第28話 レベルアップしまくろう


 メタルバジリスクを無事に討伐することができた田助だったが、衣子きぬこの機嫌を直すことは難しかった。


「私という存在ありながら……田助様はどうしてそう何度も何度も命を危険に晒すのですか」


 衣子さん、激おこである。


 ただし、田助に膝枕をしながら。


 その田助のお腹をアンファが枕にして、田助の腹の贅肉を楽しそうに揉んでいる。


 こら、やめなさい。そんなふうに揉まれても痛いだけで……痛い、だけで……あれ? 痛くない?


 むしろなんかちょっと気持ちいい……?


 新しい世界に目覚めそうな気が――。


「田助様、私の聞いていますか?」


「も、もちろん聞いているよ? 贅肉のことなんか考えていないよ?」


「……考えていたんですね?」


「ぎく」


「もうっ! 田助様なんて愛しています!」


 愛を告げられた。


 照れる。




 ――なんてことをやった、翌日。


 田助は衣子を伴って草原ダンジョンに来ていた。


 田助が危ないことをするのなら、すぐ近くにいて自分が守ると言い出して。


 以前、一緒にダンジョンを堪能してくれると言ってくれた時以来である。


 ちなみに装備は一新した。


 資金は道本のおかげで潤沢にある。


 衣子だけでなく、田助も装備を改めるべきだと、二人でいろいろ相談して決めた。


 その結果、衣子は武器にドラゴンの牙から作られた短剣、防具に前回と同じ回避率がアップする付与魔法が最高レベルにかけられたものを。


 田助は武器は断ち切り丸のまま、ドラゴンの素材をふんだんに使った防御力が高い鎧を。


 それぞれ選んだ。


 装備だけ見ればSランク冒険者並だろう。


 そう考えると胸が熱くなる。


「それで田助様、これからどこに行かれるおつもりですか?」


「実は考えていることがある」


「考えていること?」


「衣子のレベルを上げたいんだ」


 首を傾げる衣子に、田助は自分の考えを伝えた。


 先日、町中でコンビニ強盗を退治したこと。


「……ダンジョンだけでなく、外でもそんな危ないことを?」


 衣子の背後に鬼がゆらりと現れるが、そこはひたすら頭を下げ謝った。


「これからはどこに行くにも一緒ですからね? わかりましたか? 返事は『はい』の一択でお願いします」


「……それはいいけど。本当にどこに行くにも一緒なのか?」


「ええ、そうですよ。ダンジョンも、外も。おトイレもお風呂もです」


「……え? トイレも風呂もって」


「何か問題でも?」


「……問題だらけなんじゃ」


「え? 田助様、今、何と?」


「ナンデモアリマセン」


「いいお返事です。ふふ」


 衣子の笑った顔は最高にかわいいなぁ、と田助は思うことにした。


 冷や汗を流しつつも田助は説明を続ける。


 ダンジョンの外でも、万が一という危険がつきまとう。


 だが、ダンジョンの外であっても、レベルアップしておけば回避できる。


「だから、衣子にもレベルアップしておいて欲しいんだ」


「では、田助様も?」


「ああ、もちろん。俺もこれからはどんどんレベルアップしていくつもりだった」


 とはいえ、自分よりレベルが低いモンスターを倒しても経験値の入りは少ない。


 そういう意味では本格的ダンジョンの方がいい。


 だが、そこでは衣子に危険が及ぶ可能性がある。


 メタルバジリスクみたいなモンスターが現れたりするからだ。


 その時、パニックにならないと言い切れない。


 危険を回避するためのレベルアップで、自らを危険に晒していたら意味が無い。


 その点、ここなら廃病院ダンジョンより高レベルの敵が出てくるし、何かあった時に田助が助けに入ることも簡単にできる。


「じゃあ、行くか」


「はい――と言いたいところですが、田助様? 実はさっきから気になっていたことがあるのですが」


「ん?」


「あれはいったい何ですか?」


「あー……」


 衣子が指し示す方を見るまでもなく、田助もわかっていた。


 草むらに隠れて、いや、隠れられていないが、とにかく必死に隠れようとしながらもこちらの様子を伺っているモンスターがいることを。


 その様子を一言で表すなら、こんな感じだろうか。


 ――コボルドが仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る