第32話 最終エリア


 例の立入禁止区域に入って視界が暗転した後、何分経ったか分からないが、眠りから覚めたような曖昧な覚醒状態になった。


 大丈夫だ、手はテルと繋がっている。


 徐々に意識がハッキリしていく。


 しかしやけに風が強い。どこだここは?


 恐る恐る目を開けると……



「う、うおおおわぁぁぁ!?!?」


「んっ……」



 俺たちは


 いや、正確には空から堕ちていると言った方が正しいだろう。

 ようするにスカイダイビングなうだ。


「いやなんでだよ!!??」


「知らない……うるさいから黙って」


 なぜこの状況で冷静になれるんだ……?

 

 もしかしてジェットコースターとか楽しい系女子かい?

 

 よし、遊園地デートに誘うのはやめよう。ジェットスター苦手系男子からしたら嫌な予感しかしない。


「それより見て、ちゃんと下を」


 テルに指摘された通り恐怖を圧し殺して無理やり下を向く。すると俺がさらに勘違いをしていたことに気がつく。


「ここは…地下……?」


 上から眺めているので全体図がはっきりと見える。

 いま落下している場所は太陽がある上空ではなく、大きな洞窟の上空だった。野球ドームを丸々入れたような広さをしていて、辺りには精密機器っぽいモノや危なそうな液体が入ったカプセルなど、なにかの実験をしていた形跡がいくつか見られた。


「たぶん、『デウス』の研究所じゃない?」


 なるほど、これでやっと理解できた。俺たちは柵の中を潜ることを発動条件とした魔法に引っ掛かり、デウスを作るための研究施設にワープされたんだ。しかし何かの不具合か仕様か知らないが、その上空に投げ飛ばされていると。

 いずれ島が沈むなら、いったいどこで戦うのか疑問に思っていたが……地下とは考えたな。これなら島が沈もうが関係ないし、残り少ない人数に合った一定の広さに固定可能だ。

 しかし、それならば他のプレイヤーは一体どこにいるのだろうか。先にこの研究施設にワープして戦っているのか、もしくは既に倒し終わった後なのか――


「あーー!!! カイナーーー!!!! よし、殺しますわ!」


「ま、まさか……」


 恐る恐る隣を向くと、数メートル先に俺らと同じように落下しているアルとグレイがいた。

 なんでアルは落ちているのに、こんな堂々とした眩しいオーラを放っているのだろう。あと殺気も飛ばしてくるのをやめてほしい。ただでさえ上空から落ちて怖いのに。


「よおカイナ。少しは強くなったか? じゃなきゃ、うちの女王さんにワンパンされるぜ」


「そんなことさせないし」


 グレイが俺に挑発したが、テルがそれを睨んで跳ね返す。グレイには鋭い目で睨み、アルには……悲しい目で返す。


「アル……私は――」


「わかっていますわ、何も言わなくて良いです。だからこそ、私はカイナを、倒す」


「……カイナは負けない」


 うーん……やっぱこうなるよなぁ。これは、勝たなければならない理由ができた。



「モテモテだな、カイナ」


「立場を変わってほしいなら変わるぞ」


「バカいえ、ブラッド・オーシャンの問題児二人に好かれるなんてゴメンだぜ」


「「なんですって??」」


 息ぴったしに返事をする、お互いに目が笑っていない笑みで。さすがはだよな。

 他にもプレイヤーがいないか周りを見渡すと、3組だけ確認できた。これはおそらく、全ての残りプレイヤーがまとめて移転していると考える。先にワープしようが、後にワープしようが、揃ってからまとめて移転するようゲーム設定していたに違いない。


 ということは、つまり、この研究施設が最終ラウンドというわけだ。


 ついにここまできた、あと8人倒せば優勝、なんとしても成し遂げる。


 決意を新たにしていると、再び視界が歪みだした。これはさっきの柵を超えたときの感覚と似ているので、ワープが始まったということだろう。さすがに落ちてスタートってことはないらしい。


 またワープが始まる前に、一言だけ告げる。


「アル、俺と会うまで負けるなよ」


「その言葉、そっくりそのまま返しますわ」









 こうして、研究施設の上空から落ちていた計10人のプレイヤーは、MDOが始まったときと同じようにランダム配置された。


 その配置完了と同時に、全プレイヤーに各国から通告メールが発信された。



「  『○○○』に通告


 このメールは我が国から送っている。敵からの攻撃ではない。


 どうやら島は完全に沈んだが……何とか生きているようだな、素晴らしい。


 君たちが降り立った場所は研究施設であると予想される。


 さらに今回、我らの偉大なる研究者が重要なデータを入手することに成功した。


 その結果、2つの情報を君たちに報告する。


 1.生き残り人数把握機能

 2.研究施設の説明



 1. 現在、その島で生き残っている敵は10人だ。さらに、研究施設という限られた空間なら残り人数を常に把握できる機能を追加した。経過時間の下に表示されている数字だ。上手く活用してくれたまえ。



 2. その研究施設は様々な魔法が研究に使用されている。辺りに使用可能な魔法が多くドロップしているだろうが、故に予期せぬ出来事が多々発生するだろう。

 特にエリクサーカプセルには気をつけたまえ。下手に衝撃を与えると『爆発』『電撃』『毒ガス』何が起きてもおかしくない。




 以上で通告を終了する。


 おそらく、これが戦場で最後の通告メールとなるだろう。

 

 君たちが最後まで生き延びれば、おのずとデウスが反応して在り処を示すはずだ。



 生きて再び会おう、英雄よ。



 汝の魔法で世界が救われんことを 」

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