第8話 赤ちゃんの正体を探ってみた
廃病院ダンジョンの一番奥。
ダンジョンコアを設置した場所にいた謎の赤ちゃん。
その正体を探るべく、田助は動き出した。
――そのはずだったのだが。
気がつけば、
「たー! たー!」
「おー、よしよーし! お前、本当に賢いなぁ……!」
赤ちゃんにすっかりメロメロになっていた。
「って違ぁぁぁぁぁう! メロメロになってる場合じゃないだろ、俺!」
アパートで時々ふらりと気まぐれにやってくる猫のおたまもかわいいのだが、いかんせん彼女(だと田助は思っている)は気まぐれで、撫でようとすると逃げ出すのである。
先日、オーク肉を与えた時、ようやく初めて撫でることができたくらいなのだ。
その点、この赤ちゃんはどうだ? 最高じゃないか。
田助を親のように慕ってくれているし。
赤ちゃんらしいミルクみたいな甘い匂いが、
「……特にしないな」
匂いなんかどうでもいい。他にもいいところはたくさんある。
田助を真っ直ぐに見つめる、くりくりした大きな瞳なんてほら、
「…………虹色に輝いているんだが」
瞳の色もどうだっていいのだ。
髪。ふわふわしておたまの毛並みにも決して引けを取らないそれは、
「………………目の覚めるような蒼色」
田助は赤ちゃんを見つめた。
「たー?」
ぽきゅ、と首を傾げる赤ちゃんが、
「かわいすぎる……! っておい! いい加減にしろ! 違うだろ俺!」
ぱんぱんと頬を叩いて、正気に戻る。
そもそも赤ちゃんが廃病院ダンジョンの奥にいる時点でおかしいのだ。
たー! たー! と田助にまとわりついてくる姿に思わず頬が緩みそうになるのをぐっとこらえて、いや、こらえきれずに頬を緩ませてしまったが。
田助は赤ちゃんに鑑定を行った。
「そう言えば自分以外の誰かに鑑定をするのってこれが初めてだな……」
さて、結果は――。
――――――――――――
名前:(なし)
性別:(なし)
年齢:0歳
職業:ダンジョンコア(幼体)
レベル:1
HP 94
MP 41
力 44
体力 83
知力 73
俊敏 22
器用 77
運 100
スキル:ダンジョン創造/ダンジョン管理
――――――――――――
半透明のウィンドウを見て、田助は衝撃を受けた。
「おいおいマジかよ! この子、運の数値が100あるじゃねえか!」
注目するところが間違っているのはわざとだ。
それぐらい衝撃的だったのだ。
「この子がダンジョンコア……?」
「たー!」
どう見ても普通……ではないが、とにかく赤ちゃんにしか見えないのに。
鑑定ではそう出ている。
なら、そうなのだろう。
「ダンジョンコアがどうして俺に懐いてるんだ? 初めて見た奴を親だと思い込む、インプリンティングみたいなことか?」
いや、違うな。
おそらく、と田助は推理する。
「俺が魔力を与えて起動したから、だから俺に懐いているんだ。そうだろ!?」
「たー!」
まるで正解だと言わんばかりに、赤ちゃんが手を叩いた。
知力の数値も田助よりずっと高いし、あるいは田助の言葉を理解しているのかもしれない。
「だとしたら恥ずかしすぎるんですが!?」
よちよち~、楽しいでちゅね~、とか赤ちゃん言葉で呼びかけていたのである。
「なあ。お前は俺の言葉がわかるのか?」
「たー?」
「わかっていたら手を叩いてみてくれ」
「たー!」
手は叩かず、上げただけだった。
……わかってはいないのか?
「まあ、いいか。とにかくこの子がダンジョンコアであることは間違いない」
床に座る田助によじ登ろうと必死になっている姿が、何とも言えずかわいらしい。
抱えて持ち上げれば、きゃっきゃと喜ぶ。
ダンジョンコアにこれほどまで懐かれているということは、このダンジョンを支配していると言っても決して言い過ぎではないはずである。
これからのダンジョン生活がいろいろ捗ることを想像して、田助の胸が熱くなってくる。
だが、その前に片付けておかなければいけない問題が山積みだった。
住む場所はここに移せばいいだろう。
しかし、それ以外、生きていくためには、
「金が必要だ」
ダンジョンで倒したモンスターからドロップしたものを冒険者ギルドに持ち込んで買い取ってもらうというのが、WEB小説ではお約束だが。
ゾンビやスケルトンは今回、何もドロップしなかった。
おそらく、田助の運が悪さをしているに違いない。
まあ、たとえドロップしていたとしても、換金する冒険者ギルドはこの現実世界にはないのだが。
「金を得るためには働くしかない。けど、働き始めたらダンジョンを満喫することができなくなる」
「た!?」
ダンジョンコアが何やら衝撃を受けたような顔をしてから、ぺちぺちと田助の腕を叩いてくる。
「ん? どうした? 高い高いして欲しいのか?」
「たー! たー!」
違うらしい。
何やら床に下ろせと言っているような気がする。
言われた(?)とおり、床に下ろすと、ダンジョンコアがぺたんと床にお尻をつけて座り、「た!」と両手を挙げる。
するとどうしたことだろう。
ダンジョンコアの前に光が凝縮し、宝箱が現れたではないか。
「これって……」
「た!」
開けろと言われている気がして、田助はそれに従った。
宝箱の中には金塊がひとつ、入っていた。
「おおおおお マジで!?」
ただ、宝箱がかなり大きいのに対して、金塊が一つだけというのが気になった。
ダンジョンコアのレベルが低いから、これくらいしか出せなかったのだろうか。
まあ、いい。
「たー!」
なんて気の利くダンジョンコアだろう。
愛おしさが溢れて田助はダンジョンコアを抱きしめた。
「ありがとな、ダンジョンコア! これで問題も解決だ! 思う存分ダンジョンを堪能できる!」
「たー!」
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