第41話・父と娘、船旅

 エルフ族の港から船に乗り、一等客室に案内された。

 オババの紹介状の効果は絶大で、船着き場の乗組員に見せただけで扱いが変わった。シルファは何も感じていなかったが、猛と杏奈は驚いた。

 一等客室というだけあってかなり広く、ベッドは四つもありシャワーやトイレ、テラスデッキまで完備されていた。


「すっごい! ここで10日間、船の旅ね!」

「あまりはしゃぐなよ」

「うっさいなー……わかってるし」

「ふふ、アンナはまだ子供だ、仕方あるまい」


 収納から荷物を出し、猛はさっそく備え付けの椅子に座る。

 クウガは猛の肩からテラスの柵に移動し、海を見つめていた。


「ふぅ……」

「お父さん、船の中を見て回ろうよ!」

「元気だなお前は……シルファ、付き合ってやってくれないか?」

「ああ。私もこの船に乗るのは久しぶりだが、下の階層には飲食店もあったはずだ。せっかくだし甘味でもどうだ?」

「行く! 食べる! タピオカとかある?」

「た、たぴ……? いや、ないと思うが……」

「じゃあ行こう! 早く早く!」

「お、おい、押すな」


 杏奈とシルファは出て行った。

 若者のエネルギーは半端じゃない。そう思い、シルファが2300歳だったことを思い出す。猛はまだ38歳で枯れてはいないが……やはり、体力は落ちている。

 すると、なぜかプリマヴェーラが猛の肩に座る。


『タケシ、お疲れねー』

「ああ。って、お前は行かないのか?」

『うん。海の上って風が温くて気持ち悪いのー……やっぱり陸の風が一番よ』

「そうなのか? じゃあクウガの相手でもしてやってくれ」

『いいよー』


 猛は、テラスデッキに移動する。

 潮風は心地よく、太陽の光も眩しい。今更気付いたが、船はとっくに出航していた。エルフ族の港がもう小さく見える。

 柵の下を見ると、水車のような車輪が回転し、水上を走行している。帆もなく進む理由があの水車で、駆動術のすごさを猛は改めて知った。


『ぴゅうるるる』

『クウガ、どうしたの?』

『ぴゅいーっ!!』

『わわわっ!?』

「クウガ……!? おい、クウガ!!」


 少し目を離した隙に、なんとクウガが飛んでしまった。

 それはもう立派なグリフォン。大空を雄大に飛ぶハヤブサのように、翼を広げて飛んで行った。

 プリマヴェーラが慌てて後を追い、クウガと並んで飛ぶ。

 

「…………」


 まさか、飛ぶとは思っていなかった。

 確かに、クウガは幼毛が全て抜け、身体も大きくなった。立派な羽も生えたし、飛びたいのか翼をバサバサさせたり、短い距離を飛ぶことも多くなった。

 だが、今のクウガは立派に飛んでいる。プリマヴェーラと一緒に、大空を飛んでいる。


「おぉ……」


 猛は、感動した。

 親に捨てられ、兄弟に負けていじけていたクウガが、大空を舞っている。

 このままどこかへ飛んで行ってしまうのか……そう思ったが、クウガは戻ってきた。

 猛は反射的に右手を上げると、クウガは止まり木代わりの右腕に着地、そのまま猛に身体を擦り付けて甘えてきた。


「こいつ……ちくしょう、やるじゃねぇか」

『ぴゅうるるる……』

『クウガ、もう立派なグリフォンだね! 真っ白だけど』

「身体の色なんてどうでもいい。なぁクウガ」

『ぴゅいーっ!』


 クウガは、飛んだ。

 この日、純白のグリフォン・クウガは、空を飛んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 その日の夜、杏奈とシルファにクウガのことを話した。


「え!? クウガが飛んだの!?」

「ああ。立派に飛んだ……なぁ、プリマヴェーラ」

『うんうん! クウガってばすごかったよ、あたしも一緒に飛んだけど、ぴゅいーって飛んだの!』

「ふむ。色が白いのは変異種ということか……」


 シルファは、猛の肩にいるクウガを見ながら言った。

 杏奈が首を傾げる。


「へんいしゅ?」

「ああ。動物や魔獣に稀に生まれる個体でな。通常の生体と違い、異なる成長をする場合がある。クウガの場合、色が違うというだけで他のグリフォンとの差異はないと思うが」

「ま、わかりやすくていいだろう。なぁクウガ」

『ぴゅるる』


 クウガは喉を鳴らした。

 グリフォンは頭がよく、人間の言葉を理解できるらしい。『気にしていない』と鳴いたような気がしないでもない。

 猛は収納からトカゲ肉を出し、クウガに食べさせる。


「飛べるようになった次は、狩りの訓練だな」

「それなら私に任せてもらおう。風エルフは狩りが得意だ。クウガ、いいだろうか?」

『ぴゅいーっ!』

『あはは、いいってさ。シルファにお任せ!』

「そうだな。よしシルファ、クウガに狩りの仕方を教えてやってくれ」

「ああ。だが、船は聖王国の港に入港する。王国外に出ないと借りは難しいだろう」

「大丈夫。深雪を探しながらやればいい」

「……わかった」


 聖王国ホーリーまであと10日。

 船旅は、順調に進み……ついに聖王国に到着した。

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