第23話・父と娘、町に到着
「でさ、シルファさんは『風エルフ』っていう種族なんだけど、他にも『炎エルフ』、『水エルフ』、『土エルフ』っているみたい。それぞれ『四大精霊』っていうすごーい精霊の神様がバックにいるんだってさ」
「バックってお前……秘密組織じゃあるまいし」
「プリマヴェーラちゃんは、『風の大精霊』さんの子供みたいな存在だって。いいなぁ、あたしもお供の妖精が欲しいー」
「クウガがいるだろ」
「クウガはお父さんのお供でしょ! クウガが成長したらハヤブサみたいになるんでしょ? バイクと並走させたらカッコいいと思うけどなー」
「…………」
「あ、いいかもって思ったでしょ?」
「…………まぁ、な」
猛と杏奈は、背中合わせで会話していた。
バイクを運転する猛に、タンデムシートに座る杏奈。そして今は、上空から猛たちを護衛するシルファとプリマヴェーラがいる。
「空を飛ぶのすごいねー」
「お前もできるんじゃないか?」
「まぁできると思うけど、やっぱり慣れないと怖いし」
「前はバイクごと空に吹っ飛ばしたじゃないか」
「あれはテンション上がってたから……今思うと、けっこう無謀でした」
「…………」
今更ながら、猛も背筋が冷たくなった。
◇◇◇◇◇◇
現在、バイクは何もない平坦な街道を走行中。
大きな町と町を結ぶ道は国によって整備され、道を外れる町や集落に続く道は、その町で道を整備しなくてはならない。国道と県道のようなものか、と猛は思った。
アスファルト舗装されているわけではないが、なかなかの道だ。天気も良く風も心地いい。絶好のツーリング日和だ。
「タケシ殿、アンナ、疲れていないか?」
「うおっ」
シルファが、上空からスイーっと下り、猛のバイクと並走する。
まるで某国民的漫画の舞空術だなと猛は思う。
バイクを止めると、シルファも地面に下りた。
「俺たちは問題ない。それより、シルファさんは疲れてないのか?」
「ああ。精霊術は魔力や体力を消費しない。精霊の力を借りているからな」
「いいなぁ、精霊……」
『悪いけど、精霊はエルフとしか契約しないの。ごめんね~』
「むぅ」
杏奈はクウガの籠を開ける。
「ん~……可愛いけど、魔法使いの使い魔って感じじゃないし……やっぱりあたしのお供を探すべきね」
「む……タケシ殿、アンナ、少し待っててくれ」
シルファは急上昇し、ものすごい勢いで先に行ってしまった。
ポカンとしていると……五分もしないうちに戻ってきた。
「あの、どうしたんですか?」
「いや、風が教えてくれたのだ。この先に危険な魔獣がいるとな。だから、先に行って狩ってきたのだ」
「え」
にっこり笑うシルファに、猛は頬を引きつらせる。
「風が教えてくれるってかっこいいですね!」
「そ、そうか? だが、この先はもう安心だ。先に進もう」
再びエンジンをかけ、前進する。
10分ほど走ると、街道のど真ん中で、巨大なサーベルタイガーが首を斬られて事切れていた。
「こ、これは……」
「キラータイガー。街道に現れては馬車を襲い、人間や馬を捕食する魔獣だ」
「でっか……牙すっご」
「タケシ殿、もし収納に余裕があるなら、この魔獣も収納してくれないだろうか。こいつの素材は金になる」
「わ、わかりました」
なんとなく、コボルトの集落で買った食べ物やお土産と一緒の空間に収納するのは嫌だったが、シルファの頼みなので収納する。
右手をキラータイガーにかざすと、あっさり収納された。
「ほぉ……かなりの規模の収納だな」
「自分でも驚いてます」
「お父さん、収納係だね」
「うるさい」
驚くのは猛の収納ではなく、この大きさの魔獣をたった一人で討伐したシルファだ。
シルファは、五分ほどで戻ってきた。猛のバイクでも10分かかる距離をたった五分……つまり、数分でバイク10分の位置まで進み、数分で討伐、また数分で戻ったことになる。
「シルファさん、強いんですね」
「はは、精霊のおかげさ」
『ふふーん!』
その後、特に凶悪な魔獣は出現せずに、町に到着した。
◇◇◇◇◇◇
町が見えてきた。
街道沿いにある、やや大きな町だ。
コボルトの集落とは違い、人間の町という雰囲気がする。何気に、町に入るのは初めてだったりする猛と杏奈。
町から少し離れた場所でバイクを収納し、カバンとクウガのバスケットを持って歩き出す。すると、シルファも地上に降り、一緒に歩き出した。
「あたしたち、旅行中の家族に見えるかな」
「俺やお前はともかく、シルファさんは無理だろう。種族が違う」
「ふふ、アンナは面白いな。ところでタケシ殿、鉄の馬には乗らないのか?」
「鉄の馬……ああ、バイク。あれは目立つので、人前では乗らないようにしてるんです」
「なるほどな」
杏奈は、肩掛けカバンに杖。猛は、リュックにクウガのバスケットを持ち、ズボンにハンドガンを挟んでいる。シルファは大きな弓とカバン、矢筒に短剣という、冒険者スタイルだ。
家族には見えないが、ギリで旅行者には見えるだろうか。
「杏奈、あまりはしゃぐなよ」
「はいはい」
「シルファさん、申し訳ないが……案内をお願いします」
「もちろんだ。まずは冒険者組合に依頼の完了報告を出す。その後、護衛依頼を正式に依頼してくれ。そのあとは、解体場に向かって、キラータイガーを買い取ってもらおう」
やることが決まり、三人は町へ。
町の入口には検問所があり、簡単なチェックを受けてから入るようだ。
だが、ここで驚いた。
検問所には、鎧を着た兵士数名が通行人のチェックをしていた。猛たちも列に並んだが、一人の門兵がシルファを見て、慌てて駆けよってきたのである。
「し、シルファウィンド様! お疲れ様です!」
「ああ。お疲れ様」
「そちらの方々は……?」
「友人だ。少し前に再会してな……これから依頼完了の報告をする。通らせてもらうぞ」
「はっ!! どうぞ!!」
なんと、列を無視して通行できた。もちろん、猛と杏奈も。
並んでいる人に文句を言われると思ったがそれもない。皆、シルファを見て頭を下げたり、目をキラキラさせていた。
「シルファさん、人気者みたい!」
「そうだな……」
ひそひそと杏奈が言うと、クウガのバスケットがパカッと開き、クウガをベッドにしているプリマヴェーラが言う。
『この町、できて300年くらいだけど、町の出資にシルファが関わってるのよ。町長の屋敷にはシルファの銅像もあるのよ?』
「し、シルファさんすごっ! まさかの開拓者……」
「三百年……エルフはすごいな」
前を歩くシルファは、不思議と輝いて見えた。
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