第65話 魔王の城に突入してみた
そういうわけで、田助たちは魔王退治に向かうことにした。
だが、それに待ったをかける奴がいた。
シャルハラートである。
「あ、私はパスだから! 私みたいに美しさが取り柄の女神は、そういうことはしてはならないっていう神界の掟があるのよ!」
ふふんと笑いながら、ピンク色の髪をさらさらと流す姿は確かに言うだけのことはあって美しかった。
だが、それがどうした。というか、こいつには協調性というものがないのか!?
いや、まあ、レベル1のシャルハラートが一緒に来たところで何の役にも立たないどころか、むしろ足を引っ張るまであるのは確実なのだが……。
「ああ、わかった。なら、お前はここで留守番をしててくれ」
「留守番ね、わかったわ! 任せてちょうだい!」
「ちなみに、俺たちの留守中に魔王四天王が現れるかもしれないが、がんばれ」
ここにアンファを残していったら、間違いなく魔王四天王は現れるだろう。
なので、アンファは連れていく。
すぐそばにいた方が守れるからだ。
「ね、ねえ、私、思ったんだけど。ここはみんなで行くべきじゃないかしら!?」
「いやいや、美しさが取り柄の女神であるシャルハラートにそんなことを頼むなんて、恐れ多いにも程がある」
「あ、謝りますから! 土下座だって何だってしますから! だからお願いします私も一緒に連れてってください! 置いてかないでください! お願いしますからぁ……!」
田助の足にしがみついて、必死に懇願するシャルハラートだった。
足を振り払っても、何度も食らいついてくる。
「田助様、連れていってあげましょう」
そう言ったのは衣子である。
「ありがとうございます、衣子様!」
シャルハラートが、まるで地獄の底で女神を見つけたみたいな表情で衣子を崇める。
「いえいえ。何かあった時の身代わりは多いに越したことはないですからね」
「おお、なるほど! その手があったか!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ……! 身代わりはいやぁぁぁぁぁぁぁ! たしゅけてくだしゃいぃぃぃぃ……!」
最終的にシャルハラートが助けを求めた先はアンファだった。
こいつにはプライドというものがないのだろうか。
「まったく。最初から素直に行くって言えばいいものを」
アンファに仕方ないなーという顔で「いい子いい子」と頭を撫でられ、えぐえぐ泣きながら「アンファ様、一生ついていきますぅ!」と泣いているシャルハラートを見て、田助は呆れた。
というわけで、みんなで行くことになった――のはいいのだが。
果たして、このまま向かってもいいものかどうか。
魔王というからには、当たり前だが、めちゃくちゃ強いに違いない。
レベルが高いのは当たり前で、スキルだっていろいろ持っているはずだ。
となると、今の田助たちでは太刀打ちできない可能性も考えられる。
なら、どうする?
答えは一つしかない。
「お前の出番だ! 異世界ストアァァァァァァァ……!」
ポーズなど付ける必要がないとわかっていても、男には中二病心をくすぐるカッコイイポーズを決めなければいけない時がある。
今が、まさにその時!
