第26話・父と娘、エルフの集落へ出発

 シルファに紹介してもらった宿で一泊し、猛と杏奈はゆっくり休んだ。

 夜、酒を飲みに酒場に向かう猛に、シルファに懐きいろいろな話を聞く杏奈。クウガはご飯を食べると翼をパタパタ広げ、プリマヴェーラはクウガが気に入ったのか、よくちょっかいを出して遊んでいた。


 そして翌日。

 朝食を食べ、出発の準備が整ったので、宿の前でシルファが地図を広げる。


「まずは町の北門から出てしばらく進み、森の入口まで進もう。森の入口近くに冒険者の小屋があるから、今日はそこで一泊する。森に入るのは明日以降だ」

「わかった。ルートは……この街道沿いか」

「ああ。比較的広い道で魔獣も殆ど出現しない。だが、油断は禁物だ」

「よし。ではシルファさん、改めて」

「待て。少し思ったが、タケシ殿は私の依頼者だ。敬語で話す必要はない」

「……わかった。じゃあシルファ、護衛を頼む」

「ああ、任せてくれ」


 娘のような年頃の少女に敬語を使わなくていいというのは、猛にとってもありがたかった。なので、遠慮なく杏奈と接するような態度で話す猛。

 すると、プリマヴェーラと話していた杏奈が言った。


「じゃあさ、あたしもシルファって呼んでいい?」

「もちろん、かまわんぞ。アンナ」

「じゃあ……シルファ、よろしくね!」

「ああ。二人とも、よろしく頼む」


 猛と杏奈の二人旅に、風エルフのシルファと風妖精のプリマヴェーラが加入した。

 目指すのはエルフの集落。そこに、深雪である可能性が強い女僧侶がいたという。エルフの集落の長なら、当時のことを詳しく知っているはず。

 どんなに可能性の低い情報でも、深雪に繋がる可能性があるなら、そこに縋る。


「では、行こうか。杏奈、シルファ」

「ああ」

「よっし! クウガ、プリマヴェーラ、行こう!」

『ぴゅいぴゅい、ぴゅいぴゅい!』

『久しぶりにいい風だわ。楽しい旅になりそう!』


 猛たちは、町の北門に向けて歩き出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 北門から町に出て少し歩き、人気がないことを確認して、猛はバイクを召喚した。


「よし、今日も新品同様」

「ほんっと、キラキラのままだねー」

「ああ。新品なのは嬉しいが、使い込まれた感が出ないのは寂しいな……」

「お父さん我儘すぎー、ってか、新品のがいいじゃん」

「女にはわからんよ。年代を重ねたハーレーの良さはな」

「あ、それ差別!」


 猛は、新品のハーレーをチェックする。

 どう見ても新品。汚れ一つもなければ、全てのパーツが輝いている。やはり、多少の汚れや泥臭さは欲しい。我儘だと知りつつも猛は苦笑する。

 

「各部チェック……よし、杏奈、クウガのバスケットを取りつけ」

「終わったよー」

『ぴゅいー』

「よし。さて、エンジン点火……」


 手慣れた順序で猛はハーレーを弄り、キックペダルに足を掛けて思い切り踏む……すると、猛にはたまらない重低音のエンジンが唸りを上げ、命が灯る。


「よし、今日も元気だ」

「ふむ……いつ見ても不思議だ。これは駆動術なのか?」

「……駆動術?」

「ああ。亜術や法術とは全く違う体系の術でな、物質を操作する術だ」

「うーん、違うと思う。これは……技術だな」

「ギ術……私も聞いたことがないな」

「あ、いや……」

「もう、いいから出発しようよー!」

「わかった。じゃあシルファ、護衛を頼む」

「任せろ。行くぞプリマヴェーラ」

『はいはーい!』


 シルファとプリマヴェーラは空を飛び、猛はハーレーに跨り、ショットガンに弾を込め、ハンドガンをチェックする。


「お父さん、護衛」

「わかってるけど、一応な」

「あたしもいること忘れないでね」

「ああ。でも、お父さんに任せなさい。こういうのは親の務めだ」

「はいはい」


 チェックが終わり、猛はサングラスをかけて、バイクは走り出す。

 今日もいい天気。街道も均され揺れが少なく、上空を飛ぶシルファとプリマヴェーラも気持ちよさそうだ。


「お父さん、上見ちゃダメだからね!」

「ん、ああ……なんでだ?」

「いいから!」

「わ、わかった」


 猛は知る由もなかったが……シルファ下着が丸見えだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 町を出て1時間ほど走り、プリマヴェーラの案内でいくつか道を曲がった。

 シルファは護衛なので、直接の案内はプリマヴェーラの担当だ。


『もうすぐ分かれ道があるわ。次は右ね』

「わかった」


 猛の肩にプリマヴェーラが座り、耳元で音声案内してくれる。

 上空のシルファ、肩のプリマヴェーラ。まるで高性能ナビだ。

 プリマヴェーラの言うとおりに曲がり、林の中を突っ切ると、大きな川が流れ、橋が架かっていた。

 猛は、橋の手前で停止する。


「ほぉ……なかなかの流れだ」

『この川は海まで続いてるの。もっと下流に行けば、有名な釣りスポットがあるのよ』

「プリマヴェーラ、詳しいねぇ」

『そりゃ妖精だもん。こう見えてシルファより年上なのよ』

「そうなんだ~……でも可愛い!」

『ありがと、アンナ』


 半月型の橋をバイクで渡り、バイクは走り出す。

 川の流れは激しい。大きな魚が跳ね、杏奈は驚いていた。


「すっご、つかまえて食べたいな!」

「こらこら、寄り道はしないぞ」

「むー」


 橋を渡り、再びバイクは進む。

 この日は、特にトラブルもなく森の手前にある冒険者の小屋まで到着した。

 冒険者の小屋は、アランたちと出会った小屋にそっくり……というか、全く同じ造りの小屋で、厩舎や薪なども準備してある。

 暖炉に火を付け、杏奈が夕飯の支度を始め、猛とシルファは椅子に座って待つことにした。


「明日、森に入るが……気を付けてくれ。森には魔獣も多く出現する」

「……大丈夫。シルファを信用しているし、自分の身は自分で守れるさ」

「ふっ、それでは、私の仕事がないのだがな」

「ははは、そうだった」


 キッチンでは、杏奈が張り切って調理をしている。

 杏奈に強く言われたので、食事の手伝いはできない。なので、猛は収納から酒瓶を取り出し、シルファに勧め……。


「……なぁ、エルフって酒を飲めるのか?」

「当たり前だ。私はもう成人しているから酒も飲めるぞ」

「じゃあ、軽くどうだ?」

「いいな。身体を温めよう」


 猛は木のカップを取り出し、シルファに差しだした。




***************

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