第35話 G線上の女王
エリクサーカプセルが落雷によって破壊され、カオスな空間となった通路や部屋を……もはや崩壊して原型を保ってないが……上手くすり抜けて目的の観察用通路へ向かう。
毒ガスが漂っている場所も危ないが、特に気をつけたいのは空間が歪んでいる場所だ。おそらくスタート時のようなワープ魔法だと考えられる。どこに飛ばされるか分かったもんじゃないし、最悪の場合は無防備で敵の前にワープするかもしれない。そうなるとゲームオーバーになってしまう可能性が高いと考えたら、自然と手に力が入る。
「カイナ、もし女王が出てきたら私が時間稼ぎする。その間に距離を取って秘策お願い」
おいおいおい、それは言っちゃあかんぜよ。
テルが最悪の場合に備えて予め対応策を伝えてくれたが、その言葉に思わず顔をしかめてしまった。
「あのな、テル。それをフラグって言うん――」
「フラグが何だって、カイナ」
世界最速記録更新のフラグ回収をしてしまったようだ。
だが、なぜだ。お前はいないはずなのに、裏をかいたと思ったが。1番最悪のパターンの「全ての考えを読まれる」という失態を犯したことに俺は気付かされた。
「とうとう会えましたわね、お二人さん」
例の爆破された観察用通路に付くと……消滅しかけている2人の見知らぬプレイヤーを足元に這いつくばせたチーム女王の二人が、こちらを不敵な笑みで睨んでいた。
残り人数が8から6になったことを考えると、さらに二人追加で倒したらしい。既に4人キルを奪ったことに驚きだが、それよりも予想外なのが、ここに二人とも留まっていることだ。
「な、なんで」
「なんでここにいるかって? お前、俺を舐めすぎじゃねぇか? トップ10まで生き残ったハイレベルプレイヤーが、俺の思考を読んで裏を突いてくると考えないはずがないだろうが。だったらやることは1つ、裏の裏を読んで行動するだけだろ」
グレイが言っていることは、全て理に適って正しかった。深読みして危ない橋を渡るのは、被雷した不利なプレイヤー側だけで、別に女王組は何したって有利な状況だ。有利が無くなることはあるかもしれないが、完全に不利になることはない。だったら1番利益が生めそうな行動をとって動くだけだ。
「カイナ、早く行って」
「行ってって、何を……」
テルの行動に反射的に否定しようとして踏みとどまる。うん、待てよカイナ。また同じことを繰り返す気か。また後悔して2人とも負けるのか。さっき決意したばっかじゃないか、もう後ろを向かず勝つことを考えると、今がその時だろう。
「ごめん、頼んだ。必ず勝つから」
「うん、よろしく」
俺はテルを信じて女王から反対側に走って離れることを決める。デバイスが回復すれば、こちら秘策を撃ち込めるのでそこまでの我慢だ。顔を上げてテルを見ると、テルは鉤爪を構えながら、こちらを向かずに女王と対峙していた。重心を低くし、前傾姿勢で敵を睨んでいる。女王が動き出す前に走ろうとすると、テルから思わぬ言葉を聞く。
「ねぇ、カイナ」
「……どうした?」
「別に――二人とも倒してしまってもいいんでしょ?」
――ははっ。すげえや、テル。きっと、冗談で言ってないな、これ。
「当たり前だろ。俺が倒したかったくらいだ」
「あ、それは無理でしょ」
「そこ認めてくれないの!?」
この会話を機に、俺は背を向けて走り出した。ただただ、まっすぐ、遠くへ、信じて。
――――――――――――――
「ねえ、テル。本当に1人で私達を倒そうと思っていますの?」
「そう言ったじゃん。一回じゃ理解できないバカじゃないでしょ」
「はぁ……。言っておきますけど、手加減なんてしませんから。1人じゃ卑怯なんて言わずに、二人の全力で潰しますわ」
「……うん、望むところ」
例え弱った獲物だろうが全力で潰す。これだから女王様は恐ろしい。ずっと味方だったから安心していたけど、敵に回すとこうも恐ろしいか。
「武器を持っているあたり、アルの魔法を受ける前に武器を出して手放したか、水魔法系で防いだかのどっちかだな。俺の予想じゃ、前者だと思うが」
