第12話・父と娘、コボルトの集落へ向かう。

 冒険者の小屋を出発した猛たち一行。

 向かうはコボルトの集落。ちょうどお祭りの時期らしく、いろいろな催し物も開催されるらしい。土産話にはもってこいのイベントだ。

 馬の代わりに馬具をつけられたマックスの引く荷車は、猛の運転するバイクと並走している。速度もなかなか早く、猛は驚いた。


「なるほど、このスピード……」


 荷車を見ると、タイヤにゴムが使われている。

 タイヤのシャフトは木と金属で補強され、衝撃を吸収するゴムも使われている。恐らく、犬が引く前提で作られた荷車で、それなりのスピードを出しても大丈夫なように設計されているようだ。

 だが、ゴムタイヤと言っても猛のバイクのように洗練されたゴムタイヤではない。樹液を固めただけのような素材だが、ただの木輪よりはましだろう。

 すると、荷車の御者席に座っていたアランが言う。


「どうかなされましたかなー!!」

「いえー!! 初めて見る荷車だったのでー!!」


 ガラガラと荷車が地面を走る音、猛のハーレーのエンジン音が響き、喋るのにも大きな声を出さなければならない。

 荷車には屋根も窓もある。杏奈の様子は伺えないが、きっとシェイニーやドロミアと一緒に楽しくおしゃべりでもしているだろう。


「それにしてもー!! 不思議な乗り物ですなー!!」

「そうですかー!?」

「はいー!! 鉄の馬など初めて見ましたー!!」


 車上で話をするのは難しい。インカムでもあればなぁと思うが、そこまで贅沢は言えない。拳銃やショットガンがあるだけでも嬉しい。

 

『うぉうっ!!』

「ん? ああ、排ガス臭いか? 悪い悪い」


 マックスのやや前を走ったおかげで吠えられた。

 どうやら、排気ガスが臭かったらしい。この平和な異世界で排気ガスを出す乗り物に乗るのは少しばかり心が痛む……だが、神様は許してくれるだろう。


「時速40キロ……けっこう出てるのに、マックスは疲れないのか?」


 マックスは、時速40キロで走っている。だが、疲れを見せるどころか楽しそうに走っている。猛はマックスの近くで並走する。


『うぉん!!』

「ん、どうした?」

「ははは。『なかなか早いな、お前』と言ってますよー!!」

「あ、あはは……」


 どうやら、マックスには意外と気に入られたようだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 マックスと並走していると、杏奈が荷車から顔を出した。


「あーっ!! なんかお父さん楽しそう!!」

『うぉんうぉうっ!!』


 どうやら、マックスと並走する猛が楽しそうに見えたらしい。

 猛としては、意外に左右にブレるマックスに当たらないように気を遣っている。先に進むとマックスが煙いと鳴くし、後ろに下がるとアランが心配する。

 杏奈は杖を取りだし、自分の身体をポンポン叩く。


浮遊レビテト! それっ!」

「お、おい杏奈っ!?」


 杏奈は荷車から飛び降りると、ふわーっと浮いて猛のハーレーのタンデムシートに、背中合わせで乗った。


「マックス、やっほー♪」

『わぉんっ!』

「えへへ、ねぇお父さん、マックス可愛いねぇ。あのさ、うちらの旅にもペット枠が必要だと思わない?」

「お前は何を言ってるんだ。というか、魔法があるからって危ない真似はやめなさい」

「はいはい。で、ペット枠だけどどうする? あたしとしては、肩に乗せられるくらいのリスとか、小動物系がいいなぁ」

「……?」


 ペット枠とは何か、猛には理解できない。

 どうやら、娘と父だけの旅では不満らしい。可愛いお供が欲しいということだが。


「ダメだ。お前、動物の世話なんてしたことないだろう?」

「うっ……まぁ、そうだけどー」

「生き物を飼うってことは、最後まで面倒を見るってことだ。お前にその覚悟はあるのか?」

「あ、あるって! 異世界のあたしは家でのあたしと違うんだからっ!」

「ふーん……掃除洗濯料理もせず、家に帰るなりスマホ片手に部屋に引きこもるお前がねぇ」

「うっぐぅ……」


 グゥの音も出ない杏奈。猛の正論に打ちのめされてしまった。

 確かに、洗濯機も回さないし洗濯物も干さない。自分の部屋しか掃除しないし、料理を作ったのだって冒険者小屋が初めてだ。

 

