ってられない。
時間が経つにつれてじわじわと2人のHPは減っていく。特にカイナは私を庇っているせいか、減少率が酷い。早く何とかしないと。
……そうだ、本体じゃないなら効くかも知れない!!
こうなったらイチかバチか――
「え、テルさん? いったいなにを?」
「ちょっとジッとしてて……っと」
カイナのデバイスを勝手に操作して、私は魔法を譲渡してもらう。
そして放つ!!!
「
「えー!!まじゴメンゴメンゴメンカッコつけてすみませんでしたぁぁあ!!!??」
私はアクアをカイナ……ではなく、その後ろ、外に向けて放出した。
すると、
ジュワァァァァァァ!!!!
水球が一瞬にして水蒸気へ還っていく。アクアでソル・イグニスの本体は消せないが、その残火は消せるのではないかと考えた。
「おお、HP減少が止まった!」
「いや……ダメみたい」
数秒だけHP減少が止まったものの、再び熱によるダメージが始まる。
「くそ、どうすれば」
「これじゃカイナが死んだ後に私も死ねるね」
「あれ、この俺の死って無駄だったりする?」
もはや開き直って終わりを迎えようと考えた。ここまで頑張ったら悔いはないし、割と上位まで食い込めた自信はある。大会もMDOの正式リリース後に何度か開催されるだろうから、そこで今度こそ1位を狙いたい。
「ふぅ、よく頑張ったよ、お疲れさん」
「あー、ここで敗退かぁ」
私は諦めて外に出ようとした。そのために手を付いて立とうとしたその時――
ピチャ
「え、ピチャ?」
改めて地面をよく見る。すると、硬い岩ではなく水溜りが生成されてきた。
それに気づいたと同時に
ジュワァァァァジュワァァァァァァァァ!!!!!
外から大音量で水が蒸発する音……いや、火が消火される音が聞こえる。
「なんだなんだ!? 誰か水の最上級魔法でも使ったのか!?」
カイナが突然の出来事に慌てふためく。
しかし再度確認のためHPバーをみても、減少は止まっていない。
そして、通告に書いてあった内容を思い出す。
『 2. 島が徐々に海へ沈んでいることが判明した。おそらく数時間後には沈んでしまう……『デウス』は最後の生き残りのみ与えられる奇跡の魔法だ。この島が沈む前に何としても敵の抹殺を頼んだぞ。
さらに海に触れると毒が身体を蝕むそうだ。絶対に触れるな。』
つまり、この水は……
「この水、島を沈めている海水だ……」
「そうか! だから蒸発しないんだ! これで蒸発したら島が沈む設定が壊れてしまう。しかし毒でHPが減っているのか」
どうやら、島は私たちが思っている以上に沈んでいるらしい。
ともかく助かったことには変わりはないので、急いでここから脱出しなければならない。
「カイナ、早く出るよ! このままじゃ結局HPが減って死ぬ!」
「りょうかい、急げぇぇ!!」
2人して慌てて岩山の空洞から逃げ出し、さっきまで獄炎寺が仁王立ちしていた位置まで登る。
「あっぶねぇ……あと数秒いたら死んでたな」
視線を動かしてカイナのHPを見ると、本当にあと数ミリしか残っていなかった。
「早く回復しよ。もたもたしていても下の海水が上がってくるだけだから」
「ああ、そうする。ジッとしてないと回復できないのはマジで難点だよなぁ」
2人で仲良く座って回復魔法を使用する。本来なら敵に狙われてもおかしくないが、もはや沈む限界の位置のフィールドにプレイヤーが残されていることはないだろう。早く私たちも中央に向かわなければならない。
「なぁテル、あのぷかぷか浮いてるボコボコの箱って……もしかして支援物資か?」
カイナが指した方向を見ると、海水の上をフラフラと揺れている箱があった。おそらくソル・イグニスの爆撃を受けて傷だらけになったのだろう。
「まだ取りに行ける近さで、海水もそこまで深くないから行ってくる」
ある程度の回復が済んだカイナが支援物資を取りにいく。ここまで苦労した物資だ。さすがに諦めるわけにいかないのでカイナには頑張ってもらうことにする。
「それにしても、もうここまで沈んでいるんだ」
デバイスで自分達の位置を確認すると、荒野地帯のほぼ中心地にいる。つまり、島全体の半分が既に沈んできたというわけだ。残りプレイヤーが少ないのか、できるだけ人を中央に集めて激戦区にしたいのか。まあ、観ている人からすれば戦闘が多い方が盛り上がるので楽しいだろうが、こちらからすると無駄な戦いが増えるので厄介だ。
「戻ってきたよー。どうやら、支援物資の中身は半分くらい消滅したらしい。さっき獄炎寺が使った火の魔法と回復魔法が少しだけ」
「なるほどね……。貰えるだけありがたいって捉えよ」
あの魔法は強力だったので、手に入ることは大きなアドバンテージだろう。切り札として使えそうだ。
「んー、その魔法はカイナが持っててよ。それと、炎将寺が持ってた武器もあげる」
「お、それは嬉しい!! どんな武器!?」
「なら互いの戦闘を話そ。情報共有ってことで」
こうして私たちは、お互いに経験した戦闘内容を話しながら、島の中心地に向かって走ることにした。
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