第38話 因縁の決戦


「ふぅ……とりあえずは予定通りにできたかな」


 ソルイグニスを撃ち終わり、地獄の戦場と化した研究施設に観察用通路から降り立つ。テルが上手く図ってくれたのか、はたまたタイミングが良かったのか、どちらか定かではないが残り人数が2人まで減った。つまり、あの一撃で4人も倒したのだ。これはかなり強気な行動だっただろう。そしてさらに大きなメリットが生まれたが、それも後ほど考えて運用していくとしよう。


 そして、最後に1人残っているわけだが……まぁあいつだろう。


「しかし、相変わらず凄い威力だな……」


 疑似太陽のような火の塊が落下した戦場を改めて見渡す。ほとんどの施設は初めから半壊していて、さらにアルによる雷最上級魔法「Nova Risingノヴァライジング」で全壊していたが、さらにさらにソルイグニスで、もはや原型がないほど施設は崩壊していた。あるのは積み重なった瓦礫の残骸と、燃えている鉄くずと、割れたエリクサーカプセルから溢れる様々な魔法だ。気をつけて歩かないと何かの魔法にいつの間にか引っかかっているかも知れない。


 恐らく最後の1人がいるであろう場所……周りより特に広く空けた中央実験室に向かう。


 もうすぐ中心地に着こうとしたその時、前方の瓦礫の影から出てきた人物がいた。



「よくもやってくれましたわね」



 できれば聞きたくなかったが……予想はしていた声が聞こえた。


「やっぱ残りの1人はお前だよな、アル。グレイを倒せただけ良しとするか」


 最後に残るとしたらアルだと予想はしていた。1番残って欲しかったのは、もちろんテルだったけど……女王組相手に1人で足止めしてくれて、かつグレイを道連れしてくれただけの凄い仕事をしてくれたのでありがたい。


「ええ、本当はグレイと二人で優勝するつもりだったけど、テルが思った以上に厄介だったわ。それに予想外のしつこい敵もいましたから」


 しつこい敵というのは、まだ見ぬ二人のプレイヤーだろう。そこの矛先がテルじゃなくてアルでよかった。そのお陰でいい感じに事が運べたらしい。ありがとう、見ることのなかった勇気あるプレイヤーよ。


 しかし、その二人のプレイヤーと戦闘しつつ俺のソルイグニスを躱すって何したんだ……?


「どうしてって顔していますわね。別にもう使うことはないから教えますけど、水の最上級魔法を使いましたわ。どんな攻撃からも必ずダメージを一定時間0にする魔法よ」


 なるほど……それでピンピンしているわけか。なんならソルイグニスが衝突する前に使っておけば例の二人からもダメージを受けずに生き残れるわけだ、考えたな。まあたぶんグレイの入れ知恵だろうが。


「さて、やっと二人きりになれたけど、感想は?」


「ええ、とっても楽しみだわ。だって貴方を殺せますもの。MDOのメールが来てからこの日をずっと待ってましたから」


 二人きりになれた感想が「やっと殺せる」って怖すぎるだろ、リアルまで会いに来てわざわざ殺人予告をするくらいだし、たまったもんじゃない。だが、怖気づく暇はない。俺もそろそろアルに勝たないとテルをがっかりさせてしまう。


「そうかよ、俺は残念だけどね、お前と闘うのは」


「あら、さっきと言っていることが違うじゃないですの」


「そうかな、あれは気の迷いってことで」



 よしよし、そうだ、このまま時間を使え。



「適当なことを言う男は嫌われますわよ」



 アルが慢心している間に――



「別にテルに以外の女に嫌われても構わないけどな」



 少しずつ、猛毒のように――



「ふーん、よっぽどテルに好かれている自信があるようですわね」



 かつて苦しめられた技で敵を制してゆけ――



「まあアルよりは自信あるかな」



 まだだ、まだ気づくな――



「それはないですわね、絶対に私のほうが――」



 くそ、ここまでか。



「ま、まさか――」



 まあ、ここまで時間を稼いだら十分だろう。後は――



「もう既に戦いは始まってんだよ!!!」


 アルのHPをどうにかして0にするだけだ!!!


「まさかフィールドに干渉するほどの魔法だなんて……っ!!」


 既に3割は減っている頃合いだろう。なかなか減少スピードがエグくて炎燃寺の時に苦労したからな。さらにここは逃げられない最終エリアでの魔法だから、アルはこの延焼ダメージから逃れることはできない。これ以上にない最高の一手だと感じている。


「ええ……認めましょう、貴方ならいつでも倒せると油断していたことに。ですがもう……全力で叩き潰すと決めましたわ」


 さてカイナ、ここからが正念場だ。なんとしても勝つぞ。


「ああ、やれるもんなら、やってみろよ」




 ここから、正真正銘の、MDO第一回デウス杯・ラストバトルが始まった――




Tonitrus雷よ!!」

Aqua水よ!!」

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