第28話・父と娘、森を抜ける
森ゴブリンを倒した翌日。
猛たちは、順調に森を進んでいた。
道中、森ゴブリンが再び襲ってきたが、戦闘に慣れた猛と杏奈、シルファの三人の敵ではない。ショットガンで葬り、杏奈が守り、シルファの精霊術で難なく倒す。
「お父さんのショットガンすごいねー、ゴブリンを吹き飛ばす瞬間はグロいけど、威力は半端ない!」
「そうだな。ショットガンもだが、ハンドガンも使いやすい。片手撃ちは反動がすごいけど、意外と当たるもんだ」
「あはは。弾切れの心配もないしね。異世界っぽくないけど、お父さんにはピッタリかも」
「ははは。異世界か……まぁ、日本社会じゃこんな経験はできない。俺も少し興奮してる……やれやれ、自分がこんなに若いとはな」
「は? お父さんまだ38でしょ? 若い若い」
「そりゃどうも」
杏奈もバイクの揺れに慣れたのか、タンデムシートに背中合わせで座り、クウガのバスケットを開けてクウガをモフモフしていた。
風妖精のプリマヴェーラは、猛の肩に座る。
『そのショットガンとかいう武器、すごい威力ね』
「だろう? そう言えば、この世界に火薬はないのか?」
『カヤク? なにそれ』
「……ないようだな」
ショットガンは、オーバーテクノロジーのようだ。もちろんハンドガンも。
人目を気にしすぎかもしれないが、なるべくなら親しい間の人以外に見せないほうがいい。猛はそう考えた。
一方、上空のシルファも、猛たちの会話を聞いていた。
「確かに、タケシ殿の武器もすごいが……」
シルファとしては、杏奈の『マホウ』に興味があった。
亜術、精霊術、法術、元素術、駆動術と、この世界には不思議な力がたくさん溢れている。シルファの精霊術だって、使える者は少ないが、誰でも知っている物だ。
元素術や法術は触媒を必要としたり、条件が整わないと使用はできない。亜術も同様で、身体に刺青を掘り祝詞を唱えたりと条件がある。
だが、杏奈の『マホウ』は、その条件がない。
ただ杖を振り、短い単語を唱えるだけ。しかも『マホウ』の規模は杏奈の好きに設定できるのだ。これほど素晴らしく、恐ろしいことはない。
もし、森ゴブリンを阻んだ壁を一般的な法術師が張ろうとするなら、黄金に匹敵する触媒に最低10日以上の祈りと詠唱を必要とする。
もしかして、あの杖に秘密があるのかと思い、杏奈に見せてもらったが……音楽家の使うただの指揮棒だった。
ちなみに杏奈は魔法の杖と信じ、ただの指揮棒だとは気付いていない。
「アンナの『マホウ』……ふふ、2300年生きても知らないことは多いな」
シルファは高度を下げ、楽しげに会話する猛・杏奈・プリマヴェーラに合流した。
◇◇◇◇◇◇
慣れたと言っても尻は痛い。
森に入って四日ほど経過。野営にも慣れ、森の中腹地点まで来たようだ。
休憩のため、バイクを止めて水を飲む。
「あれから森ゴブリンが何度か出たが、タケシ殿たちなら心配ないようだ」
「ああ。俺たちも慣れてきたよ」
「そだね。お父さんのショットガン大活躍かも!」
「ふっ、そうだな」
猛は嬉しそうに水を飲み、ショットガンに弾を込める。
少し小腹が空いたので、コボルトの集落で買った串焼きを五本取り出し、杏奈に一本、シルファに二本渡す。シルファの二本はプリマヴェーラ用だ。
「すまないな」
『やった、ありがとー!』
シルファとプリマヴェーラは串焼きを齧り、猛はクウガのバスケットを開け、肉をほぐしてクウガに食べさせる。
『ぴゅいぴゅい、ぴゅいぴゅい!』
「はいはい。そんなにがっつくなよ」
あっという間に一本分完食すると、バスケットの中でバタバタ暴れる。なので、バスケットから出し、バイクのシートに乗せると、クウガはバサバサと翼を動かした。
何度も何度も翼を動かすので、もしかしたらと見ていると……。
『ぴゅいぴゅい! ぴゅいぴゅい!』
