第5話・父と娘、売り買いする

 鍛冶担当のドワーフ、タック。裁縫担当の蛇人、ババロア。

 薬品担当の魔女、ルミミエ。護衛担当の牛人、モーガン。

 そして、移動商店マホガニーを牽引するバケモノラクダ、マホガニー。

 猛と杏奈が異世界で初めて遭遇したのは、どうみても人間じゃなかった。

 特に、ババロアとモーガンは蛇と牛だ。杏奈は顔を青くすると、蛇人のババロアがケラケラ笑う。


「あっはは、亜人を見るのは初めてかえ? お嬢ちゃん」

「あ、あの、その……」

「その反応、ウブで可愛ええなぁ。なぁモーガン」

「…………」


 牛人のモーガンは小さくだが頷いた。どうやら、気を悪くしていないらしい。

 代わりに、猛が頭を下げた。


「申し訳ありません。山で二人暮らしをしていたので、世間に疎くて……」

「気にせんでええよ。むしろ、新鮮な反応で嬉しいわ。なぁ」

「…………」

「杏奈、お前も謝りなさい」

「……ごめんなさい」

「ふふ、素直やねぇ。気に入ったわ」


 ババロアはケラケラ笑っている。すると、タックが言う。


「で、お前さんたち、何か買うか?」

「え?」

「おいおい、まさか本当に水だけだったのか? まぁいいけどよ」

「も、申し訳ない。買うにしても、お金がないので」

「そうかい。じゃあ、さっきおめーが乗ってた鉄の塊を売る気はねぇか? けっこう長い間生きているが、あんなの見たことねぇ……売るなら、買うぜ?」

「申し訳ない。あれは売れません」

「はは、フラれちまったぜ。じゃあ、なにか売れるモンはあるか? おまえさん、面白そうなモン持ってそうだしな、あれば買ってやるよ」

「う~ん……」


 売れる物など何もない。

 杏奈は謝ったあと、いつの間にか店を物色していた。しかも、先程まで怖がっていたババロアに、商品の説明を受けている。


「重ねて申し訳ない、売れるような物は「ありますっ!」


 杏奈が、勢いよく挙手して言った。

 猛は杏奈を見る。


「こら、適当なことを言うな。売れる物なんてないだろう」

「あるじゃん! ついさっきまで自分が着てたのがさ」

「……まさか、スーツか?」

「そう! ほら出して出して」

「ま、待て。バイクの防水バッグの中だ。こんな室内でバイクを出すわけにはいかんだろう」

「あの、タックおじさん。さっきあたしらが乗ってた鉄の乗り物、ここで出していい?」

「ん、ああ。別に構わんぞ。もう一度見てみたいからな」

「だってさ! ほら!」

「全く、お前は……」


 猛は、店内の少し広い場所に向けて手をかざし、「バイク、来い」と地味に言うと、ハーレーダビッドソン・ファットボーイが光に包まれ召喚される。


「へぇ~……収納持ちかい。珍しいね」


 魔女のルミミエが物珍しそうに言う。

 意味のわからない猛は、とりあえず防水バッグから、セールで買った2着で三万円の安物スーツ上下と、980円のワイシャツ、300円のネクタイを出した。


「服ならわたしにまかせな。査定してやろう」


 蛇人のババロアが、ポケットからメガネを取り出してかける。

 安物スーツをテーブルにのせ、丁寧に触れていた。


「ふ~む……これは、どういう材質なんだい? わたしも見たことがない」

「化学繊維……でしょうか?」

「手触りもいいし、布の質もいい。これなら全部で20万ドナってところか」

「あ、あたしの服も一緒に売りたいです! それと、ババロアさんのお店で服買いたいでーす!」

「ほう、嬉しいねぇ。じゃあお嬢ちゃんの服も合わせて50万ドナで買い取ろう。さぁさぁ二階においで、わたしの作った服を見せてやろう」

「やたっ! あの、魔法使いっぽい服ってあります? あと杖とか欲しいです!」

「マホウ、ツカイ? よくわからんね? まぁ見て行きなさい」


 杏奈は、ババロアと一緒に二階へ行ってしまった。

 何も言えず取り残された猛は、バイクを眺めているタックに言う。


「申し訳ない、娘が勝手なことを」

「ん? ああ気にすんな。それに、ハキハキしていい嬢ちゃんじゃねぇか。オドオドして黙られるよりよっぽどいい」

「あはは……あの、ドナとは?」

「ああ、金も使ったことねぇか。ドナっつーのは金の単位だ。パンが1個だいたい100ドナ。つーか、あのババロアが服に50万ドナも出すとはな。おめーさんたち、いったい何モンだ?」


 その質問に答えるのは不可能だ。「異世界から来ました」なんて、信じてもらえるはずがない。

 とりあえず、スーツと杏奈の服を売ったおかげで、この世界のお金が手に入った。

 情報源となる人たちとも接触できたし、この世界のことを深く知るべきだろう。


「タックさん、先程も言いましたが、私と娘は世間知らずでして……よろしければ、この世界の常識を教えていただけないでしょうか」

「そうだな……この鉄の乗り物を見せてくれるならいいぜ」

「……わかりました。よろしくお願いします」

「よし、じゃあ話はルミミエに聞きな。あの魔女、ウチらの中じゃ一番のババァだからな」

「えっ……?」

「タック、聞こえてるぞ~……?」

「おっとヤベぇ」


 ルミミエは、いつの間にか近くのテーブルで酒盛りをしていた。

 一番のババァと言うが、どう見ても二十代にしか見えない。


「ほれ小僧、こっち来て付き合え。酒はいけるだろー?」

「は、はい」

「この世界のこと、教えてやるよ。どーもあんたら親子からは、不思議な匂いがするんだよねぇ」


 猛は頭を下げ、ルミミエの対面に座った。



**************



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