第19話 呪いを解いてみた(前編)
アンファがレベルアップしたおかげでダンジョンに新階層を作り出すことができた一方、廃病院ダンジョンの方にも新しいモンスターが発生して、田助を今まで以上に楽しませてくれた。
ちなみに新しく発生したモンスターはグールとゴーストだ。
グールはゾンビよりも力が強く、自らの渇望に忠実だった。
つまり、肉を食らおうとすること。
奴らにしてみれば田助は格好の餌であり、廃病院の明滅する明かりの下、爛々と輝く目は何とも言えない迫力があった。
鑑定した結果、レベルは2~3という個体が多く、スケルトンやゾンビより1高いという感じ。
なので油断していたのだろう。
背後から現れたグールに両腕を掴まれ、首筋をあわや捕食されるところだった。
咄嗟の判断で、アイテムボックスに収納していた手水舎の水を放出したことで事なきを得たが、パニックになっていたら、あるいはアンデッドの仲間になっていたかもしれない。
「そんな恐ろしいことを想像させないでください!」
「たーう!」
無事にやり過ごすことができたこともあって、
「というわけで、田助様。私の膝枕を堪能してくださいね」
「え、これのどこに反省に繋がる要素が……?」
「私という許婚の存在を密着した太ももから感じて、二度と危ない真似をしないと感じていただくところがです」
「な、なるほど……?」
よくわからないが、衣子の太ももの感触はとてもしあわせなものでした。
そんなこともあって、田助は今まで、
『攻撃は最大の防御なり!』
という考え方を改めるようになった。
それは田助がこれまでゲームなどで築き上げてきたモットーだったりするのだが、これはゲームではなく現実。
田助のことを思ってくれる大事な存在――衣子とアンファがいる以上、無茶はできない。
慎重さを求める必要がある。
なので、衣子がモンスターを倒してドロップしたアイテムである金貨やアクセサリーなど、この世界で現金化できるものを換金。
そうして得た資金で田助は異世界ストアで防具を購入した。
現実世界にダンジョンができてしまった系のWEB小説にある、現実世界の防具を購入することも考えてはみたのだが……。
「異世界の防具は加護が掛かってるのがあるんだよ」
たとえば鎧の重さを軽くする重量軽減の加護だったり、装備しているだけで少しではあるが回復効果が発揮される加護だったり。
田助が選んだのはクリムゾンウルフと呼ばれるモンスターの革をなめして作られた深紅色のレザーアーマー一式。
胸当て、籠手、臑当て。
特別な加護は施されていないが、防御力も高いし、何より見た目がいい。
いかにも冒険者っぽい感じが田助の心をくすぐった。
衣子とアンファにも好評で、カッコイイと言われた。
「モンスターと戦う時も動きを邪魔しないし、いい買い物をしたな!」
グールの他に新しく登場したゴーストは、日本の幽霊みたいな白装束姿のあれではなく、半透明で自我もなく襲いかかってくる化け物だった。
ゴーストに対しては物理攻撃が効かないことがあるのがお約束で、手水舎の水で倒そうかと思ったのだが……。
頼もしい相棒である断ち切り丸から自分に任せろという強い意志みたいなものが伝わってきて、斬りかかってみたらあっさりと切ることができた。
「そう言えば相棒には切れないものはないんだったな」
改めて田助は断ち切り丸が相棒でよかったと思った。
「運の数値はマイナス9999になるけどな!」
そのせいで、どれだけモンスターを倒しても何もドロップしないのだが。
一緒にダンジョンを堪能している衣子はドロップしているのに。
「俺は諦めない! 絶対に諦めないからな……!」
改めてそんなことを誓う田助に、ある日、衣子がこんなことを言い出した。
「あの、田助様。さすがにこれだけモンスターを倒しておきながら何もドロップしないのはおかしいと思うのですが」
「まあ、運の数値がマイナスに振り切れているからな。仕方ないだろ」
「そのことで気になることがありまして。祖母に話を聞いてもらったのです」
「美津子さんか」
「はい。その祖母が言うには、田助様は呪われているのではないかと言うことでした」
「まあ、断ち切り丸が呪いのアイテムみたいなところがあるし」
「いえ、そうではなく。もっと根本的な部分で。それを装備する前から、運の数値が低かったのですよね?」
「0だったな」
「一度、祖母に見てもらいませんか? 祖母はその手のことにも詳しいのです」
自分自身に鑑定をかけてみても、特に呪われているなどの表示はされていない。
だが、衣子があまりにも真剣に言うものだから、一度美津子に見てもらうことになった。
そして言われた。
「山田様……あなた、呪われていますわ。しかもこれは……女の呪いですわ」
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