「おい、まさかこいつ」
「飛びたいのかな……?」
『ぴゅいーっ!』
すると、翼を動かすクウガの身体が、少しだけ浮き上がり……すぐに落ちた。
クウガは、少しだが飛んだ。生後一か月も経過していないのに、もう飛んだのである。
「そういえば、グリフォンは二か月ほどで飛べるようになり、親から狩りを習って、半年もすれば自立するってアランさんが言ってたな……」
『ぴゅいーっ!』
「クウガすっごい! モフモフ、モフモフ!」
『ぴゅぅぅ……』
杏奈は、クウガを抱きしめモフっていた。
シルファとプリマヴェーラは特に驚いていない。異世界人だから、グリフォンのことは知っているからだろう。
「グリフォンの成長は早い。もしかしたら、エルフの集落に到着する頃には、飛べるようになっているかもな」
『あーあ。このモフモフも立派な羽になっちゃうのかぁ』
子供の成長は早い、そういうことだ。
◇◇◇◇◇◇
それから二日が経過。森に入って六日目のことである。
「お父さん逃げて逃げて!」
「わかってる! 舌噛むなよ!!」
猛のバイクは、大型の鹿みたいな魔獣に追われていた。
凶悪なまでに枝分かれして反り返ったツノ、ぎっちぎちに筋肉を詰め込んだ脚部、顔はシカだが、なぜか牙が生えている。
この森は庭なのだろう、木々を避けながら猛たちの背後に迫っている。
『ジャイアントカリブーよ! 凶悪な肉食魔獣、やばいわね』
「シルファは!?」
『……偵察に行ったのが仇になったわ。呼んだけどあと数分はかかる!』
油断だった。
あと一日の距離まで来て、油断していた。
森ゴブリン以降、魔獣は出なかったので、ついついシルファは猛たちから離れ、偵察に出てしまったのだ。猛たちの実力を見て、気が抜けてしまったのかもしれない。
猛は後ろを見る余裕がなかった。
必死に障害物をよけながらバイクを走らせるが、このままでは追いついてしまうだろう。
イチかバチか、ショットガンで頭をぶち抜けないかと考える。
「じゃ、ここはあたしが。
ショットガンを抜いてスピンコックで装填した瞬間、カリブーの首が飛んだ。
杖を構えた杏奈が、風の刃でカリブーの首を切断したのだ。
不可視の風の刃はカリブーにも、猛やプリマヴェーラにも見えなかった。
「お父さん、あたしのこと忘れてるでしょ」
「あ……」
「あたしの魔法なら問題なし! あっははは!」
ジャイアントカリブーは、あっさりと倒された。
◇◇◇◇◇◇
「申し訳なかった!」
シルファは、土下座する勢いで頭を下げた。
ちなみに、ジャイアントカリブーの死体は収納に入れてある。こいつもいい値段で売れるとのことらしい。
「だ、大丈夫大丈夫。杏奈のおかげでなんとか切り抜けたから」
『ほんっと……マホウってなんなの? あんな威力の風の刃、シルファだってそう簡単に使えないわよ?』
「ふふふ、これが魔法です!」
呆れるプリマヴェーラと、未だに頭を上げないシルファ。
「と、とりあえず。先の様子はどうだった?」
「あ、ああ。森を抜けるまで半日ほど、次は山越えになる。危険な魔獣も少ないし、問題なく進めるだろう」
「よし、じゃあ今日中に森を出よう。次は山道だし、早く森を出て休もうか」
「そうそう、シルファさん、森を出たら今日は休もう。あたし、お腹減っちゃった」
「……わかった。正式な謝罪はまた後日。今は森を出よう」
「ああ」
完全に納得はしていないが、なんとかシルファの謝罪を終わらせた。
猛はバイクに跨り、杏奈もタンデムシートに座る。
「杏奈、ありがとうな。助かった」
「うん。お父さん、もっとあたしを頼っていいよ?」
「そうだな……よし、これからは背後の敵はお前に任せる」
「任された!」
半日後……猛たちは、ようやく森を抜けることができた。
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