第43話・父と娘、大聖堂へ

 聖王国ホーリー、大聖堂。

 見上げるほどの巨大な崖の上に立つ、風格ある聖堂だ。地球で言えばサグラダファミリアとでも言えばいいのか、どうやって建築したのか気になるところ。

 猛、杏奈、シルファは、駆動術で動いているロープウェイに乗って、大聖堂を目指していた。

 料金は高いが、大聖堂は見る価値がある。猛としては一刻も早く深雪を捜索したいのだが、杏奈とシルファの押しに負けた結果でもある。


「わぁ~……すっごいいい景色。このロープウェイ、すごいね」

「ロープウェイ? 魔導滑車というのだが……」

「あ、見て見てクウガ! クウガが飛んでる!」

「お、本当だ」


 クウガはこの魔導滑車に乗せることができなかった。

 すると、猛の肩から飛んで行ってしまったのだ。だが、どうやら猛たちの魔導滑車と平行して飛ぶことにしたらしい。魔導滑車の屋根の上に着地したクウガは、実に堂々としていた。


「頭のいいやつだ……」

「可愛いしね」

「ふふ、タケシ殿に似ているのかもな」

「えー」

『ねぇねぇ窓開けて、あたしクウガのところに行ってくる!』


 大聖堂へ向かう魔導滑車は30分ほどかけて崖の頂上まで登る。

 その間、魔導滑車から下界の様子が見える。まるでミニチュアの町みたいで、杏奈は興奮して窓に張り付いた。


「すっご~い……高い」

「景色も素晴らしいが……見ろ」

「おおぉ……」


 猛は、感嘆の息を漏らす。

 下ばかりに気を取られていたが、上を見ると大聖堂がはっきり見えて来た。

 大きく、芸術的な大聖堂。建物自体が一つの作品のような優雅さで、高級感を感じつつも、どこか情緒ある雰囲気だ。

 杏奈も下から上を見ると、猛と同じように驚いた。


「自然の物ではない美しさというのも素晴らしい……エルフにはないものだ」


 そう言うシルファも、大聖堂に見とれていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 魔導滑車から降り、大聖堂を見上げる3人。

 クウガも猛の肩に戻り、プリマヴェーラが杏奈の頭に寝転がる。

 観光客や聖堂で祈りを捧げる人たちが多く、猛たちも人の流れに沿って進んだ。


「お父さんお父さん、お母さんが見つかるようにお参りでもしたら?」

「聖堂でお参りっていうのか? お祈りだろ?」

「細かっ……お父さん面倒くさいよ」

「いや、俺が悪いのか!?」

「まぁまぁ、二人ともあまり騒ぐな。神の降臨する場所で騒ぐのはマナー違反だぞ」

「す、すまん」

「ごめんなさい……」

「ふふ。それよりアンナ、ここには大聖堂だけでなく、軽食屋もいくつかある。喉が渇いたし、一緒に行かないか?」

「え!! 行く行く。お父さんは?」

「俺はいい、先に行ってるよ」

「はーい。じゃあシルファ、一緒に行こう!」

「ああ、っと、引っ張るなアンナ!」


 結局、シルファも騒がしかった。

 クウガは猛の肩から飛び、大聖堂の上で旋回を始めた。どうやら飛ぶのが気持ちいいらしい。

 というわけで、猛の相棒が変わった。


『じゃ、行こっか!』

「ああ。って、お前はいいのか?」

『うん! 大聖堂のが面白そうだしね!』


 プリマヴェーラは猛の肩に座る。

 仕方なく、一緒に大聖堂の中へ。入場料でも取られるかと思ったが、特に何もなく中へ入る事ができた。


「すごい、これしか出ない……」

『天井高いね~』

 

 大聖堂は広く、天井が高い。

 かなりの大きさを誇る大聖堂だが、中はスカスカで、見上げるととんでもなく高い天井しか見えない。豪華だが古いステンドグラス、歴史を感じさせる壁画など、相当に古いということしか猛にはわからなかった。


『あ、あっちにおっきな像がある……お祈りしたら?』

「そうだな。せっかくだし」


 プリマヴェーラが指指す先に、高さ10メートルはありそうな像があった。

 礼服を纏い、手には錫杖を持っている。髭の生えた逞しい男性の像だ。


「これは?」

『さぁ? あたし、ここに来たことないからわかんない』

「おいおい……」


 像は聖堂内にいくつかあり、女性の像もあれば魔獣のような像もあった。

 祈りを捧げたり、像に触れて何か呪文を唱えている人もいる。魔獣の像には獣人があつまり、弓を構えた長耳の銅像には、エルフたちが祈りを捧げていた。


「とりあえず、祈っておくか?」

『テキトー……あ、あそこに修道女がいる。話を聞いてみたら?』

「む」


 プリマヴェーラが指差した先には、真っ白な修道服を着た若い女性シスターがいた。修道女は何人かいるが、白い修道女服を着たのは彼女だけだ。

 猛はさっそく声をかけた。


「すみませーん……ちょっといいですか?」

「はい」

「えっと、この像の名前を知りたいんですけど」


 白い修道女は優しく微笑み、猛の元へ。

 プリマヴェーラが肩に座っているのを見て、少し驚いていた。


「この像は『想像の神ルシド』です。この世界を作りだした、偉大なる神」

「ブッ……る、ルシドですか」

「はい。とても有名な神様ですよ」

『創造神ルシドねぇ……ふつーのおじさんじゃん』

「んー……もっと若いと思うんだけどなぁ」

「あら? お会いしたことがあるのかしら」


 修道女はクスクス笑う。

 猛は頬をポリポリ掻き、曖昧に笑った。

 修道女と一緒に像を見上げていると、背後から声が聞こえた。


「おとうさーん、いたいた」

「アンナ、静かに。しーっ……」

「わわ、ごめんなさい」


 杏奈とシルファが来たようだ。

 猛と修道女は振り返り、猛は軽く手を上げ――――。




「え――――――、ミユキ?」




 白い修道女が、何かを言った。

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