第71話 新しい金策を見つけてみた
廃病院ダンジョン、その住居部分に帰ってきた田助。
出迎えた衣子たちの熱烈な歓迎――抱擁だったり(衣子)、頬ずりだったり(アンファ)、顔面ペロペロだったり(ポチ)をひととおり受けると、正和の屋敷であったことを報告した。
「というわけで、異世界ストアでいろいろなモンスター肉を購入してみようと思う」
どのモンスター肉が商品になるか、試食である。
「田助様、これまでに購入したことのあるお肉の種類はどれくらいですか?」
「そうだな。安いって理由で一番多いのはオークだけど、ミノタウロスやドラゴンの肉もあったな」
「……ドラゴン、聞いたことのないお肉の名前ですね?」
衣子が遠い眼差しをして言う。
その発言を真に受けたウェネフがドラゴンの説明をしようとしたので、田助は止めた。
どうしてという顔をするウェネフに、田助はちらりと衣子を見ながら理由を告げる。
衣子には、かつて料理下手な自分でもモンスター肉ならば料理上手になれると思い込んでしまった哀しすぎる過去があること。
その時に使用したのがドラゴン肉なのだ。
田助の説明にウェネフが納得したのを見て、改めて田助はモンスター肉を購入するため、異世界ストアを発動。
「モンスター肉で絞り込み」
田助にしか見えない半透明のウィンドウが眼前に展開、モンスター肉の一覧がずらりと表示される。
購入したことのあるオーク肉、ミノタウロス肉、ドラゴン肉はもちろん、ゴブリン肉なんてものもあった。
ゴブリンを食べるという発想がなかったので、正直、驚く。
味はどんなものなのか。
販売しているということは需要があるわけで、それなりにうまいのだろう。たぶん。
他にどんな肉があるのか、ざっと目を通す。
「とりあえず、どの肉がいいかは試食してみないとわからないよな」
ということで、ひととおり購入することにした。
塩胡椒で味付けしたモンスター肉をひたすら焼いて、ひたすら食べていく。
最初はそれこそグルメ漫画のように、食べた肉についてみんなでコメントしていた。
だが、あまりにも量が多かったため、そのうち言葉数は少なくなり、最終的にはまるで修行しているかのように黙々と食べることになった。
そうやって買ったすべての肉を味見してわかったのは、高いモンスター肉は総じてうまくて、安い肉は普通か、普通以下の味だということ。
特に格安肉の代表格だったゴブリン肉は最悪の一言に尽きた。
どれだけ勧めても、異世界出身であるウェネフが頑として食べようとしなかった時点で察するべきだったのだ。
確かに焼いている時から異様に臭いと感じた。
だが、現実世界には独特な臭気を持つ食べ物がいくつかある。
ドリアンとか、シュールストレミングとか。
ゴブリン肉もそれと同じだろうと思ったのだ。
しかし――。
咀嚼した瞬間、口の中に広がる強烈な臭気とえぐみ。
まったくうまくない。
というか、普通に食べられたものじゃなかった。
なら、どうして販売しているのか。
涙目でウェネフに問えば、モンスターを誘き寄せるための餌として使うのだと教えられた。
モンスター肉にはそんな使い方もあるのか……! と納得すると同時に、今度、ダンジョンで使ってみようと心に誓う田助は、ただでは転ばないのである。
「さてと」
試食しすぎてぱんぱんになった田助の腹を楽しそうに叩くアンファを窘めながら、田助は考えた。
食べてうまかった高い肉をそのまま道本に任せるというのでは、利益が少ないかもしれない。
というのも、高い肉は本当に高いのだ。
この世界でもお高い肉は存在するが、モンスター肉は桁が違う。
数千万とか簡単にする。
当然だ。何せドラゴンとか、フェンリルとか、グリフォンとか、そんなのばかりなのだから。
しかも販売量があまりにも少ない。
「強いモンスターだから、討伐できる者が少ないの」
ウェネフが言う。
「そうなのか?」
「そうなの! 劣等種とはいえ、ドラゴンを一撃で倒すご主人様が規格外すぎるの!」
正直、そんなふうに言われるのはまんざらでもない田助である。
「けど、ウェネフだってSランク冒険者だろ? なら、当然、単独でドラゴン退治だってできると思うんだけど」
「もちろん、できるわよ。入念に準備を整えて、相討ちを覚悟で臨めば、ね」
「なん、だと……!?」
「あのね、Sランク冒険者といってもいろいろだから」
ウェネフの話では、WEB小説でよく見るような一騎当千の強者ばかりかと思いきやそうでもなく、一つのことを極めることでSランク冒険者として認められる者もいるらしい。
なので、高ランクがそのまま単純な強さに比例するわけではないという。
「ちなみにあたしがSランク冒険者になることができた理由は、単独では困難だと言われていた依頼をいくつもこなしたから」
人間とオークのハーフであり、差別されてきた過去を持つウェネフは、そうすることですべてを見返したのだ。
それがどれだけ無茶や無謀だったとしても。
そんなウェネフの在り方に、田助は純粋に尊敬の念を覚えた。
「それで田助様、どうなさるおつもりですか?」
衣子に言われて、話が横道に逸れていたことに気づいた田助は気持ちを切り替え、考えた。
高いモンスター肉は本当に高く、しかも絶対数が少ないため、商品には向かない。
「たー?」
心配そうに、アンファが田助の顔を覗き込む。
そのアンファを見て、田助は思い出した。
ダンジョンの存在が田助にとって、あまりにも当たり前になりすぎていた弊害かもしれない。
異世界ストアで数が売っていないのなら、自分で取りにいけばいい。
それこそ、田助が愛読してきたWEB小説の冒険者たちのように。
卸先は冒険者ギルドではなく道本だが。
それでも、田助の胸は熱くなった。
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