そうだ、まだ私が魔法を受けたとあっちは分かってない。まずは、この心理戦に勝って撹乱させなければ。もし二人に私が魔法を使えないと知られたら、その瞬間から様子なんて見ずに一気にたたみかけてくるに違いない。こういう戦い方、全部カイナに任せていたから苦手なのになぁ……。
「あんなバカデカイ声で叫んだら聞こえるに決まってる。事前に魔法を展開して防ぐのも難しくないし」
「まあ、理論上はそうだな。他のプレイヤーならまだしも、アーテルなら防いでも納得する」
会話も伸ばして、なるべく時間をかける。時間がかかればかかるほど、私はデバイスを治せるので有利になるからだ。
「でもそうはならなかった。だってカイナが逃げることがおかしいからな。仮にカイナだけが魔法に当たっていたとしても、この場にいるだけで戦力になることは多くある。それぐらいのことはカイナなら考えられるだろ」
ちっ、全てお見通しってわけね。なら腹を括って戦い抜くしかない。
「ゴチャゴチャいいから、かかってきなさい」
「言われなくても、そうするぜ!!」
グレイが斧を振りかざしながら突っ込んでくる。このまま迎え撃ちたいところだが、グレイの後方、ちょうど私から見るとグレイのお陰で死角になっている位置から、魔法を撃つアルが想像できた。実際には見えていないが、アルなら間違いなくする、という勘だ。
「っ!!」
この位置に
「見事じゃねぇか」
さらにグレイは追撃をかけてきた。斧に雷が纏っていることから、おそらくあれに切られると麻痺状態になると考えられる。つまり一回でも当たれば二人からの猛攻が襲ってくるので何としても躱さないといけない。
私は鉤爪で斧を受け流す。さらに止まっていてはアルの魔法の餌食になるので、常に不規則で動きながらグレイの剣戟もいなしていく。
「くそ、ちょこまかと小賢しいなぁ!!」
「あれ、もう忘れたの。銃ゲーをした時、この三人の中で1番被弾数が少ないの私だったじゃん」
軽快に煽りを挟みながら躱していく。敵の思考を奪いつつ時間稼ぎだ。正直、倒すというよりは逃げ切れば勝ちみたいなものなので無理はしないことが正解だと考える。
「でも、1番当てたのは私ですわ」
不意にアルが魔法を放つ。見た感じはトニトルスだが……なにか違う。遅いし太い、とりあえず避けておこう。
トニトルスならまっすぐ飛んでくるので、素早く地を蹴って進行方向から外れる。
「おらぁあ!!」
逃げた先でグレイが斧を振り下ろしてくる。力任せだが、いなす時間も猶予も無かったので両爪でクロスしながら受けて止めた。
「そんな単調な動きじゃ、いつまでも倒せないよ」
「ああ、だから今、変えたじゃねえか」
すると、突如グレイが斧から手を離して低くしゃがみだした。
「なにし――!?」
なんと、グレイが低くなったその後方から、さっき躱したはずの雷魔法がこちらに向かってきたのだ。
突然のグレイの行動と魔法に対象が追いつかず、状況の把握に時間がかかる。が、そんなことを考えている間に雷撃が目の前まで迫る。
ここで避けされずに当たってしまえば終わりだ。
カイナにもすぐ追いついて倒してしまうだろう。
仕方ない、まだ耐えてくれ、私の身体。
動け足よ、もっと疾く!!!
ブーストっっっ!!!
「やっぱそうなるか」
尋常じゃない速度により、目前の雷魔法ですら遅く感じる感覚でグレイとアルから一定の距離を取る。目的を一瞬で失った雷は、そのまままっすぐ飛んでいき遠くの壁に衝突した。
「それが厄介ですわ、本当に。グレイ何とかして」
「あんだけ速いとなぁ。苦労するぜ」
おそらく、あの魔法は追尾性能付きだ。雷上位魔法だろう。Aquaで対象したいが、デバイスはまだ使えないのか。はやく治って!!
「――っ!!」
ダメもとでデバイスをタッチしてみると……いつの間にか「修復完了」という文字が表示されていた。
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