田助は自分が思う最高にカッコイイポーズを決めて、異世界ストアを発動した。
「田助様、かっこいいです! 素敵です!」
「たー! たーぅ! た~!」
「わふっ!」
などと衣子とアンファ、それにポチには好評だったが、ウェネフとシャルハラートにはそうでもなかった。
というか、
「スキルを発動するのにスキル名を絶叫する必要なんてないし、そもそもポーズだっていらないんだけど。あなた、バカなの……?」
シャルハラートに至ってはマジ顔で言い放つ始末。
こいつにだけは言われたくないと思った田助は「駄女神はやっぱりここに置いていくか」と言い切って、シャルハラートを号泣させた。
その後、金をじゃぶじゃぶと湯水のように使って、田助たちは現時点で考えられる最強装備を買い揃えた。
田助とウェネフはドラゴンの王種と呼ばれる、ドラゴンの頂点に君臨するモンスターの素材をふんだんに使った防具一式を。
ちなみにウェネフは、
「こ、これ、確かブリニカ騎士王国の王様が代々受け継いできた秘宝だったような……」
とか何とか口走っていたので、
「細かいことは気にするなって!」
と田助が肩を叩いて、サムズアップすれば、
「気にするから! ていうか、本当にご主人様は非常識すぎる!」
「いやぁ、照れ――」
「――る要素はどこにもないからぁ!」
ここまでやるのが様式美というものである。
衣子には、見た目こそ豪奢なドレスに見えるが、その実、妖精王の翅で作られた、回避率が今までの装備より二〇〇%アップするものを。
アンファはガッチガチに固めて亀みたいに身を守る装備と、敵の攻撃を察知して自動で受け流す装備のどちらか迷って、両方の要素を備えたものを。
シャルハラートはただついてくるだけなので必要ないと思ったのだが、だだっ子のように床に転がってじたばたしてうるさかったので購入することに。
普通に伝説級の装備を買おうとすれば、
「ちょっと! そんな装備が私に似合うわけないでしょ! ていうか、私のこの美貌が損なわれるものは全部却下よ!」
こいつはどこまで面倒くさいのか。
あれも駄目、これも駄目で、最終的には付与魔法でいろいろな効果が付与されたアクセサリーで手を打った。
「それじゃあ行くぞ!」
そう言って田助は真・断ち切り丸を抜き放つ。
もっと強い武器――伝説や神話で語られるものも売っていたのだが(衣子やウェネフに、買って渡した)、結局、田助の相棒は真・断ち切り丸以外になかった。
ダンジョンに魔王が発生し、その存在を明らかにしたことで、ダンジョンには魔王の手先が溢れかえっているに違いない。
田助たちが来るのを、今か今かと、手ぐすね引いて待っているのだ!
「そんなふうに、思っていたんだけどなぁ……」
まったくいなかった。
あまりにもいつもどおり過ぎて、思わずダンジョンを堪能したくなるほどだった。
実際、堪能しかけたが、田助は途中で気がついた。
これは魔王の罠に違いない、と。
田助がいつもどおりダンジョンを堪能し始めたら、その隙を突いて襲いかかってくるのだ。
「魔王……なんて恐ろしい奴なんだ!」
「……考えすぎだと思うけど」
ウェネフが何か言っていたが、田助にはよく聞こえなかった。
「考えすぎじゃない! いつもより慎重に進むぞ!」
頬を伝い落ちる冷や汗を乱暴に拭いながら、田助は衣子たちにそう声をかける。
そうして、ようやく天空ダンジョンにたどり着いた。
ギアナ高地のような雰囲気の場所で、田助はここに来る度に修行とかが捗りそうだといつも思う。
そんな天空ダンジョンの中に、見慣れない建物があった。
「あれは! 間違いない! 魔王城だ……!!」
「城っていうか、私には掘っ立て小屋に見えるんですけど」
シャルハラートの言葉は無視する。
改めて装備の確認をすると、田助たちは魔王城(掘っ立て小屋)に突入した。
そこにはゴスロリ衣装がよく似合う、十歳くらいの美少女がいた。
紅髪ツインテール。同じ紅色の瞳はきついくらいの吊り目。
尊大な雰囲気で椅子に腰掛け、現れた田助たちを冷ややかに睥睨する。
足を組み替えれば、透き通るほど白い太ももの向こう側に
ロリコン属性のない田助は別にドキドキしたりしなかった。いやマジで。
「来たぞ、魔王!」
「うむ、よく来たな! 我が城に! 儂が魔王だ!」
美少女の声にしては太すぎる。あと、妙に下の方から聞こえてくるのはなぜだろうか。
「おい、どこを見ている!? 儂はここだ!」
声に促されて見れば、そこは美少女の下。
椅子だと思っていたのはゴブリンで、声はそいつが発したものだった。
「儂が魔王! ゴブゴブリリンである!」
ハァハァと荒い呼吸を繰り返しながら、恍惚の表情を浮かべて美少女の椅子になっているゴブリンが……魔王?
「お前は魔王じゃない! ただの変態ゴブリンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
絶叫する田助だった。
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