第3話 異世界の商品を買ってみた


 異世界ストアのラインナップは実に多岐にわたった。


 鑑定で判明したとおり、本当に異世界で売買されているものすべてを購入することができるのである。


 初めての買い物なので、いかにも異世界っぽいものがいい。


「魔石? いや、ポーションも捨てがたい。けど……」


 あれこれ目移りしてしまって、なかなか決められない。


 時間だけがどんどん経過していく。


 途中、腹が空いていたことを思い出した。


 そもそも腹が空いたから異世界ストアで食べるものを購入しようとしたのではなかったか。


「……よし、決めた。オーク肉を買おう!」


 料理もののWEB小説を読んでいて思ったのだ。


 モンスターの肉ってうまそうだよな、と。


 アニメで描かれるメシを食べてみたいと思うのと同じ感覚だ。


 有名なところで言えばマンガ肉だろうか。


 さっそく購入手続きを進める。


 ほとんど密林と一緒だったので、スムーズに進めることができた。


 ただ支払方法だけが違った。


 半透明のウィンドウに『ここに現金を投入してください。』と表示されたのだ。


 おそるおそる現金を入れてみれば、透けて落ちることなく、現金はウィンドウに呑み込まれた。


 購入手続きが終わる。


「あとはどうやって届くかだけど……」


 ぴんぽーん♪ という玄関チャイムに似た音がして、目の前に光が集まり、やがて段ボールを形作る。


 文字か何かがデザイン化されたものが描かれている。


「この中にオーク肉が入っているのか?」


 開けてみれば、ビンゴ。


 肉の塊が入っていた。


 鑑定を使えば、【オーク肉】とちゃんと表示される。


「おお、買えた! すげえ!」


 というわけで、さっそく調理開始である。




 見た感じ豚肉っぽいので、生姜焼きにすることにした。


 焼いて市販のタレを絡めるだけの簡単料理だ。


 肉を塊で買ったことがないのでわからないが、オーク肉は包丁で切るには固かった。


 失敗したかと思ったが、焼いて脂が溶け出した途端、豚肉とは違う何ともうまそうな匂いが漂い始める。


 市販の生姜焼きのタレを絡めれば、それはさらに強くなり、田助の食欲を大いに刺激した。


 で、実際に食べてみれば、


「な、何だこれ!? うますぎるだろ……!」


 想像していた以上にうまかった。


 脂の甘みも、肉の旨みも、豚肉とは全然違う。


 包丁で切った時は固いと思った肉質も、逆にいい感じの歯応えになっていて、食べ応えを感じさせる。


 にゃー。


 一心不乱に食べていれば、窓際から猫の鳴き声が聞こえた。


「おお、おたま」


 野良猫だ。


 おたまというのは田助が勝手につけた名前である。


 時々こうしてやってくるので、餌をあげていた。


「お前もオーク肉を食べたいのか?」


「にゃーん」


 食べたいらしい。たぶんだが。


 とはいえ、生姜焼きを食べさせるわけにもいかない。


「焼くより茹でた方がいいよな? 余分な脂も落ちるし」


 ちょっと待っているように告げて、田助はちゃちゃっと用意した。


「ほら、食べていいぞ」


 皿にオーク肉を茹でたものを載せて差し出せば、くんくんと匂いを嗅いでから、ものすごい勢いで食べ始める。


 見事な食べっぷりは見ていて気持ちがいい。


「どうだ? うまいか?」


 手を伸ばして頭に触れる。


 普段は撫でようとすれば逃げるのに、オーク肉のうまさに夢中になっているからか、撫でることができた。


「おお、ふわふわだ。お前、野良なのに毛並みがいいよなぁ」


 癒される。


 さらにオーク肉を食べ終わったら、体を振り寄せて甘えてきた。


「おおおっ! マジか! デレ期が来たのか!?」


 差し出した田助の手をぺろぺろ舐める。


 たぶん、オーク肉をもっと寄越せと言っているのだろうが、それでもかまわない。


 しあわせだった。




 オーク肉をさんざん堪能すると、おたまはあっさりと出て行ってしまった。


 やはりオーク肉が食べたいだけで、田助に完全に心を許したわけではなかったようだ。


 それでも初めて撫でることができたし、甘えられた。


 なので気分がいい。


「さてと」


 後片付けをちゃちゃっと終わらせ、再び異世界ストアを使う。


 表示される半透明のウィンドウ。


 実は何を買うか迷っていた時、見つけたものがあったのだ。


 いかにも異世界っぽいアイテムで、心躍るものが。


「これだ、ダンジョンコア……!」


 商品説明欄を見れば、これを設置することでダンジョンを作り出すことができるらしい。


 異世界と言えばダンジョンと言っても決して言い過ぎではないだろう。


 なのでこれを購入してこの世界にダンジョンを作れば、異世界を味わうことができるわけだ。


 だが、さっきこれを購入しなかったのには理由がある。


 まず一つは異世界ストアがきちんと利用できるかどうかわからなかったから。


 ちゃんと利用できるのは、オーク肉を購入したことで判明した。


 なので、その点はクリアした。


 だが、あともうひとつが大きな問題点だった。


 それは価格だ。


 田助の全財産を使って、ようやく買うことができる値段だったのだ。




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【異世界に召喚されなかったから、現実世界にダンジョンを作ってやりたい放題2】

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