第5話 永遠のライバル(笑)


 さて、心の中で問いただして欲しい。


『学校を出て家に帰ろうとしたら突然の殺害予告を受けた』


 なんて人は世界に何人いるだろうか。少なくとも少数派であることは間違いないし、なんなら日本で俺しかいないんじゃないかと思う。たぶんこれ、裁判で勝てるよな。


「ちょっと、何を黙ってるのよ! 私がバカみたいに見えるじゃないの!!」


 例の殺害予告犯が涙目で叫ぶ。見た目は晶ちゃんに劣るとはいえ可愛いのに言動と性格が残念だから本当に勿体ない。


「実際バカだろお前。街中でいきなり殺すなんて大声だす奴バカ以外にいるかよ。俺じゃなかったら警察に通報されて人生終わりだったぞ」


 彼女の名前は白鷺珠理奈しらさぎ じゅりな

 ゲーム業界では『アル』で名が通っている結構なゲーマーだ。

 うちの学校のすぐ近くにあるお嬢様学校に通っている正真正銘のお嬢様なので、実家はゲームなんかさせないと思われるが、なんと親が生粋のゲーマーであり彼女もそれを遺伝で受け継いだらしい。

 金髪ツインテ巨乳美人と言えば大半のオタクは理解た易いと思う。ついでにポンコツという属性付きだ。

 容姿端麗、文武両道、億万長者、まさに世の言う完璧人なのに性格だけは神に恵まれなかった残念な女、それがアルであると俺は認識している。

 なぜそんな彼女が俺を執拗に殺したいのかは、それはまた別の機会で。


「180センチ超えの見た目がヤンキーな男がアルを襲う構図を見たら確実に捕まるのは海那だよ」


「だよなー、だから俺なんも出来ないんだよ。今の見た目は気に入ってるけどこの状況の時だけ恨むぜ」


 ちなみに、今の俺は赤く染めた髪に遺伝のお陰で身体が縦にデカく育ったので目立つし威圧感があるらしい。晶ちゃんが気に入ってる(デカくて赤いから小さい自分が離れても見つけやすい)から俺も気に入ってる。


「まぁ要件はわかってるけどな。MDOのことだろ?」


「そうですわ、分かってるじゃないの。今度こそギタギタにしてやりますわ」


 まぁゲームじゃなかったらマジで警察案件だから。金を積まれて専門の人が出てきたら絶対に死ぬから。


「……俺らダブルス部門で2位だけど、1位ってアル達だろ?」


「もちろんですわ。何事もするならトップを獲る。それが白鷺家の教訓ですから」


 やっぱりそうか。何となくそんな気がしたので聞いてみたが。現実では残念だけど、ゲームとなると本気で上手いから困る。相方は今日は見えないが、彼もゲーム業界では知らぬ者はいないくらいの天才だ。もし当たったら全力で迎え打つしかないし、何一つ手は抜けない。


「てか、俺らが参加してるか分からないのに、よく挑戦状を叩き出せたな」


「はぁ? あんた達が参加しないわけないでしょ」


 うん、これは愚問でした。確かにそうでした。


「まぁともかく、覚悟しときなさい。私は全力で一切手を抜かずカイナを殺すわ。そしてテルを……いえ、何もありません。ではさようならですわ」


 おーほっほっほと高笑いして去っていった。言うだけ言って帰るって、本当に嵐みたいな奴だな。


「……ねぇカイナ」


「ん?どした晶ちゃ……テル」


 隣の空気が変わる。



 いまは晶ちゃんじゃなく、だと気づく。




「絶対に殺そう」


 



 どうやら、アルは俺だけではなくテルの方にも火を付けて帰ったらしい。


 これは……楽しみになってきた。

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