「い、異世界転移でペット枠は必要なの! お願い!」

「よくわからんが……まぁ、考えておこう」

「やった!」


 結局、娘のお願いには弱い猛であった。


 ◇◇◇◇◇◇


 しばらく進み、お昼が近づいてきた。

 アランの案内で進んでいたので地図を確認していない。だが、整備された道の先には森がある。その手前で止まり、アランが下りてきた。


「この森を抜けて二日ほどの距離に、コボルトの集落はあります。ここで休憩して森を抜ければ、冒険者の小屋があります。今日はそこまで進みましょう」

「わかりました」


 今日のお昼は、焼きトカゲとふかし芋だ。

 朝、朝食の準備と一緒に、女性陣がお昼の支度を済ませていたようだ。ふかし芋は冷めても美味しく、焼きトカゲは冷えた方が美味しく感じた。


「ふむ、一杯飲みたくなる味ですな」

「同感です……」


 アランと猛は苦笑するが、杏奈の冷たい視線が刺さる。


「飲酒運転」

「わ、わかってる。そんなことしない」

「ま、いいけどね。ここは異世界だし、信号もケーサツもいないしねー」

「ダメだ。飲酒運転は絶対にしない。バイカーのルールだ」

「あの、タケシ殿。ばいかー? とは?」

「え、ええと、この乗り物を乗る人……は、俺だけか。ええと」


 昼食は、楽しく終わった。

 杏奈は再び荷車に乗り、シェイニーと話で盛り上がっている。どうやら、日本の物語を話したり、この異世界の物語を聞かせあっているようだ。

 猛は再び一人でバイクに乗り、薄暗い森の奥を眺める。


「あの、アランさん。魔獣とかは出ますか?」

「出ないとは言い切れませんな」

「…………」


 猛はショットガンに弾を込め、拳銃の位置を確認した。


 ◇◇◇◇◇◇


 猛の予感は当たった。

 森に入って進むこと三十分……マックスと猛は停止した。


「な、なんですか、あれは……」

「不味い……あれは」


 森の道幅は広く、大型バス二台が並んでも走れるだろう。だが、その道を塞ぐように、何匹もの大きな『赤い蜂』がブンブン飛んでいたのである。

 大きさは黒板消しくらいだろうか。日本ではまずお目にかかれないサイズで、猛は不快感で身体が震えた。


「あれは『吸血蜂』ですな。獲物に針を刺して麻痺毒を撃ちこみ、そのまま針の先端で生き物の血を吸う魔獣です」

「……似たようなのと遭遇したな」


 血吸い綿毛は大きいが生物感のない災害だったが、この吸血蜂は違う。

 まだ、猛たちを視認していないのか、道を塞ぐようにブンブン飛んでいるだけだ。


「アランさん、どうしますか?」

「簡単です。突っ切りましょう!」

「え?」

「奴らは巨体である故、通常の蜂よりも飛ぶ速度は遅いです。マックスなら刺される前に振り切れるでしょう。幸いこの森は一本道、猛殿、その乗り物は速度に自信がおありですかな?」

「……もちろんです。マックスには申し訳ないですが、俺のが速いですよ」

「ほっほ! なるほど……」

『グゥルルルルルルルッ!!』

「ははは、マックスもやる気十分ですな。では、ここらで競争といきますか?」

「いいですね……」


 アランと猛はニヤッと笑う。すると杏奈がいつの間にか窓から顔を出していた。


「じゃ、いくよ。よーい……ドンッ!!」

『うぉうっ!!』

「行くぞっ!!」


 猛とマックスは、同時に走り出した。

 走り出すと、吸血蜂が一斉にブンブン飛んでくる。だが、バイクとマックスは吸血蜂を振り切り、そのまま直進する。

 マックスも速いが猛のハーレーはもっと速い。アランは「おおっ!?」っと驚き、マックスは猛を追いかける。


「はっはは!! 気持ちいいっ!!」


 森の香りが猛の鼻に突き刺さる。緑の匂いと土の香りが素晴らしい。

 走ること二分、猛は気が付く。


「ん?……おいおい、こっちもか!!」


 なんと、横から吸血蜂が迫ってきた。

 どうやら、横の森から来たらしい。このまま突っ切ることもできるが、ここで猛を見失えば、この吸血蜂は後ろのマックスを狙うだろう。


「なら……こいつだ!!」


 猛はショットガンを抜き、スピンコックで弾を込める。そして、そのまま真横に向けて引金を引いた。

 吸血蜂はバラバラに弾ける。再度スピンコックで装填し、反対側に飛んでいる吸血蜂を打ち落とす。


「ははっ、いいぞ!!」


 バイクとショットガン。猛は調子に乗っていた。

 後ろからこの様子を見ていたアランたちは、猛におどろく。


「いやはや、凄まじいですな……!!」

「お父さん、カッコつけすぎ~」

「アンナちゃんのお父さん、すっごくカッコイイね!」

「シェイニーちゃん、それ本人に言っちゃダメね」

「あ、そろそろ森を抜けるわ。アラン、タケシさんに言わないと」

「おお、そうだな」


 森の出口まで、あと少し。



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