第78話 買い物に出掛けてみた

 みんなで外出することになった。


 レストランで、モンスター肉を使った絶品料理を食べるためだ。


 絶品料理とはいったいどんなもなのか。


 そんな話題で田助たちが盛り上がる中、一人だけ違うことを言い出した。


 シャルハラートだ。


「ねえ、田助。レストランに行くなら、それなりの格好をする必要があると私は思うの……!!」


 どん! と豊かな胸を張って、そんなことを宣った。


 ドレスコードのあるレストランなら、確かにシャルハラートの言うとおりだろう。


 田助は首を振った。


「俺たちが行くのは人気殺到で、行列ができているらしいけど、気軽に入れる普通のレストランだ。さすがにジャージ姿ってわけにはいかないだろうけど、カジュアルな格好で充分だ」


 しかし、シャルハラートは納得しなかった。


「田助ってば何言っちゃってくれてるの!? 普通のレストランだろうと何だろうと、外出するならオシャレを楽しみたいと思うものなのよ……!!」


 シャルハラートが拳を突き上げ言い切り、衣子たちに「ね!?」と同意を求めた。


「私は特にそうは思いませんが。田助様と一緒に外出できるだけでご褒美ですし」


 衣子はほんのりと頬を赤く染め、そんなうれしいことを言ってくれ、


「あたしも右に同じ――って勘違いしないでよね、タスケ! 右に同じって言うのは『特に思わない』ってところで、タスケと一緒に外出できるだけでご褒美とか、そんなふうには全然思わないんだから!」


 ウェネフは真っ赤な顔して早口でまくし立てる。


 ツンデレっぽい反応だが、もちろん田助はそんな勘違いはしないのである。


「ああ、大丈夫だ。ちゃんとわかってるぜ!」


 満面の笑みでサムズアップすれば、思いきり睨まれた。解せぬ。


 ちなみにアンファも「た~」とかわいらしく首を横に振って、シャルハラートの言葉を否定していた。


 全員がシャルハラートの発言を否定した。全否定だ。


 さて、シャルハラートの反応は?


 拳を突き上げたままの姿で田助にくるりと向き直った。


「ほら!」


 ドヤ顔を決めてみせた。


 どうやら全否定されたことをなかったことにしたみたいだった。


 だが、そんなことは田助が許さない。


「何が『ほら!』だ。みんなその必要はないって言ってるじゃねえか!」


 田助の言葉に、衣子たちがうんうんとうなずく。


 すると、シャルハラートは最終手段に訴え出た。


「オシャレしたい、オシャレしたい、オシャレしたい! オシャレしたいの~!」


 床に転がって駄々をこね始めたのである。


「こいつ……!」


 どう考えても女神がしていい所行ではないが、駄女神だと思えばむしろ相応しい所行かもしれなかった。


「田助様を困らせるなんて……これはもう、処すしかありませんね♪」


 めちゃくちゃいい笑顔でポチをけしかけようとする衣子には、とりあえず落ち着くよう言い含めて(あとポチにも)、田助はシャルハラートを見下ろした。


 さて、どうしてくれよう――と考えた時だった。


「田助だって衣子様たちみんながオシャレした姿を見たいでしょ!」


 シャルハラートに言われて、田助は考えた。


 いや、考えるまでもなかった。


「そんなの見たいに決まってる……!」


「ほら! だから洋服とかアクセサリーを――」


「異世界ストアで買えばいいよな!」


「どうしてそうなるのよ!?」


「異世界ストアだったら、耐物理攻撃とか、耐魔法攻撃とか、付与魔法がかけられたものを買えるんだぞ!? 最高じゃねえか!」


「はぁ~!? オシャレに付与魔法は必要ないんですけど~!」


「お前、何言ってるんだ!?」


「田助こそ何言ってるのよ!?」


 田助とシャルハラートが、それぞれ驚愕の顔で見つめ合う。


「……ねえ、田助。よく考えてごらんなさい? 異世界ストアに、この世界で売っているみたいなオシャレなアイテムがあるかしら!?」


「ある! 異世界ストアはやればできる子だからな!」


「……チッ」


 シャルハラートが舌打ちした。こいつ。


「買い物に行きましょうよ! レストランに行くだけなんて面白くないの! たまにはダンジョン以外の空気を吸いたいの!」


 そこまで言われて思い出した。


 今回、レストランに行こうと思ったのはどうしてだ?


