第2話 黒崎 晶


 「いってきまーす」


 台所にいるであろう母親に挨拶して玄関の扉を開けた。すると、まるで家の中に逃げ込むかのよう寒い寒い北風が押し寄せてくる。


「うゔ、さむい」


 世間は冬だ。つまり私の1番嫌いな季節。別に好きな季節なんてないけれど。

 そんな誰に言うわけでもない愚痴を吐きながらいつもの通学路へ向けて歩いていると、他の生徒がチラホラ見えてきた。まぁ十中八九同じ学校の生徒だろう。女の子は見るからに短いスカートを履いて通学している。ほんと、なんでこんな寒いのにわざわざ身体が冷えるような格好をするのか理解が出来ない。頭の奥ではオシャレのためだと理解しているが、そういう理屈で納得はしたくないので奥にしまったままにしよう。


「ねぇー、昨日のドラマみたー!?」

「みたみた! まぢキュンキュンしたんだけど! やばいよね!?」


 朝からキャピキャピ楽しそうだなぁと眺める。ドラマなんて最後に観たのいつだろう。まるで覚えてないや。

 あれこれ前のJKを見ながら思考していると、街の大通りに出会す。大きな交差点には朝から多くの自動車が行き交い、ほとんどの人間は行きたくもない仕事のために車を走らせているのだろう。一応、ここは都会と言われいるので、辺りは高層ビルで囲まれており様々な広告パネルが忙しく街の誰かに宣伝をしている。その中の一つ、ちょうど顔を上げて正面のパネルがとあるニュースを報じる。


「昨今、非常に話題になっているバーチャル・リアリティ。通称VRですが、若者を中心に多大な人気を誇っています。中でも、大手ゲーム企業『ライゲキ』が昨年販売した、仮想現実を利用するフルダイブ対応小型機体『トレイス』は爆発的な売上で、今も様々なゲーム企業がトレイス対応型新作ソフトを販売しています。しかし、世間からは批判の声も多く、特にVR失感症について――」


 まさにタイムリーな話題だった。なぜなら私もVRゲームにハマってるし、なんなら昨夜何時間経ったか覚えてないくらいプレイしたからだ。


 ちょうどゲームの話で思い出したが、MDOのβテスト版、いまいちだったなぁ。もっと激しい戦闘とか、変わった機能を期待していたのに……。VRゲーマーとしては少々がっかりだ。カイナは「テスト版だから何か試しているか欲しい情報があったんじゃないかな」とか言っていたが、本当の真意はライゲキのスタッフしか知らない。


 そんなことを正面上方のパネルを眺めながら歩いていたので……足元の軽い段差に気づくわけがなく……つま先が引っかかって重心が前に倒れ……修正しようとするも上手くいかず……絵に描いたように綺麗に転ぶ――


「よっと、危なかった。テル……じゃなかった、あきらちゃん、きちんと前見て歩いてよ」


 ――と思っていたが、いつのまにか隣を歩いていたカイナ、いや、高無海那タカナシ カイナに支えられていた。

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