第42話・父と娘、聖王国ホーリーに到着

 聖王国ホーリーの港は、湖の町とは桁違いに大きく、停泊している船も巨大な物ばかり。港だけで町一つくらいの広さはある。

 大型のガレオン船からは、観光客らしき人が乗り降りしいているのば見える。猛たちの乗っている船も立派だが、他のに比べるとやや見劣りした。

 大型船から下り、聖王国に入国した。ここでも、オババの紹介状が役に立つ。


「オババ様ってすごいんだねー」

「ああ。風エルフの象徴的存在だからな。聖王国にとっても重要人物に当たる」

「本当に助かってる……いつか礼をしに行こう」

「そうだな。待っているぞ」


 深雪を連れて───そう言わなかったのは、今の深雪がどんな暮らしをしているかわからないからだ。結婚して子供がいる可能性だってある。安易なことを言うと、それが現実のような気がしてしまい、猛は何も言えなかった。

 だが、ようやく到着した。

 深雪の情報があると思われる、聖王国ホーリー。


「今まで行ったどこよりも大きい~……これは観光しがいがあるね!」

「ああ。人の多さといい、建物の大きさと言い、大都会って感じだ」

「タケシ殿、アンナ、ここには大陸最高の大聖堂がある。あとで見に行こう」

「そうだな。とりあえず、宿を探そう」

「うん! お父さん、お金は大丈夫?」

「もちろんだ」

「待て、宿泊代は私が出そう。実は兄上から、素材料金をもらってきた。私の護衛料金を差し引いても、あれだけの素材はエルフの集落ではお宝だ。気持ちばかりだが……」

「そ、そんな。確かに俺が倒した魔獣もいたが……ほとんどはシルファが倒したものだろう」

「以前も言ったが、素材を運んだのはタケシ殿だ。私一人ではいくら倒しても素材を持ち運べない。あれだけの量を運べたのは全て、タケシ殿のおかげだ」

「いやしかし「まーたやってるもう!! お父さんは頑固すぎ!!」……す、すまん」


 相変わらず遠慮しまくる猛に、杏奈がキレた。

 結局、宿泊費はシルファが持つことになった。

 港から出て、城下町を歩く三人。クウガは猛の肩に、プリマヴェーラは杏奈の頭の上に座っていた。


「とりあえず、王国の中心付近に宿を取ろう。そこから深雪の情報を探す」

「探すって、どうすんの?」

「忘れたか? 深雪は元冒険者だ。それに、冒険者仲間の名前も知っている……聞き込みをすれば、きっと情報がある。狙いは年配系の冒険者だ」

「わぁお、お父さん冴えてるじゃん!」

「ふふ。船の中でずっと考えていたからな」

「私も協力しよう。多少だが、私も名が知れているからな」


 希望が見えてきた───猛の歩みは力強い。

 杏奈は町の様子に夢中だった。大きな建物に様々な露店、中世後期の街並みは趣がありつつも、どこか都会的な喧騒があり、いろいろな建物からいい匂いまでする。


「ねぇねぇ、お腹減ったよぉ」

「待て待て。宿を確保してからだ」

「ふふ、アンナは正直だな」

『あたしもお腹減った~……アンナ、甘いの食べたいよね!』

「うんうん! プリマヴェーラ、ケーキ食べよ!」

『ぴゅるる……』

「お前も腹減ったのか?……仕方ない、早く宿を探そう」


 猛たちは、急いで宿を探し始めた。


 ◇◇◇◇◇◇


 宿を取り、さっそく町へ出た。

 飲食店、貴金属店、武器防具屋、道具屋にパン屋……少し視線を変えただけで、いろいろな店が目に入る。まさに大都会ならではだった。

 だが、それよりも驚いたのが……。


「あれが大聖堂か……」


 聖王国ホーリーは、王城の他に大聖堂がある。

 驚いたのは、王国の中に巨大な岩山があり、その頂上に巨大な聖堂があることだった。大聖堂までの移動手段は駆動術によるロープウェイらしい。

 

「眺めはさぞ絶景だろうな」

「ああ。聖王国ホーリーに来たら、誰もが一度はあそこに登る。駆動滑車の料金は一人5万ドナと高いが、それに合う価値はある」

「ほぉ……」

「ちょっと二人とも! 空見上げてないでご飯!」

「杏奈、あの大聖堂を見てみろよ。地球で言うサグラダファミリアが、あんな大きな崖の上に立ってるんだぞ? 登ってみたいと思わんのか?」

「どーせ行くからいいよ。それよりごはん!」

『ごはん!』

「全く……アンナはともかく、プリマヴェーラもか」


 猛とシルファは苦笑し、近くのカフェに入った。

 ランチ時だったが空いている。席に座り、本日のおすすめランチを頼んだ。

 店員は羽の生えた人……翼人だ。ここにはいろんな種族がいるので珍しくない。


「確認だ。冒険者ギルドで情報収集、深雪の情報を探す」

「その前に大聖堂、だね」

「ああ……っておい」

「別にいいでしょ?」

「…………はぁ」

「タケシ殿の負けだな。よし、食事が終わったら大聖堂に行こう」

「……わかった」


 猛は、運ばれてきたお冷を一気に飲み干した。


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