第10話・父と娘、コボルト親子と会話
「すまん、入っていいかね?」
「あ、はい。どうぞ」
猛はドアを開け、コボルトたちを室内に通した。
親子だろうか。大きな旅の荷物が入ったリュックを背負うコボルトと、身長が杏奈と同じ位のコボルト、そして女性らしい服装のコボルトだ。
ジロジロ見過ぎたのか、コボルトの一人がククッと笑う。
「コボルトが珍しいかい?」
「あ、いえ、そういうわけでは……申し訳ない、長い間、山で娘と生活していたので、獣人に会うのが初めてなのです」
「ほぉ、そうなのか」
大きなリュックを降ろしたコボルトの一人。
薄汚れたコートにマフラーをしている。どこか紳士を思わせる。
猛は、獣人たちになれる必要があると実感する。失礼な視線は相手に不快感を与えてしまうだろう。
「私は猛、あちらは娘の杏奈です。よろしくお願いします」
「タケシとアンナか。私はコボルトのアラン、娘のシェイニーと妻のドロミアだ。これからコボルトの集落に商談に向かう途中でね、家族旅行がてら向かっている」
「コボルトの集落、ですか?」
「ああ。ここから馬車で三日ほどの距離にある」
すると、娘のシェイニーがアランの袖をグイグイ引いた。
「お父さん、そろそろ」
「ん、ああそうか。夕食の時間だな」
「夕食……」
猛は、アンナを見た。すると、自信満々そうんひウンウン頷く。
どうやら、作った料理に自信があるようだ。
「あの、よろしければご一緒しませんか? 娘の作った料理でよろしければ」
「む、いいのかね?」
「はい。それと、お酒もありますので、出会いに乾杯というのはどうでしょうか?」
「ほ! お酒とはありがたい。ぜひご相伴に預からせてもらおう。それと、いただいてばかりでは申し訳ないので、家内も腕を振るわせましょうか」
「そうね。シェイニー、手伝ってちょうだい」
「はい、お母さん」
ドロミアとシェイニーは、荷物からエプロンを取り出し、さらにいくつかの食材を準備してキッチンへ向かった。
人懐っこい杏奈は、迷わずキッチンへ。
「あの、よかったら見学していいですか? コボルト料理ってどんなのか興味あります!」
「ふふ、いいわよ。シェイニー、干しトカゲ肉を」
「はーい」
「あ、あたし杏奈! よろしくね、シェイニーちゃん!」
「え、あ、う、うん。わたし、シェイニー」
キッチンからは楽しそうな声が聞こえてくる。杏奈の打ち解ける才能は、間違いなく妻の深雪から受け継いだ物だと猛は思う。
猛は出しておいたカバンに手を突っ込み、収納から酒瓶を取り出す。いかにもカバンにあった酒を取りだしたようにように見えたはず。
「ははは。隠さなくても大丈夫。私も収納持ちですよ」
犬歯を覗かせながら笑うアランは、イヌ耳をパタパタさせる。どうやら、猛の小細工はあっさり見破られたようだ。
猛は苦笑し、木製カップを2つ準備して丸太の椅子に。
「調理はまだかかる。先に温まりますかね」
「おお、いいですな」
猛はカップをアランに渡し、タックが選別にと山ほどくれた酒のコルクを開け、アランのカップに注ぐ。そして、瓶をアランに渡すと、同じように注いでくれた。
カップを持ち上げ、軽く合わせる。
「出会いに」
「出会いに」
ドワーフの酒は……なかなかキツかった。
◇◇◇◇◇◇
杏奈、シェイニー、ドロミアの女性陣が、豪華な料理を運んできた。
杏奈の作った煮込み料理、コボルト料理だろうか、トカゲの干物肉をカリカリに焼いたおつまみ、イモを練って焼いた団子などだ。
「ほぉ、煮込みか……美味そうだ」
「美味しいに決まってるしー、シェイニーちゃんも遠慮しないで食べてね、あたしも遠慮しないから!」
「うん、ありがとうアンナちゃん」
いつの間にか、杏奈とシェイニーは仲良くなっていた。前から気になっていたが、杏奈は異世界慣れしているように感じる猛。
だが、今は食事が先だ。
子供のカップには果実水、大人のカップには酒を注ぐ。
「では、改めて……出会いに」
「かんぱいっ!」
コボルト親子との食事が始まった。
猛とアランは酒を飲みながら、つまみ代わりに料理を食べる。
「おお、このトカゲ肉、美味いですね」
「このカリカリ焼き、酒によく合うのですよ」
トカゲ肉のカリカリ焼きは香ばしく、口の中でサクサク砕け、つまみにはもってこいだ。猛とアランは止まらない。
「ちょっとお父さん、あたしの作った煮込みを食べてよー!」
「ああ、悪い悪い。では…………うん、美味い。味もしっかり出てるし、すっごく美味いぞ!」
「よっし! へへへ……」
アランたちコボルト親子も、杏奈の煮込み料理を食べていた。
肉と野菜を煮込み、驚いたことに味噌で味を付けた味噌煮込みだ。これもつまみにはもってこいだ。
「うむ、美味しいよ、お嬢さん」
「本当、素晴らしいわ」
「アンナちゃん、料理上手なんだね」
「えっへへ~……なんか、照れますな」
頭をポリポリ掻く杏奈は、とても嬉しそうだった。
◇◇◇◇◇◇
酒が入ったことで遠慮も消え、互いの話をするアランと猛。
ドロミアは男二人の間で話を聞きながらお酌をして、杏奈とシェイニーはお腹いっぱいになったのか、暖炉の前でキャッキャと話をして盛り上がっている。
猛は、タック秘蔵のウイスキーを飲みながら言う。
「私は、妻を探していまして。娘と二人、この世界を旅しているんです」
「ほぉ……奥さんはどのようなお方で?」
「娘と同じ濡羽色の髪、ふふ、娘に生き写しですよ」
「そうですか……黒髪とは、なかなか珍しい。私も何度か黒髪の人間に会いましたが、皆男性でしたな」
「そうですか……まぁ、旅を初めたばかりですので、旅を続けながらのんびり探します」
「そうですか……何か、力になれれば」
「ありがとうございます。お気持ちだけいただいておきます」
1つだけ、わかった。
この世界では、黒髪の人間があまりいないということ。それがわかっただけでも、猛にとっては大収穫だ。
ドロミアがウイスキーを注ぎ、アランがガブッと飲み干す。
「ふぅ……美味い。ところで、私は商人でしてな。コボルトの集落に商談を兼ねた旅行をしているのですが、もしご予定がなければ、ご一緒にどうですかな?」
「コボルトの集落、ですか?」
「ええ。実は、年に一度のコボルト祭りが開催される予定でして、その日はコボルトだけでなく、人間の旅人も多く集まります。有力な手がかりを得られるやもしれません」
「なるほど。コボルト祭りですか「行きたいっ!!」っと、杏奈?」
杏奈が、猛の背後から現れて叫ぶ。
杏奈の隣にはシェイニーがいる。すっかり打ち解けたようだ。
「お父さんお父さん、コボルト祭り行きたい!」
「わかったわかった。落ち着け落ち着け」
「やたっ、シェイニーちゃん、一緒に遊ぼうね!」
「うん!」
「ははは、シェイニーもいい友達が出来たようですな」
「そうですね。よし、杏奈。次の目的地はコボルトの集落にするか」
「うん!」
本来のルートから外れるが、猛と杏奈はコボルト親子と一緒に、コボルトの集落へ向かうことになった。
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