第39話 勝利のカウントダウン


Aqua水よ!!!」


 アルが魔法を放つ寸前、俺も同じように魔法を放つ。アルが何を発動させようが、初めから唱える魔法は決まっていた。


 結論を言うと、俺は真正面から戦わなくてもよいのだ。アルに操作能力も技術も運も直感も何もかも劣っていることは、これまでの戦歴で明らかだった。ならば後は何の手段が俺に残っているのか、そこを追求した結果、頭脳戦だけは勝てると見出した。アルは基本的に、戦闘で考えることをしない。仲間が指示した行動だったり、自分の直感を信じて行動する。その直感がだいたい正解なのでアルは困ったことがない。テルとチームを組んでいた時も同じような戦闘スタイルだったとテルから聞いていた。つまり、アルと1対1まで持ち込んでしまえば、考えに考えた俺の戦術ならば嵌められるのではないかという結論を出した。


 とはいえ、いくら頭を使って考えても正面から叩き潰せる未来が見えないのはアルのセンス溢れる直感と天賦の才が故だろう。そこで、俺は真正面から戦うのではなく、ソルイグニスの延焼ダメージで徐々にHPを減らしながら逃げ戦うことを決めた。これならば、俺は攻撃について一切思考することなく、ひたすら逃げて避けることに集中すれば良い。


 ここまでしてやっとアルに勝てるかも知れないと希望が見える。正直、あまりカッコいい勝ち方でも褒められる勝ち方でもないが、それがなんだ。負けるよりよっぽどマシだ。これに文句を言えるのはアルを真正面から戦って倒せるプレイヤーだけで、そんなプレイヤーは俺が知る限り片手で数えられるレベルだ。


「逃げるんですの!?」


「はっ、逃げるが勝ちってな!!」


 崩れ崩れに積み重なっていたり、人が隠れそうな瓦礫を走り縫いながら抜けていく。後ろから魔法を当てられないようにするためだ。基本的には真っ直ぐしか魔法は進まないので、この方法で走ればいくらアルといえど簡単には当てられまい。


「よし、このままアルのHPを削って――」


 瓦礫と瓦礫の間、ほんの少しだけ空いた隙間から覗いたその空間から、悪魔と目があった。


 本能的に危険を察した直後、アルが撃つ魔法を避けようと反射的に踵を返したことが間違いだった。


Tonitrus雷よ!!」


 そのまま走り抜ければ次の瓦礫で身を隠せたものの、アルから見えるその空間で踵を返してしまったで身体をさらけ出す時間が僅かだが増え、結果的にアルからトニトルスを放たれてしまう。


「くそが――っ!?」


 いくら姿が見えるとはいえ、少しでも角度が合わなければ射線上の瓦礫に衝突してしまう。そんな角度と距離にも関わらず、何の問題もなく俺に当ててきやがった。


 魔法に当たった瞬間、僅かなHPの減少と共に全身に痺れが走る。逃げなれければならないのに、その場でうずくまってアルが近づくのをただ待つ形になった。


「あらあら、そんなにじっとしていて大丈夫なのかしら」


「ハンデでもあげようかなってね」


 トニトルスの痺れが切れる前に、俺にイグニスを放つことができる距離まで詰められてしまう。


「ふっ、口だけは達者ね――Ignis火よ!!」


 そしてそのまま為す術もなくアルに魔法を撃たれてしまった。


 HPが全体の5割ほどまで減少し、イグニスの爆発による衝撃で弾き飛ばされる。


「落ち着け……落ち着け……。まだHPは残っている。慌てるな、イグニスの反動によって再び空いた距離を有利に活かすんだ」


 やがて地に墜ち、転がりながら受け身を取って即座に身を隠す。そしてすぐにアルの姿を探すが……見つからない。


「は? どこに消え――」


「後ろですわよ」


 その瞬間、背筋に悪寒が走る。


 しかし、即座に思考を入れ替え、ある魔法を発動させた。


Ignis火よ!!」


 当然、背後から魔法を放たれる。


 予想だが、おそらく俺がソルイグニスを放つ前からセットしていたエリクサーカプセルによるワープ魔法だと考えられる。俺が飛ぶ方向を予測してイグニスを放ったと考えたならば、かなり計算高い戦術だ。ということはグレイが考えていてアルに教えていた戦術だろう。


 突然のアルからの魔法に避けることは不可能なので、二度目のイグニスに当たってしまう。ついさっきまで巻き込まれていた爆風に再び巻き込まれ、アルとどんどん距離が離れていく。


 HPは残り1割まで減少し、もう後がない状況まで追い込まれてしまった。


 しかし――


「さあ、あと少しですわ」


「お前もな!!! 喰らえ、Flamma炎よ!!」


 俺はアルからイグニスを当てられる前に予め地面に埋め込んでいった火の上級魔法――地雷魔法を発動させた。


「なッ――!?」


 アルの足元、さきほどまで俺が身を隠すために屈んでいた地面が突如膨らみ、そして大爆発を起こす。


 この魔法は二段階に分けて作動可能だ。まず第一段階は指定した地に魔法を埋め込み、そして詠唱による魔法を発動させれば起動する仕組みだ。一応、地に埋めなくても普通の魔法として発動できる。初めにテルが見つけた魔法だけど、荒野地帯で再度拾った魔法を、ようやく活躍させることができた。


 火の魔法は高火力系が多く、単純な火力魔法だと思っていたが、手に入れた時にまさかの地雷効果もあるって書いてあったので驚いた。

 つまりアルも予想できずに地雷にハマっただろう。爆発の大きさをみる感じだと、かなり威力が高そうだったので、アルのHPも延焼ダメージと加えて残り少ないに違いない。


「やってくれましたわね……」


「お互い、もう後がないって状況だな」


 アルがどこか瓦礫の奥から話しかけてきた。俺も姿を見せることなく返答する。


「ええ……。次に私が魔法を当てることが先か、あなたが逃げ切ることが先か」


「決着の時は、もうすぐだ」


 全力で次の一手を考える。焦るな、勝機はある、何かあるはずだ……っ!!



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