第4話 反撃


「おいおいジョン、飛ばしすぎだって」


「わるい、まさかあんな弾き飛ぶとは思わんだろう」


 俺がAquaを嬢ちゃんの腹にぶち当てると、15mほどぶっ飛んで大樹に衝突した。

 樹皮の破片や木の葉や木の枝が辺りを舞っている。これでは相手が死んだのか潜んでいるのか確認が取れないので悪手だ。


「おそらくAquaは威力・速度が共に低い数値だが、当たった時のけぞりや反動が大きいのだろうな。でないといくらチビで軽いとはいえあそこまで飛ぶのはおかしい」


「まぁ初見のゲームじゃ失敗はつきものってことよ。とりあえず辺りを警戒しながら進むか」


 周辺の木々に注意を向けながら、徐々に正面の大樹へ近づいていく。

 しかしどこかであの小さい形を見たことあるんだが、如何せん思い出せない。ランキング上位に食い込んでいるからにはどっかの有名プレイヤーだろうから、おそらく何かのゲームで会ったはずだが……。いまは戦闘に集中するとしよう。


「なあジョン。もっかいIgnisを打っていいか? 当たればダウン、外れても動けば敵の位置が分かるだろう?」


「それもそうだな……無理にこちらから近づく必要はない。 よし、頼む。俺は火球の背後を走って追撃に向かうとしよう」


 これで1人は確実に葬った。当たればよし、外れても火球の裏から追撃するだけだ。

 後はもう1人の仲間がどこにいるかだが……ここまで仲間が追い込まれているのに、助けに来ないということは近くにいない可能性が高い。

 既に別の敵から闇に葬られたパターンも考えられるが、それはないだろう。

 俺らはゲーム開始直後から全速力で辺りを捜索。同時にゲームの情報を集めながら魔法の使い方を模索し、だいたいのデバイス機能を確認後にトミーが嬢ちゃんを発見したことから、全プレイヤーの中でも最速で戦闘を初めた自信がある。

 おそらく別行動をして周辺の捜索を始めた時に俺らと遭遇したのだろう。あちらからすると不運だな。


「いくぜジョン……Ignis火よ!!」


 ジョンの手先が魔法陣の展開と共鳴して眩しく光る。即座に火球が作成され半壊した大樹に放出した。その後方から追尾するように疾走して敵の行動に備える。


 しかし、魔法陣の発光がまるでマズルフラッシュ(銃を撃った時に発生する閃光)のようだな。暗い場所や奇襲時のときには気をつけないとな……敵から位置が――ッ!!


「まずい! 避けろトミー!!」


「は? 何からだ――」


 嫌な予感を確かめるべく後ろを振り向いて確認したが、残念ながら当たったらしい。初めにIgnisを打った時に気づくべきだった……ッ!!


「むやみに魔法を使ってくれて感謝するよ、お兄さん」


 そこにはトミーの下腹を紅く燃えた鉤爪で突き刺していた女が不敵に笑っていた。


「くそが……ッ!! いますぐぶん殴ってやる!!!」


「もう遅い。昔から魔術師は接近戦に弱いって定石だよ」


 トミーが反撃に出る前に、女は紅い鉤爪を上に振り切る。最後まで睨みを効かせながらも燃え下ろされたトミーの身体は、いくつかに分裂したまま光と共に分散した。


「チッ! 魔法陣の発光を逆に利用して俺らを逆探知しやがったな」


「おー、正解。私って奇襲が得意なの。ほら、小さい身体だし子供だし」


「子供は鉤爪で人なんて殺さねぇよ!! 喰らえTonitrus雷よ!」


 俺は話の流れで魔法を放つ。予想が正しければ、今の距離ならこの魔法は確実に当たる。


「そんなの避け――ッ!」



 Tonitrusは本物の銃に近い速度で女に向かって放電した。やはり速度が他の魔法より圧倒的に速いようだ。


「か、身体が動かない……?」


「ハハッ!! ツイてるねー!」


 さらに嬉しい誤算により、俺はAquaを放つ準備をした。どうやらTonitruの追加効果にスタンがあるらしい。Aquaの威力が弱い方の魔法だったとしても、それ二発とTonitruを一発分でHPはゼロになるはずだ。


「あばよ、Aqu――」


「消えるのはテメェだよ!!」


 突然の声に後ろを向いてしまう。仲間がいたことに驚きはしたが、今更もう遅い。このまま勝たせて――。





なんだ、







なんで――





「そのままテルの元に吹っ飛べぇぇぇ!!!」




 なぜ後ろからAquaの水球が迫っているんだ!!!!




「――がはァッ!」


 そのまま避ける暇もなかったAquaに衝突し、その進行方向に向かって身体は吹き飛んでいった。力の流れに逆らうよう抵抗するも、無駄だった。

 勢い止めることを諦めて、鋭い殺気を感じる方を向く。その先には、スタンから回復して紅い鉤爪を構えた悪魔が存在していた。


「じゃねー、おっちゃん。まあまあ楽しかったよ。たくさん情報ありがとう」


「くそが。おまえ名は――」


 最後まで言い切る前に、Aqua衝突の勢いを利用して炎爪で身体を縦に裂かれ、傷口から延焼しながらそのまま地に倒れた。まだ3割りほどHPは残っていたが、悪魔はトドメを刺すべく俺の首元に炎爪を構え、時が止まるほど静かに呟いた。


「アーテル」


 ……あぁ。それは強いわけだ。やっと思い出した。さらに目の前の悪魔の「目」で確信した。


「ブラッドオーシャンの『閃光』か」


「もう、その名は捨てた」


 そのセリフを最後に、俺の視界は暗くなった。





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