第2話 森林の詮索


「テル!! 伏せて!」


 カイナがゲーム開幕直後、即座にテルに指示を出す。


「了解。周囲の確認ね」


 アーテルは意図を察して樹影に隠れ、その間、周囲に敵がいないか確認しながら自分達の状況を整理する。

 いま彼らは背の高い木が生い茂る森林地帯で隠れていた。軽い斜面がある様子をみると平地ではなく山の中にいるのだろう。何せ真っ暗な待機室からカウントダウンがいきなり始まり、0となり飛ばされるや否や周囲が見渡しにくい森の中にいたのだ。よって、そこでカイナが敵からの奇襲に備えた指示を出した。


 ちなみに今回のMDO、ゲーム内のアバターは自分で作成する人とランダム配布のアバターを使う人の2パターン存在する。

 自分で作成する場合は好みの姿にすることが出来るので人気はあるが、デメリットとして物凄く時間がかかってしまう。さらに技術も必要になってくるので、だいたいの人は専門のプロに作成を依頼する。

 もう一つ簡単に作成する方法は自分のリアルの姿から変換していくことだ。この場合は現実と似てしまうが最も簡単に好みに作成できる。自分の理想の姿を作るだけでいいからだ。

 ランダム配布は自分で変更することができず、さらにハズレが多いということで、多くの人はアバターリセマラをする。しかし今回は一回限りの大会なのでリセマラが出来ない。

 そこでカイナ達は「依頼する金がない」「ランダムはリスキー」という点からリアルアバターを多少なり変換して大会に望んでいる。

 カイナは赤髪をあえて黒に変え、身長を140センチくらいまで縮め、厳つい顔を幼くした。つまり小さい子供が参加しているように見えている。これでまず身バレは防げるし、現実では絶対に体験できないので本人は満足していた。

 一方、アーテルは顔姿格好ほぼ変えていない。変わった部分はメガネを外し髪をショートにしただけだ。しかしアーテルの場合、この変換だけで印象が180度くらい変わるので問題はなかった。いうならば、可愛い顔がしっかり見れるのでカイナは大喜びである。


 しばらく時間が経ち、何も危険がなさそうなのでアーテルが動いた。


「何もなさそうね。とりあえず持ち物の確認と何か情報がないか探そ」


「そうだな……まじで何も分からないからなぁ」


 そう言いながら、カイナは腕に付いた時計型のデバイスを操作する。このデバイスは待機室で手に入れた代物だ。ゲームが始まるまでは何も反応しなかったが、予想通りスタートすると電源が付いたのでMDOで重要な役割を果たしそうだなとカイナは思った。


「とりあえずタップしてるか」


 表面のパネルをタッチすると、デバイスから縦15×横30くらいのホログラムパネルが展開された。さらに視界も切り替わる。

 左上に緑色の細長いバーが1つ。そしてその下に「アーテル」と表示されている緑色バーが1つ。

 そして左下には掌くらいの円があるが、その中心は空洞となっている。

 右上には00:58という秒数が表示され、徐々に増えている。


「たぶん緑バーはHPだな。ここは他のゲームと似ている。右上はたぶんゲームの経過時間だろう。ここまでは分かったけど……左下の円は何だ。さっぱり分からん」


 そこまで確認したとき、テルがカイナに疑問を投げつけた。


「カイナ、デバイスから持ち物を確認してみて。よく分からないモノがある」


 分からないものだらけだな、と思いながら言われた通りカイナがデバイスを操作して確認すると、見たことのない英語表記らしきアイテムが存在した


Ignisイグニス……か」


「うん、ラテン語だね。たしかIgnisって意味だと思う」


「後は……Aquaアクアか。これは水だな」


「ん、私と違う。私は……と、とにうす?」


「たぶんTonitrusトニトルスだな。確か意味は雷だ」


「し、知ってるし。あほ」


「突然の『アホ』頂きましたあざす!」


 端から見たら馬鹿みたいなやりとりだが、周りに誰もいないので本人たちは恥ずかしくとも何も思っていない。しかし実は全国ネットで配信されていることを後から思い出しアーテルは死にたくなったことは数時間後の話である。ちなみにカイナは喜んでいた。


「どうやら配布アイテムはランダムっぽいな……。もしくは相方と違うだけでチーム配布は固定なのか。まあ今考えても仕方ないか」


「そうね。ひとまずデバイスを弄りながら辺りの情報探索しよ」




 まずはゲームの情報を集めることから始めようと考えたその時、突然、敵意のある叫び声が聞こえた。





「いけ! Ignis火よ!!」


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