第37話・父と娘、エルフの集落に到着

 エルフの集落を目指して数日。

 少しづつ、周囲の景色が変化していった。

 

「なんか、森林って感じ」

「ああ。デカい木が多いな……」


 幹の太い樹が多くなり、日差しがあまり差さない場所になってきた。だが、道は変わらず、誰かが通ったような轍があり、田舎の農道のような荒れ道が続いている。

 シルファは何の疑問も持っていないようだ。間違いなくここはエルフの集落に続く道。


『あと数日で到着よ。シルファの故郷には美味しい薬草料理があるから期待しててね』

「ああ。楽しみにしてるよ。最近飲んでばかりだったからなぁ……」

「お父さん、お腹周り心配?」

「……まぁな」


 中年のお腹の肉は落ちにくいらしいと猛は聞いたことがある。酒によるメタボ腹はみっともない……深雪にには見せたくないと感じている。

 すると、シルファが言う。


「止まれ!! ジョロウグモだ!!」

「っと、うわ……なんだあれ」

「キモッ!!」


 上半身が老婆のような体で、下半身は蜘蛛の化け物だった。

 木の上からガサガサと這い出し、猛たちの前に立ちふさがる。

 猛はショットガンを抜いてスピンコック、ジョロウグモに向けて遠慮なくぶっ放し、シルファは空中で風を纏わせた矢を連続で射出した。


『ギュッヒィィィ!?』


 ショットシェルがジョロウグモの下半身を吹き飛ばし、シルファの矢がジョロウグモの上半身を貫通する。そして、あっけなくジョロウグモは絶命した。


「さすがだ。ジョロウグモは本来、数名の冒険者チームで挑む魔獣だが」

「ショットガンのおかげさ。こいつの威力ならどんな魔獣相手でも戦えそうだ」

「あたしの出番はないけどねー」

『ぴゅいーっ』


 ジョロウグモはグロかったが、猛の収納に入れた。ジョロウグモの糸はエルフの集落では高級品らしい。いい土産になるとか。

 解体すれば糸を出す器官を抜きとれるらしいが、猛と杏奈はあまり聞きたくなかった。正直、グロいのはまだ苦手だ。


「魔獣はまだ出てくる。油断するな」

「ああ、わかった」

「今度はあたしだって!」


 バイクは、再び深い森の中へ─────。


 ◇◇◇◇◇◇


 森に入って数日、魔獣との戦闘はかなりあった。

 ジョロウグモと二度遭遇し、巨大なカマキリ相手にショットガンを撃ちまくり、カブトムシのような魔獣にショットガンが効かず、慌てて逃げようとして杏奈が仕留めたり、巨大なオニヤンマが猛を狙って飛んできてシルファに撃ち落されたりと、スリリングな状況が続き……ようやく見えてきた。


「見えた。エルフの集落だ」

「え、マジですか!」

「ようやくか……」


 森の中に、大きな囲いがあった。しかもその囲い、丸太ではなく木々が密集して、天然の防護柵になっている。

 入口付近までバイクを走らせて下り収納。シルファも着地し、三人並んで歩きだす。


『ん~……エルフの集落の空気、美味しいわねぇ~』

「ああ。故郷の香りだ」

「そっか、ここってシルファのお家なんだっけ」

「まぁな。もう数年ほど帰っていないが……」


 シルファは、柵代わりの樹に触れた。


『開け』


 すると、樹がボコボコと地面に埋まり、人が通れるくらいの道ができた。

 猛と杏奈には普通に聞こえたが、普通の呪文ではないらしい。だが、そんなことはどうでみいのか、杏奈は興奮していた。


「わぁ~……ここがエルフの集落」

「すごいな……」


 集落内は、農村に近かった。

 水路に水車、木の家は茅葺き屋根だが立派な造りで、二階建ての家もある。畑や田んぼが多く、家畜の鳴き声も多く聞こえた。港町とは違う、田舎町の香りだ。

 シルファが集落に踏み込むと村人のエルフたちが気が付いた。


「シルファ……シルファウィンドか?」

「おお、シルファじゃないか」

「シルファだって?」「おいおい、五年ぶりくらいか?」

「人間か? 久しぶりに見た」「いや、妙な魔力を感じるぞ」


 一気に村人が集まり、シルファと猛たちはもみくちゃにされる。

 シルファは住人から逃れ、聞こえるように言う。


「ま、待て待て、待ってくれ。用事があってきたんだ。兄上はいるか?」

「ファリオか? あいつなら狩りに出かけた。もうすぐ帰ってくると思うぞ」

「そうか……じゃあ里長、オババはいるか?」

「オババはいつもと同じ瞑想さ。歳をとるとやることが変わらなくなってくる」

「わかった。じゃあ、私の家に行こう。兄上が帰ってきたらオババの元へ案内しよう」


 村人たちから離れ、猛たちはシルファの家へ向かう。

 シルファの家は茅葺屋根の二階建てだった。シルファはドアを開け、猛たちを中に招き入れる。


「茶を出そう。座ってくれ」

「ああ、お邪魔します」

「お邪魔しま~す。なんかレトロでいい感じだね」

「こら、失礼なことを言うな」

「はは。ゆっくりしてくれ」

『あたし、村を散歩してくる! クウガも行こう!』

『ぴゅいーっ』


 プリマヴェーラは、クウガと一緒に窓から出て行った。

 猛は止めようとしたが、杏奈が杖を振る。


「大丈夫、クウガに防御の魔法かけたから。ショットガンが直撃してもノーダメージだよ」

「それはさすがに物騒すぎる……」


 エルフの集落で栽培された緑色の液体……なんと緑茶だ……を飲み、シルファの兄を待つ。どうやら、オババとやらに会うには、シルファの兄ファリオの許可が必要らしい。

 茶を飲んでいると、シルファがピクリと反応した。


「─────む、来たか」

「シルファ、帰ったか」


 ドアを開けて入ってきたのは、シルファそっくりの青年だった。

 肩には、少年のような妖精を乗せている。


「お久しぶりです兄上。そしてウィンカース」

『久しぶりじゃんシルファ、プリマヴェーラは?』

「プリマヴェーラは、久しぶりに故郷の風を浴びに出かけました」

『ふーん。まぁ後でからかってやるか。なぁファリオ!』

「よせ、ウィンカース……それより、客人か?」

「はい。こちらの男性、タケシから依頼を受けまして、五年ほど前に集落に来た人間の話を聞きたいようで、オババに謁見を求めています」

「なるほど……ちなみに、その人間とどんな関係だ?」


 猛は、シルファの兄ファリオの目を見て言った。


「妻かもしれないのです。どうか、オババに会う許可をお願いします!!」

「お、お願いしますっ!」


 猛は立ち上がり、思いきり頭を下げた。

 杏奈も立ち上がり、猛と同じように頭を下げる。


「ふむ、なかなか礼儀正しいな」

「でしょう? 私もそこが気に入っています」

「ふ……シルファが気に入るとはな。いいだろう、今日は旅の疲れを癒していけ、明日、オババに合わせよう」

「あ……ありがとうございます!!」


 猛は再び頭を下げた。

 これで、深雪に一歩近づいた。あふれる喜びで猛は満たされた。

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