第47話・父と娘、大暴れ

 シルファは、バイクの速度が時速100キロを超えていることに気が付いたが、止めることはできなかった。案内人として先を行く。だが、精霊の力を借りているおかげで疲労を感じないシルファでも、長時間の高速飛行は心身ともに疲れる。

 猛は止まらない。妻のいる町がゴブリンに襲われていると聞いて、スピードを緩める理由がないのだ。

 本来なら数十分かかる道だが、15分を経過したところで見えてきた……。


「っく……やはり襲われているな!!」

「深雪ィィィィィッ!!」

「お、お父さん!?」


 なんと、猛はさらにスピードを上げた。

 いつもは背中合わせに座る杏奈が、猛に身体をピッタリ付けている。

 クウガは涼しい顔で肩に止まっていたが、風の抵抗がものすごかった。


「あれがゴブリンの集団……!!」

「うわ……きっも」


 猛たちが向かった町の入口とは別の場所に、大量のゴブリンが群がっていた。

 町の外にはバリケードが敷かれ、町への侵入はかろうじて守られている。だが、バリケードのいくつかは破壊され、侵入される寸前だった。


「杏奈!! 俺たちとバイクに防御的な魔法はかけられるか!?」

「できるけど!!」

「頼む!!」

「どーすんの!!」

「突っ込む!!」

「え」


 杏奈は、バイクと自分たち、ついでにクウガに『防御魔法プロテス』の魔法をかけた。すると、猛たちとバイクが淡く輝く。

 もう、迷うことはない。


「杏奈!! しっかり掴まっていろ!!」

「わかった!! もう好きにしちゃって!!」

「ああ、行くぞ!!」


 猛は、ゴブリンの群れに突っ込んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 ディプノウの町の冒険者たちは、劣勢だった。

 ゴブリン・スタンピードによってバリケードは破壊され、何人も負傷者が出ている。

 町への侵入はかろうじて許していないが、時間の問題だった。聖王国ホーリーに援軍は要請したが、援軍の到着までもたないかもしれない。

 冒険者の一人が叫ぶ。


「怯むな!! 怪我人は下がれ、町への侵入だけは許すな!! もうすぐ援軍が来るぞ!!」


 そう言いながら、ゴブリンを切り伏せる。

 一匹一匹は大したレベルではないゴブリン。武器を持てば一般人でも楽に倒せるが、群れで集まるとこうも恐ろしいとは。

 過去、ゴブリン・スタンピードで滅びた町はいくつもある。この町を滅ぼすわけにはいかない。そう思い、武器を振るう冒険者たち。


 ゴブリンに始まり、巨大な変異種であるビッグゴブリンや、亜術が使えるマジックゴブリン、武器を巧みに操るファイターゴブリンと、今回のスタンピードは数が多く手練れも多い。

 怪我人も多数出ている。優秀な元僧侶・・・が治療を行っているが、これ以上はまずい。そう考えていた。




「どけどけどけぇぇぇぇぇぇぇーーーーーッ!!」

「いやっほぉぉぉぉーーーーーッ!!」




 突如、何かが現れてゴブリンたちを弾き飛ばした。

 唸り声を上げる金属に跨った、壮年の男性と少女。男性は細長い筒を手に持ちクルっと回転させ、近くのビッグゴブリンに向けた。


「杏奈、暴れるぞ」

「いいね。あたしの魔法カーニバル、みんなに見せちゃうよ」


 ズドン!! そんな音がした瞬間、ビッグゴブリンの頭が吹き飛んだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 猛は、ゴブリンに向けてショットガンを撃ちまくる。

 弾がきれたらハンドガンに持ち替えて撃ち、両方弾が切れたら冷静に弾込めをする。

 その間、杏奈は魔法でゴブリンたちを殲滅していた。


「フレア!!」


 大量のゴブリンが爆発した。


「ホーリー!!」


 大量のゴブリンが純白の光に包まれ消滅した。


「メテオ!!」


 どこからか大量の隕石が飛来し、ゴブリンたちが挽肉にされていく。

 猛は弾込めを終え、スピンコックで装填する。


「お父さん、あっちもいっぱいいる!!」

「よし、行くぞ!!」

「おおーっ!!」


 猛はハーレーでマッドターン。爆音を鳴らしながらゴブリンの大群へ向かう。

 魔法で地形が変わり、残されたのは唖然とした冒険者たち……。


「やれやれ、私の出番はなさそうだ」

「し、シルファウィンド様!?」


 冒険者の一人が、シルファを見て叫んだ。

 聖王国ホーリーからの援軍はシルファ。これ以上ない増援だが、猛と杏奈が大暴れしているので、シルファの出番はなかった。

 なので、シルファは説明役となる。


「あの二人も仲間だ。安心してくれ」

「は、はい。あの……あれは一体」

「ふ、守りたい者がいる。それだけのことだ」


 猛と杏奈が到着して20分……ゴブリンはあっという間に全滅した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る