第42話 嫁がイケメン過ぎてヤバかった
アンファはタブレット端末を手に入れたことで、この世界の情報に詳しくなった。
その結果が廃病院ダンジョンのバージョンアップであり、それは各ダンジョンも同じだった。
それぞれいい感じにバージョンアップしたのだ。
これまでも充分すぎるほど田助を楽しませてくれたのだが、新要素のおかげでさらにもっと楽しくなった。
田助が今まで以上にダンジョンに夢中になるのは当然だった。
「ありがとな、アンファ」
田助がお礼を言えば、
「た~」
アンファはもじもじと照れながらもうれしそうだった。
だが、そんな田助以上に、今回のバージョンアップによってダンジョンを堪能する人物が現れた。
誰あろう、田助の嫁――
元々衣子も田助ほどではないがダンジョンを楽しんでいた。
実際、田助と一緒にダンジョンに潜っていると、とても楽しそうだった。
自分が楽しんでいるダンジョンに対して、衣子はどこに魅力を感じているのだろう。
それが聞きたくて、以前、聞いたことがある。
夕食を食べ終え、まだ後片付けをしたくないとまったりした雰囲気の中でのことだった。
「きっかけは田助様が好きなだんじょんを、私も感じてみたいというものでした」
衣子がそう言ってくれた時のことを、田助は今でもはっきりと覚えている。
そんなふうに言ってもらえたことがめちゃくちゃうれしかったからだ。
「ですが、田助様と一緒にだんじょんを堪能するようになって、わかったのです」
さあ、いよいよ衣子がダンジョンのどこに魅力を感じているのか、それが判明する時がきた。
「私がもんすたーと対峙すれば、田助様が私のことを心配してくれます」
それはダンジョンの魅力だろうか。
……いや、待て。
結論を下すのはまだ早いだろう。
「罠がないかどうかを確認する時の田助様の横顔は凛々しくて、とても素敵です」
それもダンジョンの魅力でもない。
結論を下すべきか?
いや、まだだ。
ここから挽回するのだ。
衣子ならきっとやってくれる……!
「もんすたーを倒した後、子どものようにはしゃぐ田助様は信じられないくらいかわいくて、思いきり抱きしめたくなります」
何てことだ。
「ダンジョン関係ねえな……!?」
「ええ、そうです。田助様のすべてが尊いという話です!」
「認めちゃった……!」
がっくりとうなだれる田助。
「……なあ、衣子」
「何ですか、田助様」
「その、衣子は、実はあんまり楽しくなかったりするのか? ダンジョンが」
「そんなことありませんよ?」
「けど、ダンジョンを堪能するより、お、俺のことを堪能してる感じっぽいんだけど。話を聞いてる限り」
「もちろん、それは否定しませんし、できませんし、むしろ積極的に肯定していきます」
「何だと……!?」
「ですが、だんじょん自体も楽しく思っていますよ。いつかも言いましたけど、何だか遊園地みたいで」
「ああ、うん。言ってたな、そんなことも」
田助自身も、そういう面があることを否定しない。
ダンジョンの楽しみ方は人それぞれ。
なので、衣子が楽しんでくれているのなら、それでよかった。
――で、その時は話が終わったのだが……。
「さあ、田助様。今日もだんじょんに参りましょう……!」
今の衣子はあの時の話が何だったのかと思うくらい、自ら率先して田助を誘ってくる。
何でこんなに積極的なのか。
原因は今回のダンジョンのバージョンアップ。
廃病院ダンジョンのように、他のダンジョンもバージョンアップして新要素が追加されたわけだが、火山ダンジョンに追加された新要素が衣子の心を鷲掴みにした。
それが火山ダンジョンに追加された新要素のうちの一つ、温泉だ。
廃病院ダンジョンに併設された住居部分にも風呂はある。
だが、一人用で、二人で入ることはできない。
以前から衣子は言っていたのだ。
「田助様と一緒にお風呂に入りたいです。そして思いきりいちゃいちゃしたいのです」
と。
だから追加要素の温泉に衣子の目の色が変わるのは当たり前のことだった。
留守をアンファたちに任せ、ダンジョンに向かう田助と衣子。
途中、これまた新要素として各ダンジョンに配置された強いモンスターたちが現れた。
「退きなさい!」
衣子があっという間に切り伏せてしまう。
田助の出番はない。
いや、あった。
衣子が倒したモンスターからドロップしたアイテムや魔石を回収して、アイテムボックスに収納するという簡単なお仕事が。
だが、それだけ。
ようやくお目当てである火山ダンジョンにたどり着くものの、第2の追加要素がその行く手を阻む。
アクション要素である。
これまではところどころマグマが噴き出しているところがあったが、だがそれだけだった。
茹だるような熱さは感じるし、触れば火傷じゃ済まされないが、近づかない限りはオブジェのように思うことができた。
だが、今は違う。
そのマグマがまるで弾丸のように噴き出してくるのだ。
しかも上下左右、場所を選ばず。
いや上から噴き出してくるとかおかしいだろ!? と思わなくもないが、そこはダンジョンだからということで田助は納得していた。
火山ダンジョンゆえに火や炎属性のモンスターが多く、それらと戦っている間も、休まることなく噴き出してくるマグマの弾丸を避け続けなければならない。
氷属性の魔法を使えれば、マグマを凍てつかせ、その間にモンスターとじっくり対峙できるのだろう。
しかし、今の田助には使えない。
ウェネフ曰く、氷属性の魔法は水属性と風属性の魔法を極めればいけないからだ。
魔法の制御すらできていないというのに、極められる日はいったいいつだろう……。
さらに、落ちたらマグマに呑み込まれるみたいな穴があちこちにあったりする。
これも以前にはなかった要素。
しかもそこからも当然のようにマグマが弾丸のように噴き出してくる。
マグマを避けつつ、穴もジャンプしなければいけない感じは、まるでリアルマ○オだった。
マ○オと違うのは残機がないところだろうか。
マグマの弾丸に打ち抜かれてもアウト。
穴に落ちてもアウト。
モンスターにやられても当然アウトだ。
レベルが上がっていることもあって身体能力は格段に上がっているが、それでも厄介なことには変わりない。
ダンジョン堪能勢である田助ですら苦戦するそれらを、しかし衣子は破竹の勢いで攻略していく。
そんな衣子を見て、負けていられないと思ったのがマズかった。
穴を飛び越えるためにジャンプした瞬間、マグマの弾丸が噴き出した。
終わった――と思った田助を颯爽と救出した人物がいた。
衣子である。
「田助様、大丈夫ですか? お怪我はしていませんか?」
お姫様抱っこ状態で尋ねられる田助。
胸の奥が、トゥクン……! と高鳴った。
「結婚してください……!」
気がついたら思わずプロポーズしていた。
「ふふ、おかしな田助様です。もうしているじゃないですか」
そうだった。
そうしてたどり着いた温泉で二人は大いに盛り上がった。
もちろんこれからのダンジョン堪能についてだ。
それ以外あり得ないだろう。
「私に甘えてきた田助様、最高にかわいかったです」
「はい、それ言ったら駄目なやつー!」
「あの、田助様」
「ん?」
「また一緒に入ってくれますか?」
尋ねる衣子。
答えは決まっている。
「あ、当たり前だろ」
答えは決まっていたが、照れくさくて微妙に決まらない田助だった。
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