第39話・父と娘、エルフの集落にさよなら

 オババの家を出た猛たちは、集落の中央広場にやってきた。

 広場にはエルフ族の屈強な男たちが集まっている。これは事前にファリオが集めたもので、これから猛が収納から魔獣を取り出すのだ。


「よし、魔獣を出しますね。えーと……」


 ジョロウグモ、巨大な赤い牛、黄色いトラ、緑の大蛇……出るわ出るわ、猛とシルファが狩った魔獣の死骸が、集落の中央に積まれていく。

 エルフの男たちは感嘆の息を漏らし、魔獣を全て運んで行った。一人一人が猛に礼を言い、大きな手で背中をバシバシ叩いていく。


「よし、魔獣は終わり。次はシルファ、きみにここまでの護衛料金を支払おう」

「わかった。では家まで来てくれ」

「タケシ殿、本当にすぐ出発するのか……?」

「はい。深雪のいる場所がわかったかも知れません。ジッとしてられないんです」

「やれやれ……」


 ファリオがため息を吐き、シルファをチラリと見た。


「兄上?」

「……いや、とりあえず家に行くか」

「はい」

「あーあ……エルフの集落、もっと見たかったなぁ」

「杏奈、深雪を見つけたらまた来よう」

「んー」

『ぴゅるるる……』


 杏奈をなだめ、シルファとファリオの家へ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


 シルファとファリオの家に入ると、クウガがクッションの上まで飛んで収まった。もうヒナとは呼べない姿になり、立派なグリフォンと言える……が、身体は純白のままだった。

 クウガがクッションに収まると、プリマヴェーラとウィンカースがさっそくじゃれつく。


『くぅぅ~、気持ちいいなコレ』

『でっしょ? あたしベッドだったの!』


 妖精のじゃれ合いは置いて、猛は収納から依頼料金を出し、シルファに手渡した。


「依頼料だ。シルファ、今まで世話になった……ありがとう」

「いや、私も楽しかった。お前たちに出会えてよかった」

「シルファさぁん……もうお別れなの?」

「ああ。契約はこれで終わり、私の役目も終わりだ……アンナ、楽しかったぞ」

「うぅぅ……」


 杏奈はシルファに抱き着くと、シルファは杏奈の髪を優しく撫でる。

 一月ほどだったが、シルファとの旅はとても楽しく、勉強になった。

 マホガニー商店の仲間たちと同じ、この世界でできたかけがえのない仲間だ。


「あー……そのことだが、タケシ殿、シルファ、アンナ殿」

「「「?」」」

「シルファ、聖王国ホーリーまで、タケシ殿を護衛してやりなさい」

「え……」

「これはオババ様からの命令だ。タケシ殿が想い人と再会するのを見届けろ、とな」

「え、えぇぇっ!?」

「え、じゃあシルファ、一緒に行けるの!?」

「ああ。タケシ殿、アンナ殿、シルファを護衛として再び雇ってもらえないだろうか。報酬はもちろんいらない……と言いたいが、あれだけの魔獣を無償で提供してもらったんだ。シルファの護衛料金として十分にもらった」


 猛は、頭をポリポリ掻く。


「そりゃありがたいけど……シルファ、いいのか?」

「む……オババ様の頼みなら聞かなくてはならん。エルフとしてな」

「やった!! じゃあ一緒だね!!」

「ああ。ふ……再び、よろしく頼む」

「ああ。こちらこそ」


 猛とシルファは、ガッチリと握手した。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 一時間後、旅の支度を終えた猛たちは、エルフの港へ向かう街道の出口にいた。

 クウガは猛の肩に、プリマヴェーラはシルファの肩に、ウィンカースはファリオの肩に座っている。


「…………お供、欲しい」


 杏奈が何か言っていたが、猛は聞かなかったことにした。

 

『プリマヴェーラ、またな。風の祝福と共に』

『ウィンカース、またね。風の祝福と共に』


 そう言って二人は抱き合い、キスをした。

 この二人が恋人同士と知ったのはついさっきのことで、杏奈がやけに興奮していた。


「シルファ、無茶はするなよ」

「心配無用です、兄上。プリマヴェーラが付いていますし、タケシ殿もなかなか強い。そう簡単に遅れは取りません」

「そうか。シルファ、風の祝福と共に」

「はい。兄上。風の祝福と共に」


 兄妹も抱き合い、別れを惜しむ。

 結局、エルフの集落には一日しかいなかった。だが、ここまで来た苦労に匹敵する情報を得ることができた。

 ファリオと離れたシルファが言う。


「さぁ、目的地はエルフの港だ。そこから船に乗って、聖王国ホーリーを目指そう」

「ああ。シルファ、案内は任せる」

「今度は魔獣出たらあたしも戦うからね!」


 聖王国ホーリー、そこに深雪の手がかりがある。


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