第31話 島の中心


 俺とテルは荒野地帯のバーニング兄弟戦を終えてから島の中央に向かって走っていた。海水の水位が上がるスピードはそこまで速いわけではなく、全力で走れば沈まないほどだったが、俺たちはただ走るのではなく、少し悪知恵を働かせた。


「迫りつつある海水と同じスピードで走るって、そうとう性格悪いよ」


「べ、別に、いずれ人が中心に集まるように設定されているなら先に中心地で適当に戦わせて人数を減らしてから最後に倒せば優勝だしあわよくばアルも死んでてくれないかなとか考えていないからね!!!」


「はあ、呆れた」


 海水が迫るということは、それより後ろに敵はいないというわけだ。さらにいえば、必然的にプレイヤーは中心地に向かうよう運営から仕向けられている。これは徐々に少なくなるプレイヤーに対してフィールドが大きすぎる問題を解決するためだろう。こうすることでプレイヤーも視聴者も戦闘を楽しめるというわけだ。


 しかし俺はあえて戦闘を極力避けた。狭くなる安全地帯ギリギリを走ることで


 優勝するのに一切の加減はしない、例えそれが卑怯と言われても。確かに強い人と戦うのは楽しい、しかしこれとそれは話が別だ。やっぱ負けたくないし、優勝はしたい。となると考えられる選択はこれが最善だったと俺は思う。


 仮に俺が優勝したら、きっとアンチが大量に湧くが……うん。許せ。


 あとは……テルに無理をさせたくないので、できるだけ戦闘回数を減らしたい。強敵が来ると、おそらくブーストを使う。そうなるとテルの――


「カイナ、たぶんここが中心地だと思う」


 考え事をしている間に、いつの間にか中心に付いたようだ。ここまで敵と遭遇していないことから、この安全地帯ギリギリを進む戦法は間違ってなかったということだ。しかし……


「な、なにもないじゃないか」


 大きな建物とか、島が沈んでも浮く船とか、なにかギミックがあると思っていたのに、辺りはさら地だった。唯一あるのは、何もない一定区間を囲って『立入禁止』と書かれてある、3メートルほどの高さの柵だけだ。


 なにもしないわけにはいかないので、辺りを捜索してみる。早くしないと島が完全に沈んでしまう。


 島が変形するボタンとかないかな、男が好きそうなギミックで。


「そういえば、火の上級魔法はカイナが持っておく? あれはカイナ向きな気がする」


「確かにな。お互いに魔法の持ち物を整理しつつ探索するか」


 さっきの戦闘では魔法をいくつか消費してしまったが、代わりに強い魔法も入手できた。これらを上手く利用して闘っていきたいものだ。グレイなら頭が良いから魔法は使うのが上手そう……大会が終わったら色々聞こうかな。


「カイナ、ここ柵が破けてる」


 どうやらテルがボタンではなく抜け穴を見つけたらしい。人が通れそうなほどの大きさで、一応中に入れはする、が。


「入っていいのか……立入禁止って書いてあるのに」


 この立入禁止はゲームのバグなのか、それともMDOの設定なのか。しかも島の中心地というのに誰もプレイヤーがいないことが気になる。みんなここに入って死んだんじゃないだろうな……。


「でも入るしかないよ、後ろからは毒の海水が迫ってきているから」


 テルの言う通りである。ここでモタモタしていても結局は海水に沈んで海の藻屑となって負けだ。俺らに残された選択肢は入るか沈むかだ。


「仕方ない、入るか」


 恐る恐る、俺を先頭に進んでいく。本当に何もないので逆に怖い。


「爆発とかしないよな」


「だったら二人まとめてボンッだね」


 呑気に会話していると、突如、視界がグニャリと歪み始めた。


「なんだ!?」


 やはり立入禁止はまずかったのか、しかしあのまま動かないのもダメだろ。


 徐々にまともに立っていられなくなるくらい平衡感覚も悪くなる……


 足が……視界も…………


 まともな思考さえ……できない……


 でも……大事な人は…………忘れない。


「テル、手を!!」


「――ッ!!」


 おれは勘で……テルに手を伸ばす。


 …………テルもそれに応じて手を差し伸べる。


 ……なんとか繋いだ……手は何があっても…………離さない。





 やがてそのまま、瞼を閉じたわけでも無いのに視界が暗くなり――



 ――カイナとアーテルは、島から姿を消した。

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