第17話・父と娘、グリフォンのクウガ

 猛は、ヒナの状態を確認する。

 ヒナ同士の喧嘩でどこか怪我をしていないか確認したが、それらしい傷はない。ふわふわもふもふの身体も、翼も、どこかしょんぼりしている顔も無事だ。

 とりあえず、ウェルカムサービスの果物が入った籠の中身を出し、部屋備え付けのクッションを敷いてヒナを置いた。


「大丈夫か? 参ったな……鳥のヒナなんて飼ったことないぞ」

『ぴゅい、ぴゅい、ぴゅい!』

「な、なんだ? 腹減ったのか?」


 見た目はハヤブサなので肉食なのか? と頭を抱え、とりあえず部屋で食べようと買ったトカゲ肉を収納から出して、ヒナに近付けてみた。


「うおっ」

『ぴゅいぴゅい、ぴゅいぴゅい!』

「はは、もっと寄越せってか」


 ヒナは勢いよくトカゲ肉をがっつき、猛の指まで齧ろうとした。

 こうしてみると、なかなか可愛い。

 子犬ほどの大きさで、全身が真っ白な羽毛に覆われている。トカゲ肉をあげながら身体に触れると、とてもふわふわしていた。


「さて、こいつをどうするか……」


 まさか、巣に戻すわけにはいかない。

 親がどういう理由でこのヒナを捨てたのかはわからない。だが、このヒナは間違いなく、親に捨てられたのだ。しかも、猛の目の前で。

 拾ってしまった以上、このまま置いておくわけにはいかない。どうにかしなければ……。


「たっだいまー! お父さん、アランさんが遊びに来たよーっ!」


 すると、杏奈が帰ってきた。

 シェイニーと、アランを連れて。


 ◇◇◇◇◇◇


 杏奈、アラン、シェイニーの目に付いたのは、やはりヒナだった。

 特に、杏奈は真っ白なモフモフに目を輝かせている。


「な、なにこれなにこれっ! もっふもふ、まっしろ! かわいいぃぃぃぃっ!」

「こら、興奮するな。いらっしゃいませアランさん、シェイニーちゃん。この度はこのような素晴らしい宿を手配していただき、誠に感謝しています」


 猛は立ち上がり、深々と頭を下げた。

 シェイニーはオロオロし、アランは目を見開く。


「いやはや、ずっと感じておりましたが、実に礼儀正しいお方ですな。感謝は不要です、よろしければ一杯とお誘いに上がったのですが、どうやら何かあったようですな」

「ええ、その」


 猛の視線の先には白いモフモフのヒナがいる。

 杏奈がシェイニーを呼び、満腹になってどこか眠そうなヒナをつんつんしていた。


「アランさん、相談に乗ってほしいのですが」

「はい。お聞きしましょう」


 猛はアランにソファを勧め、自分が見た光景を話す。

 ヒナ同士の喧嘩、負けたヒナが巣から落とされた、猛がちょうどそれを拾ったということ。

 ヒナを見たアランは言う。


「なるほど。これはグリフォンですな」

「グリフォン? ですか?」

「はい。グリフォンは気高い生物でしてな、生まれたばかりの子同士を戦わせ、生き残った者だけを育てるのですよ」

「え……じゃあ、こいつは」

「はい。負けたのでしょうな。親グリフォンにとって、敗者は必要ない弱き者という扱いです。恐らく、もう勝者であるヒナを育てることしか、頭にないでしょう」

「そんな……」


 猛は、バスケットの中でスヤスヤ眠るヒナを見た。

 すると、杏奈が言う。


「お父さん、この子を飼おう!」

「お前、またそんな思い付きで」

「思い付きじゃないよ。この子、親に捨てられちゃったんでしょ……? 親がいない寂しさを、あたしたちで埋めてあげようよ」

「…………」

「あたしにはお父さんがいるけど、この子にはもう親はいないの。それって、すっごく寂しいと思う……ね、お願い」

「…………」


 猛は、ヒナを持ち上げる。

 子犬サイズのグリフォンのヒナ。成長すれば大鷲ほどのサイズになり、白い羽毛も立派な茶色に変わる。顔つきも凛々しくなるだろう。

 グリフォンのヒナは起き、猛を見ていた。


『ぴゅい、ぴゅい、ぴゅい!』

「お前は、捨てられた」

「お、お父さん……」

『ぴゅいぴゅい、ぴゅい!』

「強い者だけが生き残る弱肉強食の世界じゃ仕方ない。負けたお前が悪い。お前の親は、お前のことを忘れて、真の強者であるもう一羽のヒナを立派なグリフォンにするため、立派に育てるだろう」


 アランも、シェイニーも、杏奈も黙っていた。

 厳しい言葉が理解できるのか。でも、ちゃんと言い聞かせる猛。


「でも、お前はこうして生き残った。本当は次なんてないはず。お前は捨てられて、そのまま死ぬはずだった。でも……こうして俺が拾って、生きている」

『ぴゅいぴゅい! ぴゅいぴゅい!』

「強い奴は強い。負けを知らないお前の兄弟は、立派なグリフォンになるだろう。でも、生き残ったお前は『敗北』を知った。いいか、負けを知ってる奴は絶対に強くなる。勝ち続けるのは難しいけど、負けて立ちあがって戦い続けるのはもっと難しいんだ」

『ぴゅい……』

「いいか、お前は俺が立派に育ててやる。成長して、大空を自由に舞うグリフォンとしてな」


 猛はグリフォンのヒナを掲げた。

 少しクサいセリフだったかなと苦笑する。


「名前。そうだな……空我クウガ、お前は今日からグリフォンのクウガだ」

『ぴゅいぴゅい!』


 こうして、猛と杏奈の旅にペット枠が、グリフォンのクウガが加わった。





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