MDO~マジック・デウス・オンライン~

凛句リンク

プロローグ(本編は6話以降)

第1話 二人のゲーマー

 

「テル、そっち行ったよ!」


「はーい、任せて」


 近くの茂みから颯爽と現れた彼女は、予定通り目の前に現れた鎧男を手に装着した鉤爪で勢いよく切り裂く。


「くそっ! 誘導され――」


 ズバッと体を斜めに割かれた男は最後まで話すことは出来なかった。

 そのまま男は地面に倒れ、血を吹き出す――ことはなく、淡い光と共に跡形もなく消え去る。その数秒後、男の死体があったはずの空間にはサッカーボールくらいの青く輝く球体が出現し、その男を切り裂いた少女が軽く球体に触れ回収した。その行動に反応して――


『YOU WIN』


 このような文字が目の前に現れて、自分が勝負に勝ったことが証明された。


「これで58連勝か。なんか飽きてきちゃった。みんなやること同じでつまらないや」


 少女は退屈そうに呟く。さきほど一人の男を切り裂いたばっかとは思えない言動だった。現実で発言したら警察沙汰は逃れないだろう。


「まあそう言わないでよ、テル。君が強すぎるだけで、ほとんどの人間はこのゲームを楽しんでるはずだから」


 あとから追いかけてきた少年が、少女――テルに話かける。


「だってさー、カイナ。いくらなんでもβ版とはいえ、プレイヤースキルの調整して同じようなレベルのプレイヤーとマッチングしてもいいと思わない? これじゃただのイジメだと思われるよ」


「まあ、うん、実際にイジメに近かったね、さっき。あれが毎回続くとさすがに飽きるよな」


 正直に否定できず苦笑いした少年――カイナは、まだβ版が始まってのに飽き始めたテルに同情する。

 プレイ初めは新しいゲームに、しかも人気作を次々と発売している会社が試作したゲームなのでワクワクしながらプレイしたが、どうやら本当に試作段階らしく、ほとんどの機能は作動せずに戦闘が始まった。

 内容はよくあるPvP、ようはプレイヤー同士が戦うゲームで、チーム戦も選べたのでこちらで遊ぶことにしたが、結果は見ての通りだ。元からゲームが上手いテルが無双して今に至る。テスト版ではない正式発売のときには色んな機能が追加されてもっと楽しくなることを期待するとしよう。


 そろそろ次のマッチングが始まる頃だと感じたカイナはテルに相談した。


「そろそろ次、始まるよ。どうする? いったんログアウトしてご飯でも食べる?」


「うん、そうしよー。じゃ、また向こうで」



 二人はまだ知らなかった。このβテストが、今後発売される遊びゲームに欠かせない情報を得るためのものだったと。



 こうして、テルとカイナはゲームの中、いわゆる仮想空間――βテスト版「マジック・デウス・オンライン」通称「MDO」から姿を消した。



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