第7話・父と娘、風になる
大草原にバイクで飛び出した猛、そしてタンデムシートに座らず立ち乗りする杏奈。
猛の肩には、杏奈の両手が添えられている。しかも杏奈の右手には、先程の指揮棒のような杖が握られていた。
「異世界デビューっ!! あっはははは!! モンスターと遭遇しちゃいましたぁぁーーーーーッ!!」
「バカ、暴れるな!? というかお前、怖くないのか!?」
「ん、まぁね。だってあたし、最強の魔法使いだから!!」
猛のハーレーは、岩ミミズの近くまで来る。
地面のすぐ真下にトンネルを掘るように進んでいるのが岩ミミズだろうか。全長10メートルほどで工事現場にありそうな土管を繋ぎ合わせたような身体をしている。
猛は、岩ミミズから少し離れた場所で叫ぶ。
「こっちだ!! おーい、こっちに来い「ファイア!!」……え」
杏奈の杖から、バレーボールほどの火球が飛び出し、地面が爆発した。
「ファイアファイアファイアファイア、あそーれファイアファイアファイアファイア!!」
「ちょ、杏奈!?」
バレーボールほどの火球が何発も飛び出し、地面が爆発する。
すると、爆発でダメージを負ったのか、身体中にヒビの入った巨大な土管が地面から現れた。
『ピギィィィィィィィィィィッ!!』
「来た!! お父さん、逃げて逃げて!!」
「わかった!!」
猛はマホガニーの方向とは別に進路を取る。すると岩ミミズは、見かけに合わないニョロニョロとして動きで猛のバイクを追い始める。
怖くてバックミラーを確認できない猛。ほんの10メートル先には、怒り狂った岩ミミズが猛を喰おうと追っている。
それに対し、杏奈は猛の背に自分の背を合わせるように、タンデムシートに座っていた。
「あのさ、お父さん。ちょっとわかったことがあるの」
「なんだ、どうした!?」
「あのね、あたしの魔法。なんか、思ったことを実現できるの」
「え!?」
「ファイアって言ったら炎の塊が出るし、ブリザドって言えば氷の塊が出ると思う。サンダーだったら雷かなぁ」
「杏奈!? 何かあったのか!?」
「あの白い神様ぱないわー……」
猛は首を曲げ、マホガニーの位置を確認する。すると、マホガニーの真上から気球みたいなサイズの綿毛がふわふわ飛んでいた。あれに生物が触れると寄生され血を吸うという、マダニのような綿毛だ。
「杏奈、マホガニーとの距離は取った。この岩ミミズを撒いてあっちに行くぞ!!」
岩ミミズは、杏奈の火球でダメージを負ったのか動きが鈍い。これなら撒ける。それに、マホガニーを追うだけの体力は残っていないだろう。そう思っていた。
「あ、じゃあお土産置いてくね。エクスプロージョン!」
「え」
杏奈の杖から出た火球が大爆発を起こし、岩ミミズを木っ端微塵に砕いた。
◇◇◇◇◇◇
岩ミミズは、粉々に砕けた。
バックミラーで確認した猛は驚いた。
「ふふん、これがチートです!」
「は、はは……すごいなお前。そういう無茶苦茶なところ、深雪にそっくりだよ」
「そう? お母さんも豪快だったんだね!」
美幸も、俺のバイクに飛び乗ろうとしたことがあったっけ……と、昔を懐かしんでいる場合ではない。
巨大な綿毛がマホガニーに迫っている。
牛人のモーガンが投石で綿毛を打ち落としているが、一人では対処できないのか、綿毛がマホガニーの傍に落ちていく。
「あ、いいこと考えた!」
「なに?」
「お父さん、アクセル全開でマホガニーのところへ!!」
「……わかった、飛ばすぞっ!!」
猛は、アクセルを全開にする。
クラッチを握り、ギアを変え、ハーレーの性能限界に挑む。
不謹慎かもしれない。だが……猛は、顔がほころぶのを止められなかった。
気持ちよかった。昔を思い出した。暴走族だったころ、仲間と共に峠を攻めたことを思い出した。限界ギリギリの速度で無茶をして、それでも笑っていたころを思い出した。
バイクはいい。こんな広い異世界で風に────────。
「ジャンプ台っ!!」
「────────は?」
マホガニーとの距離は百メートルほど。ハーレーの目の前に現れたのは、大地がせり上がってできたジャンプ台。
猛と杏奈は大空へと舞い上がった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「お父さん、ショットガンショットガン!!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あれ!! 綿毛、打ち落としてっ!!」
「ッ!!」
ほんの数十メートル先に、巨大な綿毛がいくつも飛んでいる。
杏奈の作戦、それは、アクセル全開のハーレーをジャンプ台で宙に飛ばし、猛のショットガンで綿毛を打ち落とすというものだ。
バケモノラクダのマホガニーですら小さく見える。その背にいるモーガンが豆粒に見える。というか高い。
杏奈の魔法なのか、浮遊感がある。
「着地は任せて!! お父さん、かっこいいところ見せてよ!!」
「わかった!!」
猛はバイクに引っ掛けておいたショットガンを取り出す。
今ならできる気がすると、コッキングレバーを中心に、片手でショットガンを回転させる。
すると、カシャッと音がして弾が装填された。これがスピンコックである。
「わぉ、かっこいいー!」
こんな状況だが、猛は嬉しかった。
まるで、物語の主人公になった気分でショットガンを構え、綿毛に向かって引金を引く。
「さっさと失せろ、ベイビー」
ズドン!! と、ショットシェルの散弾がばらまかれ、周囲を飛んでいた綿毛が一気にはじけ飛ぶ。
今度は通常の装填をして引金を引き発射、それを四度繰り返すと弾切れになった。
綿毛はまだ残っているが、杏奈が猛の背後から杖をかざす。
「サンダー!!」
どこからともなく周囲が放電。残りの綿毛は一気にはじけ飛んだ。
弾を込めようとしていた猛は、思わずつぶやく。
「杏奈、お前がやったほうが早かったんじゃないか?」
「それじゃお父さんの見せ場がないじゃん」
空中で言葉を交わす親子は、バイクに乗ったままゆっくりと下降を始めた。
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