第29話 コボルドをテイムしてみ…おや、なんだか様子が…


 田助は自分が草原ダンジョンを訪れるたびに、どこからともなく現れては自分の周りをうろちょろしているコボルドの存在に気づいていた。


 そのことを衣子に話せば、


「あの時、田助様が助けたコボルドでは?」


「いや、それはないだろ。俺のこと、めちゃくちゃ凶悪な目で睨んでたし」


「それは親コボルドの方ですよね?」


 衣子に指摘され、田助は思い出した。


 あの時、親コボルド以外にもう一匹、助けたコボルドがいたではないか。


「けど、あの時助けたコボルドは子どもだったはずだ。あんなに大きくなかったぞ?」


「モンスターは成長が早いのではないでしょうか」


「そうなのか? ……いや、まあ、うーん。そうかもしれないけど」


 田助がコボルドの方を見れば、コボルドはさっと草むらの中に隠れてしまった。


 いや、相変わらず隠れられてはいないのだが。


「あのコボルドさん、田助様のことをじっと見ていますよね」


「ああ、見てるな。何だか仲間になりたそうな感じだよな」


「仲間にしてあげないのですか?」


「声はかけてみたんだよ。けど」


「けど?」


「逃げるんだな、これが。しかも思いっきり」


「なるほど。実は嫌われているわけですね」


「え、マジで!? それなのに俺の周りをうろちょろするのってどういう意味があるの!?」


「わかりません。なので」


「なので?」


「ちょっと聞いてきます」


「は?」


 どういうこと? と思っている間に衣子はコボルドの元へ。


 コボルドはいきなり近づいてきた衣子に驚き、逃げだそうとするものの、


「しかし、回り込まれてしまった!」


 衣子は、


「大丈夫ですよ。私は恐くないですからね? うふふ」


 なんてことを言いながら、コボルドとの距離をゼロに縮めた。


 コボルドのモフモフの毛並みを撫で回す。


 最初こそ抵抗しようとしていたコボルドだったが、最終的には衣子のテクニックに陥落した。


 腹を見せて、舌をだら~んと垂らして、わふわふ言い出してしまったのである。


 衣子、すごすぎである。


「それでコボルドさん、どうして田助様の周りをうろちょろしていたのですか? ……ふんふん。なるほど、そういう理由ですか」


 衣子が戻ってくる。


「何かわかったか?」


「いいえ、まったく」


「なるほど、そうだったのか――ってまったくわからなかったのか!?」


「はい。相手はモンスターですよ? 話がわかるわけがないじゃないですか」


「いや、まあ、そうなんだけど」


 なら、どうして「ちょっと聞いてきます」と言ったのか。


「あのコボルドさんが何を言っているのかはわかりませんでしたが、何を考えているのかはわかった気がします」


「何を考えてるんだ?」


「田助様と仲良くなりたい、です」


「…………いや、それは俺もそう思うけど。逃げるんだよ、あいつ」


「なら、追いかけてあげてください。そして捕まえてあげてください。恋する人にはいつだってそうしてほしいと思うものですから」


「恋する人って……え、あいつメスだったの?」


「いいえ? 男の子でした」


「恋する人の例えを出した意味……!!」


「私の本音です」


「あ、はい」


 田助はコボルドを見た。


 コボルドも田助を見た。


 さっきの衣子の言葉は確かに衣子の本音だろうが、コボルドの気持ちでもあるのだろう。


 仲良くなりたい。けど、仲良くなるのが恐い。


 何せ人間とモンスター。


 本質的には相容れない存在だ。


 しかも田助はコボルドの同族も倒している。


 それでも諦めきれない気持ちが、田助の周りをうろちょろするという行動に出させてしまっているのだろう。


 田助が近づく。


 コボルドが逃げる。


 それでも田助は一歩、また一歩をコボルドに近づいていって――。


 コボルドのすぐ目の前までたどり着く。


「俺と一緒に来るか?」


 コボルドは田助を真っ直ぐに見上げて、


「わふぅ!」


 大きく吠えた。


「では、田助様。さっそく名前をつけてあげてください」


 衣子の言葉に、それもそうだなと納得する田助。


「そうだな……」


「ポチ、というのはどうでしょう?」


「あれ? 俺が名前つける流れだったんじゃ……?」


「わふぅ!」


「しかもお前も気に入ってるし! いいのかお前、そんな犬っぽい名前で!?」


「田助様、お前ではなくポチですよ?」


「わぉん!」


 こうしてコボルドが仲間になった。




 ――はずだったのだが。


「どうしてこうなった!?」


 モンスターを倒した後、ドロップした魔石をポチが欲しがったのであげてみたら、ばりぼりとおいしそうに食べていた。


 それならばと、今までドロップしたはいいものの現金化できないままアイテムボックスに死蔵していた魔石を取り出して与えていたら、


「フェンリルになってるとかおかしいだろ!?」


 正確にはスカーレットフェンリルと呼ばれる、炎属性のモンスターなのだが。


 炎を思わせる赤々とした毛並み。


 瞳は反対に凍てつく氷を連想させる蒼。


 鋭く太い牙。


 レベルは5と低いが能力値が4桁に達しているので、メチャクチャ強い。


 体の大きさを自由自在に変えることができるため、普段は子犬程度の大きさになっている。


 だが、ひとたびモンスターとの戦いが始まれば巨大化したポチが相手を威嚇。


 モンスターが硬直している間に田助か衣子が倒すという感じで劇的にレベリングが進み、正直、とても助かっている。


 おかげで田助のレベルは50。


 衣子のレベルは64。


 アンファのレベルは10になった。

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