第4話・父と娘、マホガニー商店と出会う。
猛と杏奈は、巨大なラクダに近付くにつれ、その大きさに驚いた。
「で、デカいな……」
「う、うん。ダンプカーみたい」
ラクダは、ダンプカーよりも大きく、車輪の付いた一軒家を運んでいた。
一軒家は古ぼけている。ツギハギだらけの家で、あちこち部屋を増築したのか、奇抜なデザインとしか思えない。だが、なぜかこの建築物はプロの仕事だと実感した。
一軒家には大きな看板が掛かっている。
「杏奈、あれ」
「うん、読める……『マホガニー移動商店』、だよね?」
「ああ。オレにも読める。英語じゃないよな?……中国、韓国語でもない」
「白い神様、翻訳機でも搭載してくれたのかなー?」
異世界の文字だが、杏奈と猛は意味が理解できた。
バイクで近づき並走してみるが、止まる気配はない。水や食料を恵んでもらいたかったのだが、どうすればいいのか……。
「あーのーっ!! すんませーんっ!! あーーーのーーーっ!!」
「あ、杏奈っ!? 迂闊に」
「呼ばなきゃ伝わらないでしょ!! あたし喉乾いたのっ!!」
タンデムシートからありったけの声を出す杏奈。異世界だというのに、まるで恐怖を感じていない。猛は不思議でならなかった。
すると、一軒家の一階部分にあたる窓が、勢いよく開いた。
「おういらっしゃい!! と言いてぇが……なんだオメーら!? その金属の塊はなんだ!?」
「あのーーーっ!! ちょっと水飲ませてくださーーーいっ!!」
「あぁぁぁっ!? 聞こえねーぞぉぉぉぉーーーーーッ!!」
「はぁ……仕方ない」
猛は、一軒家の窓際近くまで向かい、窓から身を乗り出す男性の傍で並走する。
杏奈に恐怖はないのか、髭もじゃのずんぐりむっくりした男性に言った。
「あのーーーっ、水を飲ませて欲しいんですけどーーーッ!!」
「みずぅーーーッ⁉ ああ、別にいいけどよぉぉぉぉっ!! ちょっと待ってろぉぉぉっ!!」
「はぁーーーいっ!!」
「噓だろ……」
男性は窓から引っ込み、それから数分……なんと、ラクダが止まった。
猛もバイクのスピードを緩め、ついに停車する。すると、一軒家の玄関口が開き、木製のタラップが下りてきた。
玄関には、先程の男性がいて、親指でクイッと中を差す。
「入りな」
「やたっ、おじさん、ありがとー!」
「お、おい杏奈」
「ほら、行くよ」
「ほれ、さっさと入れ」
「…………」
杏奈はタラップをぴょんぴょん駆けのぼり、猛はショットガンを肩に掛けタラップを登る。ふと思いつき振り返り、バイクに言った。
「消えろ」
すると、バイクは溶けるように消えた。
「車庫いらずだな……ありがたい」
「ほぉ、収納持ちかい。珍しいな」
「うわっ!?」
「ほれほれ、さっさと入れって。出発するからよ」
「あ、ああ。申し訳ない」
猛と杏奈は、『移動商店マホガニー』の一軒家にお邪魔した。
◇◇◇◇◇◇
「わぁ~……すっごい」
「確かに、昔ながらの駄菓子屋、いや雑貨屋みたいだ」
一軒家の一階は、様々な道具であふれていた。生活用品だろうか、鍋やフライパン、食器が棚に並んでいたり、瓶には妙な色をした液体が入っていた。洗剤だろうか、飲みたいとは思わない。
それだけじゃない。壁には農耕器具が掛けられていたり、写真でしか見たことがないような剣や槍、盾や鎧などの甲冑もあった。
どう見ても、日本製じゃない。
「ほれ嬢ちゃん、水だ」
「あ、ありがとう! んっぐ、んっぐ。んっぐ……っぷはぁっ!!」
ヤギの胃袋みたいな入れ物に入った水を杏奈は一気に飲み干した。
男性に水袋を返し、杏奈は頭を下げる。
「ありがとうございます。助かりました」
「気にすんな。それより、こんな辺鄙な平原でなにしてたんだ?」
「えーとですね……」
杏奈は、チラリと猛を見る。
「……実は、山の中で娘と一緒に暮らしていたのですが、いろいろあって旅に出ることにしまして。この地のことを何も知らないのです。よければ、お話を聞かせていただけませんか?」
「ふーん。親子ねぇ……まぁ、旅人なら手ぇ貸すぜ。オレらも同じ旅をしてる商店だからな!」
「ありがとうございます。ではさっそく……ここは、どこですか?」
「は?……ここって、マルクト王国領のナキタ平原だよ。なーんもねぇ平原だ」
日本から来たなんて信じてもらえるわけがない。とりあえずの方便で誤魔化す。
わからない単語は頭にインプットし、猛は質問する。
「申し遅れました。私は猛、こちらは娘の杏奈と申します」
「タケシにアンナか。オレはマホガニー商店鍛冶担当のタックだ。ま、見ての通りドワーフよ」
「ドワーフ!? おお、リアルドワーフキター!」
「かっかっか! ドワーフを見るのは初めてかい? さーて、じゃあオレらのことも紹介しなきゃな! おい、おーいオメーら、ちょっと来い!!」
タックが大声で怒鳴ると、二階や壁の隙間から三人ほど出てきた……が、猛と杏奈は息をのむ。
「おや、お客様かえ? すまんすまん、気付かなかったわ。わたしは裁縫担当のババロア。二階で洋装店を経営しておる」
ババロアと名乗った人物は、二足歩行の『蛇』だった。
服は着ているが、首から上はまんま蛇。にゅるっと長く伸びた首、しゅるるっと出し入れしている分かれた舌は、あまりにも特徴的すぎる。杏奈は一気に青ざめていた。
「あぁ……頭痛い。タックのデカい声、マジで問題だわ……ああ、アタシは三階で薬屋をやってるルミミエ、よろしくね」
ルミミエと名乗ったのは、二十代ほどの女性だった。
漫画に出てくる魔女のようなローブにとんがり帽子を被っているが、手には酒瓶を持ったままで、どうにも胡散臭い魔女にしか見えない。
「…………」
「ああ、こいつは護衛の牛人、モーガンだ。無口だが腕は立つ」
タックが代わりに紹介したのは、二メートル以上ある牛の獣人だった。
肌は茶色く、五指はある。だが、顔はまんま牛で鼻フックをしている。上半身はランニングシャツだけなので、筋骨隆々なのが見てわかった。
「つーわけで、うちらは旅の商人集団、マホガニー移動商店だ。ちなみに、マホガニーっつうのは、この店を引いてるバケモノラクダの名前でもある」
ダンプカーサイズのラクダは、バケモノラクダというらしい。
ドワーフ、蛇人、魔女、牛人の四人組だ。改めて、ここは異世界で間違いないと、猛と杏奈は実感した。
呆然としている猛に、タックは言った。
「お客さん、何か買っていくかい?」
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