 田助の都合につき合わせてばかりいたことを反省したからじゃないのか?


「……そうだな。そうだった。買い物もしよう」


「やった!」


 シャルハラートが飛び上がって喜ぶ。


 気が早いもので、衣子たちの元へ駆け寄ると、何を買うか、うれしそうな表情で話し始める。


 元より田助にしても、衣子たちが綺麗に着飾ることに否はないのだ。


 ただちょっとだけ、シャルハラートに気づかされたことに対して、くそうと思ったりはしたが、だがそれも以前のような強い感情ではない。


 なぜならシャルハラートは、今ではもう、一緒にダンジョンを堪能する仲間の一人なのだ。


 そういうわけで、レストランに行くのとは別の日に、服やアクセサリーなどを買いに行くことになった。




 それから数日後。


 田助たちは、衣子が普段、利用しているという、いかにも高級な雰囲気の店にやってきた。


 金額は気にしなくていい。


 好きなものを好きなだけ買って欲しい。


 モンスター肉を道本に預けて得た金は、衣子たちの協力があってこそ得られたわけで、それを衣子たちに還元するのは、当たり前のことだった。


 田助は、みんなが買い物をしている間、適当に時間を潰していようかと思ったのだが、一緒に選んで欲しいと言われて、選ぶことになった。


「俺が選ぶのか?」


「はい! 田助様に選んで欲しいのです!」


 衣子は言った。田助が好きだと思う格好をしたい。田助にこれからも好きでいてもらいたいから、と。


 そんなふうに言われて、うれしくないわけがなかった。


 慣れないことだが、それでも衣子に似合うのはどれだろうと一生懸命選んで、そのすべてを衣子が気に入ってくれて、これでひと仕事終わったと思ったら、


「た~!」


 今度はアンファが自分の分も選んで欲しいと言い出した。


 もちろん、応じた。


 アンファが終われば、


「ご主人様として奴隷の格好を選ぶ義務が、タスケにはあると思うの」


 ウェネフまでそんなことを言い出した。


 四苦八苦しながら何とか選び終え、


「なあ、シャルハラート。そういえばお前はいいのか?」


「田助が選びたいというなら選ばせてあげてもいいけど」


「じゃあ、いいや」


「何でよ!?」


 騒ぎ始めたので、適当に選んでやれば、


「もうっ、最初からそうすればいいのよっ!」


 と妙にうれしそうだった。


「……ちょっと待て、シャルハラート」


 適当に選んだ服をシャルハラートから取り上げ、田助は真剣に選び始める。


「こっちにだ。お前にはこっちの方が似合う」


「そう?」


「ああ」


「わかったわ」


 相当な量を買ったので自宅まで送ると言われたが、すべて持って帰ると告げれば店員に驚かれた。


 田助はアイテムボックスのスキルを持っているため、この程度の荷物はまったく問題ない。


 何より、自宅はダンジョンの中なので、送ってもらうのはマズい。


 さすがに人前で使うわけにはいかなかったので、店の外に出て、人目につかないところで、アイテムボックスに収納した。


「もうこんな時間か」


 夕方だ。店に来た時は昼をちょっと過ぎたくらいだったのに。


 レストランに行くのは別の日なので、今日は適当な店で食事をしてから帰ることにする。


 今日買った服の感想を楽しそうに話している衣子たちの姿を見ると、買い物に来てよかったと思った。


 ダンジョンを堪能するのは楽しいが、それを衣子たちに押しつけるつもりはない。


 これからはみんなでこうやってダンジョンの外に出て過ごすのも悪くないな、そんなふうに思っていた時だった。


 女性の悲鳴が聞こえてきたのである。



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