第45話・父と娘、知りたかった真実

 杏奈の買い物に付き合い、シルファと飲み歩き、聖王国の外でクウガの訓練をしたり、プリマヴェーラのおねだりに屈してお菓子を買い与え、シルファに叱られたりと、あっという間に四日が経過。大聖堂のシスターに話を聞く日がやってきた。

 この四日、猛はずっと悶々としていた。

 深雪の手がかりが目の前にぶら下がっているのに、触れることのできないもどかしさ。だが、ようやく四日……気持ちの整理もある程度付いた。

 宿の部屋で杏奈が言う。


「お父さん、変なこと聞かないでね。基本的に喋るのはあたし、お父さんは付き添いだから」

「わかっている。お前も、深雪のことを頼むぞ」

「ん……シルファも、お願いね」

「ああ。わかった」


 修道女は、シルファに憧れているところがあった。

 ちなみに、修道女の名前はエミリー、エルフの集落でオババが言った名前と一致する。

 もしかしたら、深雪の居場所がわかるかもしれない……。


「よし、行くぞ」

「うん」


 猛たちは、修道女と待ち合わせをしているカフェに向かう。


 ◇◇◇◇◇◇


 大聖堂の見える崖下に、立派なカフェテリアがあった。

 そこに、修道服を着ていない修道女エミリーの姿があり、杏奈を見つけると手を振ってくれた。たった数十分話しただけなのに会う約束まで取りつけた杏奈は、改めてすごいと感じる猛。


「エミリーさん、今日はよろしくお願いします!」

「ふふ、私なんかの話でよければ。シルファ様もよろしくお願いします」

「いや、私も引退した冒険者の話を聞くのは初めてだ。今後の参考にさせてもらう」

「わ、私なんかの話が役に立つとは思えませんが……」


 エミリーは、猛を見て頭を下げる。

 猛も、深雪のことを問いただしたい気持ちを押さえ、挨拶した。


「はじめまして。杏奈の父で猛と申します」

「はじめまして。元冒険者にして、今は修道女のエミリーです。アンナさん、素敵なお父さんと一緒に冒険者をやっているのね」

「素敵かどうかはねぇ~……けっこうおっちょこちょいですし」

「おい、杏奈……」

「ふふ、冗談冗談。ねぇねぇエミリーさん、ここのカフェってどんなところ?」

「じゃあ、さっそく中に入りましょうか」


 一行は、カフェテリアの中へ。

 窓際のいい席が空いていたので座り、飲み物を注文する。

 窓の外を見ると、クウガとプリマヴェーラが仲良く飛び、近くの民家の屋根に着地した瞬間を猛は見た。

 飲み物が運ばれ、一口……杏奈はさっそく質問した。


「エミリーさんって、どんな冒険をしたんですか?」

「そうね……危険なことも多かったけど、遺跡調査や洞窟調査ばかりをしていたわ。私の仲間で勉強好きな子がいてね、その子が勝手に依頼を受けて、仲間たちが付いて行くってパターンが多かったわね」

「へ、へぇ~……」


 猛の心臓が高鳴る。

 ごまかすようにカップを傾けるが、やや手が震えていた。

 その後も、エミリーの話は続く。杏奈が絶妙な質問をし、エミリーは疑問の答えと当時のことを踏まえた話をする。そんな会話が数十分続いた。


「エミリーさんの昔の仲間って、今も冒険者なんですか?」

「ううん、みんな引退したわ。クリントは冒険者組合の組合長に、ロッズは家業を継いだし、シェイナはお金が貯まったから、長年の夢だったパン屋を開いたし─────」


 猛の鼓動が高鳴る。

 そして─────。




「ミユキは、実家の宿屋を継ぐために帰っちゃったし─────」




 実家、宿屋。

 この世界の深雪の実家。実家は宿屋。場所は。

 様々な情報が猛の頭の中を巡る。

 深雪は、宿屋。この国なのか、それとも違うのか。


「へ、へぇ~……いい仲間だったんですね」

「ええ……また会いたいわ」

「あの、それで、宿屋ってどこの宿屋ですか? この国ですか?」

「え?」

「えっと、あたし……冒険者やってた人の話を聞いてみたくって」

「ふふ、勤勉ねぇ。そんな真面目な子、私の頃にはいなかったわ……みんな血の気が多くて、魔獣狩りだのダンジョンだの」

「あはは……」


 杏奈も、ドキドキしていた。

 母親の記憶なんてない。でも、猛が恋焦がれている母に、会えるかもしれないのだ。

 エミリーは二十代後半ほどの年代だろうか。深雪もそのくらいか、あるいは下か、上か。杏奈にそっくりだと言う深雪が、近づいてくる。


「ミユキは、聖王国ホーリーから西に進んだ町で宿を経営してるわ。もともと料理好きだったし、あの子の作る料理、どれも見たことない物ばかりでね……きっと繁盛しているわ」

「そう、ですか……あの」

「なぁに?」

「その……ミユキさん、って……」


 杏奈は、この質問がこれまでの旅を台無しにしてしまうかもしれない、そう思った。

 でも、聞かなくてはならない。




「ミユキさんって─────け、結婚、してますか」




 ブルっと、猛の腕が振るえた。

 エミリーは、『なんでそんなこと?』と言わんばかりの表情だった。

 少し考え込み、口を開く。


「確か、ミユキは「おい! ここに高位冒険者のシルファウィンド様はいるか!!」


 恰幅のいい男が、カフェに怒鳴り込んできた。

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