第33話 悪夢の始まり



 空中を彷徨う浮遊感から解放され、地に足が付いた感覚を味合う。



 視界も徐々にはっきりして、辺りを見渡せるまで回復した。



 そして、まともな思考ができるまで脳が覚醒する――――



「……っ!? テル、状況確認!!」


「大丈夫、近くに敵はまだいなさそう」


 空中からワープし、おそらく眼下にあった研究施設に飛ばされたと認識する。どうやらMDOがスタートした時と同じようにランダム配置されたんだろう。さすがにワープ終了と同時に戦闘ってことはないらしい。もしかしたら他のプレイヤーは偶然同じ位置に配置された可能性もあるが……爆発音や衝撃音が聞こえないので、その可能性は排除してよさそうだ。


 なにせ今回の戦闘フィールド(研究施設)は広いと言い難い。落下中、上から目視で測った感覚だと直径300mほどの円形施設だ。計10人とプレイヤー数は少ないが、遠距離魔法ありきのゲーム、Tonitrusトニトルスくらいなら端から端まで余裕で届きそうだし、300mくらいアルなら当てることだって容易いはずだ。あとは施設の構造やシステムが分かればいいんだが……


「カイナ、デバイスみて。通告メールとマップが改変されてる」


 テルに言われた通りに、すぐさまデバイスを操作して確認する。


 通告メールからは胡散臭い激励の言葉と追加システムについてだった。確認すべく焦点をタイマーの下に持ってくると「10」という数字が追加されていた。これが残り人数だとメールで言っていたので、空中で数えた人数は間違えてなかったということになる。正直、この追加システムはありがたい、残り人数で戦法など考えやすくなったからだ。


 さらにマップの確認も行う。やはりこの研究施設は円型で、さらに中心が一番低いので外側に行くほど中心を見下ろす位置に立つことになる。そして研究施設以外のエリアに移動は不可能らしい。つまり、最後の1組になるまでこの研究施設で戦い抜くということが決まった。もっとよく観察すると、研究施設は全部で3つの区分に分けられていた。


 まず1つ目が観察通路だ。円型の一番外側に、少し高い位置から研究施設をぐるっと囲んでいる通路が張り巡らされてある。全ての壁がガラス張りの窓なので、施設全体を観察することが可能だ。この観察通路は全てを見渡せるので、一見すると有利な立ち位置になると思われるが、一番危ない場所だと個人的には考えている。その説明はいずれ後ほど。


 2つ目が、30cmほどの大きさをした六角柱水晶型のエリクサーカプセルと呼ばれる魔法保管機器が大量にばら撒かれている保管室だ。この保管室はバラバラに配置されている。本当はどこかしらに封印するなり厳重保管なりしていたカプセルだろうが、何者かに襲われた後地かのように荒らされていた。メールではうかつに衝撃を与えると危ないと書いてあったので扱いには注意が必要だ。持ち運ぶには大きすぎるので、投げたりするのが一番の活用方法だろうか……? よく考えるとしよう。


 3つ目が、研究施設の至るところにある空洞部屋と中心の大部屋だ。中には無いもないので、ここは仮説だが、魔法を実験する部屋だったと予想する。いくら魔法を研究したって、それを実験する場所がないと意味がないだろう。


 そして一番の特徴は、全ての部屋や通路がほとんど壊されていることだ。壁に穴は空き、天井は無いに等しい。かなり荒れているので、どこかに身を隠そうにも、どっかしらの位置からは見えるように仕組まれているようだ。おそらく運営が地味な展開にならないよう設定したんだろう、余計なことを……。


 そして俺たちは外側に近い実験室にいた。比較的に壊れが浅い部屋で、しばらくは様子を見てもいいような場所なので、ここから動き出すのを凄く迷う。しかし一番近くの観察通路からは丸見えだし、そこに敵がいないとは限らないので移動しながら身を隠すことがいいだろうか。


「どうする? カイナ」


「うーん、とりあえず他のプレイヤーの動きを見るのが1番かもしれ……」


「……なにかあった?」


「なあ、ここって地下だよな」


 そう、地下だ。島の中心にあったワープ魔法から落ちたときにも確認した。だからありえないはずなんだ、これが見えるのは。


「なんで……なんで、!?」


 上を向くと、この研究施設のはるか上空に、その岩の天井の直下に、巨大な雨雲が覆っていた。色は黒く、誰が見ても危ないと理解できる。


 本能で危険を察し、いますぐ逃げなれけばと考えた時には、すでに遅すぎた。





「みんなまとめて喰らいなさい!!! Nova Rising天の雷槌よ!!!!!」





 どこかしら遠くから聞こえた魔法の呪文が唱えられた瞬間、巨大な暗雲がまばゆい光を放つ。





 その光の直後、





 時間にしておよそ1秒にも満たない落雷砲火の直後、鼓膜を揺るがすほどの爆音が研究施設を揺るがす。


 稲妻の速さは一般的に光速の3分の1程度の速さと言われている。単位に直すと、およそ秒速約10万km。この速さは高速度カメラでも捉えることはできず、一瞬で空から雷が落ちたように見える。


 つまり、いくら優れた性能を持ったアバターといえど、避けることは不可能だ。


 撃たれる前に当たらない場所に、既に避難しなければならない。

 通常の戦闘なら避けることも出来ただろう。相手の挙動を伺い、魔法を予測し、事前に対策する。またはNova Risingの予備現象である暗雲を観測した瞬間に他のフィールドに逃げてしまうのも1つの手だ。


 しかし、今回は魔法を放ったアルとグレイが優秀だった。逃げることのできない制限フィールド、施設の大半の天井が破壊済み、スタート直後の油断と、自分から動きたくないというプレイヤー心理、その全てが噛合い、アルはNova Risingを


 Nova Risingは雷最上級魔法である。一撃でプレイヤーを倒すほどの高火力でない分、範囲の広さと速さは全魔法の中で1番だ。かつ付与効果として一定時間の痺れ、さらにデバイスに損傷を与える。つまり、プレイヤーは一定時間、魔法と武器も使用不可になるという最強の魔法だ。


 ようするに、いま研究施設にいる8人のプレイヤーは痺れており、それが治っても一時的に魔法と武器が使えないのだ。


 突然の落雷後、次は女王と狂犬の殺戮ショーが始まろうとしていた。


「さて、イッツ・ショータイム、ですわ」


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