第24話・父と娘、冒険者組合と解体場
三人が向かったのは、町の冒険者組合だった。
大きな神殿のような建物で、煉瓦造りなので要塞のように見える。看板には『冒険者組合』という文字が掛かれていた。
「これが冒険者ギルド……!!」
「ギルド? 組合だろう」
「お父さんうるさい」
「…………」
組合の建物に、少年少女グループや、猛と同年代のおじさん冒険者たちが入っては出て行き、入っては出て行く。年代こそバラバラだが、共通していることもある。
「わぁ~……みんな、かっこいいね」
「武装しているのか。ぶっそうだな」
「は?」
「え?」
どうやら、オヤジギャグだと思われたようだ。猛にそんなつもりはなかったが、『武装』と『ぶっそう』を掛けたものだと杏奈に想われたらしい。シルファは気付いているのかいないのか、二人に言う。
「中で依頼完了の手続きをする。その後、正式に依頼をしてくれ」
「わかりました」
「じゃあ早く入ろう! あたし、中見てみたい!」
「こら、はしゃぐな」
猛たちは組合の中へ。
中はとても広く、歴史ある市役所といった雰囲気だ。
受付カウンター、掲示板、飲食スペースもあるのか酒や食事の香りがする。冒険者があふれ、掲示板を覗いたり、組合内にある売店で買い物をいているグループもいた。
「すごい……これが冒険者組合ですか」
「早朝、依頼が貼りだされる時間はもっと混んでいる。今は空いている方だがな」
「これでですか……?」
「ねぇねぇ、依頼掲示板見てくる!」
「あ、こら!」
杏奈は小走りで依頼掲示板へ向かった。
シルファと猛は顔を合わせ、『仕方ない』と苦笑。二人で受付へ向かい……気が付いた。
「おい、シルファ様だぜ」「あのおっさん誰だ?」「今日もステキ……」
「すっげぇ美人……」「パーティ組みたいな」「あのおっさん誰だよ」
どうも、シルファは周囲から注目されている。
居心地の悪さを感じている猛。すると、クウガのバスケットからプリマヴェーラが飛び出し、猛の肩に座った。
『見ての通り、シルファはこの町では人気者なのよ。町を作った功労者にして上級冒険者、実力はもちろん、人格者として町長や町人から慕われているの』
「へぇ~」
「こらプリマヴェーラ。余計なことを言うな。というか、私はそんな大層な者じゃない」
『自覚の無さ、すごいでしょ?』
「は、ははは……」
シルファが注目されると、猛も注目させる。
杏奈も一緒に連れてくればよかったと後悔するが、今更どうしようもない。
受付カウンターに到着すると、受付嬢がペコペコ頭を下げていた。
「グリーンラプトルの討伐依頼を終えた。死骸は一か所にまとめてあるから、回収係を送ってくれ」
「あ、ありがとうございます。いやぁ、たった一人でグリーンラプトルを討伐するとは、さすがシルファ様です!」
「いや、今回のは偶然だ。なぜかグリーンラプトルの群れが集団で居眠りをしていてな。とどめを刺すだけだったので楽な仕事だった」
「ぶっ」
猛は噴き出した。
杏奈が眠らせたグリーンラプトルのことだ。というか、杏奈はシルファに伝えていなかったのだろうか。
「それと、帰還途中にキラータイガーを討伐した。素材を卸したいので、すぐに現金化してくれないだろうか」
「わかりました。解体場に連絡しておきますので」
「ああ、わかった。ではタケシ殿、解体場に行こう」
「は、はい」
「あの、ところで……そちらのかたは?」
「新しい依頼人だ。護衛依頼でな……せっかくだ、ここで依頼を出してくれ。そのまま私が受けよう」
猛は、言われるがまま出された書類を書き、受付嬢に提出する。受付嬢が中身を確認しシルファに提出、シルファはサインをして再び受付嬢へ。これで依頼が出されたことになったようだ。
依頼を受けたシルファは凛々しく歩き出し、猛も後に続く。
依頼掲示板の前では、杏奈が羊皮紙を眺めながら行ったり来たりしていた。
「杏奈、お待たせ」
「あ、おかえり」
「これから解体場に向かう。キラータイガーを卸して現金をもらったら、さっそく出発の準備をしよう」
「え、もしかしてお買い物ですかっ!?」
「ああ。それと、キラータイガーの報酬は半々でどうだろうか」
シルファがそんなことを言い出したので、猛は強く否定した。
「そんな、何もしていないのにお金は受け取れません。冒険者のことはよくわかりませんが、倒した魔獣はシルファさんのものでしょう」
「違う。あのキラータイガーは確かに私が倒した、だが、ここまで運搬したのはタケシ殿だ。私一人では運ぶこともできず、精々、牙と爪を数本持ち帰ることしかできなかっただろう。運賃ということで受け取ってくれ」
「そんな。俺はなんの苦労もしていない。報酬はさすがに」
「そうはいかん、わた「あーもう!! 前から思ってたけど二人とも頑固すぎ!! お父さんもシルファさんもいい加減にして!!」
「「は、はい……」」
杏奈は思った。
この二人、頑固すぎる。喧嘩しているわけじゃないのに、互いに一歩も引かないのである。
これはこの先苦労しそう……そう思う杏奈だった。
「お父さん、シルファさんの気持ちを無駄にしちゃだめだよ。疲れてなくてもお父さんは『運搬』の仕事をしたんだから」
「む……」
「そうだぞタケシ殿。これは正当な報酬だ」
「……わかりました」
女の子二人に押し切られ、猛はついに折れた。
◇◇◇◇◇◇
解体場は、組合の裏にあった。
魔獣の皮や骨、内臓の入ったバケツ、ところどころに血の跡があり、猛と杏奈は口を押える。少し生臭いのが気持ち悪かったが、解体場の職員はもちろん、シルファも平然としていた。異世界ではこれが普通なのだろうか。
解体場に入ると、恰幅のいい中年が一人、シルファの元へ。
「これはこれはシルファ様。いつもありがとうございます」
「ああ。所長、聞いていると思うが、キラータイガーを卸しに来た。すぐに現金化してほしい」
「かしこまりました。ではこちらへ」
解体場にいくつかある、大きな手術台にやってきた。血の跡があることから、ここで魔獣の解体をするらしい。
「では、こちらの上に。えーと、どちらですか?」
「え?」
「タケシ殿、この上にキラータイガーを」
「あ、はい」
どうやら、猛が収納持ちということらしい。キラータイガーを持ってきたということで、猛か杏奈のどちらかが収納持ちだと、この解体場所長は気付いていた。
猛は言われた通りに収納からキラータイガーを出す。
「ほぉ、これは立派ですな……ふむ、死後数十分といったところでしょう」
所長の鑑定に、シルファは驚く。
「……タケシ殿、タケシ殿の収納には『時間凍結』の効果が?」
「え、えっと……たぶん」
「収納持ちの中でも、時間凍結効果のある収納はかなりレアだ。覚えておくといい」
「は、はい」
『時間凍結』だけでなく、『収納回帰』効果もあるとは、シルファは気付いていない。
収納した瞬間に収納物が固定される効果は、時間凍結よりもレアな効果だ。
所長の鑑定は続く。
「ふむ、血も暖かいからそのまま使える。牙や爪、内臓、骨、目、脳、毛皮……ほほう、これは素晴らしい。いい状態です」
「素材を傷付けないように首だけを切断した。血はかなり出てしまったが、多少は残っているだろう」
「ええ、ええ。これなら全身余すところなく使えます。では、規定の査定金額に合わせ……少し色も付けさせてもらい……」
所長は、メモ帳にカリカリとメモをしている。どうやら、部位の値段の合計金額を計算しているようだ。
そして、メモ帳をびりっと破り、シルファに突き付けた。
「キラータイガーの素材、合計200万ドナで買わせていただきます。いかがでしょう?」
「問題ない。むしろ、適性価格以上の値だぞ。いいのか?」
「はい。シルファ様にはお世話になっていますので」
「ふ……ではこの値段で頼む」
「ありがとうございます」
所長は百万円の束を二つ取りに行き、猛たちの目の前でしっかり数えた。
札束を受け取ったシルファは、束の一つを猛に渡す。
そして、解体場を出て……猛は大きく息を吐いた。
「に、二百万とは……」
「こんなものだろう。二百万というが、冒険者グループ五人で割ったら四十万、武器や防具の手入れ、道具の購入などに使えば、一人頭五万残ればいいほうだ。新しい装備や生活費などですぐに消える」
「そ、そうなんですか……」
「冒険者かぁ……あたしもなりたいけど、どうしよう」
「ふ、焦ることはない。それより、用事も済んだし町で食事でもしよう。タケシ殿、アンナ、いい店をしっている」
『エルフ料理の店だけどね、すっごく美味しいのよ!』
バスケットからプリマヴェーラが飛び出し、杏奈の肩に座る。
そういえば、お昼がまだだった。
「エルフ料理、食べたい!」
「俺もだ。腹が減った……」
「ふふ、では私が御馳走しよう。新たな出会いに乾杯といこうじゃないか」
三人は、町の中心部へ向けて歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます