第47話 強敵と戦って勝ってみた
「逃げられないなら、戦うしかないだろうが!」
言い切った田助を、呆気に取れたような表情でシャルハラートが見上げる。
「……ねえ、大丈夫? テレビに出てる名医に診てもらった方がいいわよ、その頭」
シャルハラートの目はかわいそうな子を見る目だった。
「お前……!」
言い切った瞬間、『フッ、決まった……!』とか思っちゃっていたのに、シャルハラートのせいで何だかこっ恥ずかしくなってしまった。
さすが駄女神、余計なことしかしない。
などと責任転嫁しつつ、田助は胡乱な眼差しをシャルハラートに向ける。
「女神なのにテレビとか見てるのかよ」
「当たり前でしょ! いつも人間を見守っているとかあり得ないから! だって」
「だって?」
「そんなの面倒くさいじゃない!」
シャルハラートが正真正銘、駄女神であることが証明された瞬間だった。
「テレビの他にもネットでエゴサしてみたり」
そう言えばネットで自分のことを検索するみたいなことを言っていたのを思い出す。
「あとはソシャゲね、ソシャゲ。ガチャとかいう、体よく資金をウハウハ調達するシステムは本当によくできてると思うの」
「おいそれ以上はやめろ。いろんな業界を敵に回すことになるだろ!?」
「は? 何言ってるの? 私は女神なのよ? ということは存在自体が尊いわけ。つまり、何を言っても許されるの!」
もうこいつは本当にダメだ。
むしろ助けない方がいろいろな意味でいいような気がしてきた。
「……な、な~んて言うのは、ちょっとした冗談だから、本気にしたら駄目なんだからね? ねっ!?」
田助が見捨てようと思ったことを敏感に感じ取ったのだろう。
……駄女神のくせに、こいつ、意外と鋭いなと田助は思った。
「まあ、いいけど。俺が戦っている間、ここで大人しくしてろよ」
「わかったわ」
「おい、いいか。絶対だからな?」
「しつこいわね、わかったって言った……ああ、なるほど。そういうことね。ふふ、任せて!」
サムズアップするシャルハラート。
「バラエティ的なフリじゃないからな? マジで大人しくしてなかったら置いてくからな?」
「も、もちろん、ちゃんとわかってたから安心して!」
なら、どうして目が泳ぎまくって、挙動不審になっているのか。
田助はため息を吐き出した。
そして自分の手を凝視する。
震えていた。
シャルハラートと馬鹿みたいなやりとりをしたら、少しはマシになるかと思ったが駄目だった。
震えが止まらない。
「くそっ」
恐い。めちゃくちゃ恐い。
だが、倒さなければ、逃げられない。
本当にやるしかないのだ!
田助はいよいよ覚悟を決めた。
未だに田助たちの姿を見失っているデーモンキング・ゴーレム。
その死角から田助は魔法を解き放つ!
ウェネフに非常識の塊だとお墨付き(?)をもらい、封印していたあれだ。
「灼熱の吐息――
狙いどおり、火炎球がデーモンキング・ゴーレムの頭に炸裂。
「やったわ!」
「おい、駄女神! 余計なことを言うな! それ絶対にやってないフラグだから!」
実際、デーモンキング・ゴーレムは、傷一つついていなかった。
「くそっ、駄女神が変なフラグを立てるから!」
「わ、私は悪くないわ! ……………………た、たぶん?」
そこは言い切って欲しかった。
まあ、実際には本当に関係ないだろう。たぶん。
最初に鑑定した際、デーモンキング・ゴーレムには、
【魔法耐性(強)】
というのがあったから。
それでも田助の魔法なら、少しは何とかできるかもしれないと思ったのだ。
もちろん、ただぶっ放すだけじゃない。
異世界ストアで魔法の威力が上がるというアクセサリーや触媒を購入して、威力の底上げも図った。
それだけじゃない。
魔法ポーションなる、魔法の効果を高めるポーションも購入して飲んでみた。
ちなみにその説明文はこんな感じだった。
魔法ポーションのおかげで彼女ができました。
魔法ポーションのおかげで夜、妻がとても喜んでくれるようになりました。
魔法ポーションのおかげでお金持ちになりました。
すべてどこかで見たことがある説明文だ。
決定的だったのが最後に書かれていたこの一文。
すべて個人の感想です――絶対に駄目なやつだと確信した。
それでも一縷の望みをかけたのだ。
ちなみにこのポーションの出品者、以前、経験値ポーションやホーリーポーションを取り扱っていた出品者とは違ったが、田助が密林と同じ要領で通報したため、看板を掛け替えたのだと思われる。
「よし、通報完了」
なんてことをやっている間に、デーモンキング・ゴーレムは田助に気づいた。
「大丈夫だ! 最初から上手くいくとは思ってない!」
だから、
「最初に予定していたとおりにいく! ……頼むぜ、相棒!!」
田助は腰に装備していた断ち切り丸を引き抜いた。
任されたという強い意志が断ち切り丸から伝わってくる。
妖刀・断ち切り丸。
その切れ味は鋭く、この刀に切れないものは存在しない。
これまで一緒に数多のモンスターを倒してきた、信頼できる、心強い相棒だ。
ちなみにデーモンキング・ゴーレムは魔法に対する耐性だけでなく、
【物理耐性(強)】
というものも持っていたが、断ち切り丸なら何とかなるはずだ。
とはいえ、これまで戦ってきたスケルトンやゾンビ、ゴブリンたちみたいに一刀両断とはいかないだろう。
何せデーモンキング・ゴーレムのHPは、50000以上。
おかしいだろ!? 何だよそれ! と叫び出したくなるレベル。
だが、倒すと決めた以上、ちまちまとでも削っていかなければならない。
そこで田助がとった戦法はヒット&アウェイ。
要するに一撃離脱。
デーモンキング・ゴーレムは攻撃力も尋常ではないため、受けたら即ミンチ。
つまり、受けずに躱すしか生き残る術はない。
そのために必要なのは機動力。
俊敏が上がるアイテムを異世界ストアでこれでもかと購入した。
指全部に指輪を嵌めた他、腕輪、ネックレス、ベルト、お守り、護符などなど。
ギリギリ動きにくくならない限界までつけまくった。
防具も変えた。
いつものドラゴンの素材を使った防御力の高いものから、軽くて動きやすく、さらに俊敏が高まるものにした。
「いくぞ!」
駆け出す。
思っていた以上の速度が出た。
コントロールが難しい。
狙うのは膝。
体の大きな奴は膝とかの関節がだいたい弱点というのを、何かで読んだ記憶がある。
物理耐性(強)の手強さはどれほどのものだろうか。
断ち切り丸を振り抜く。
――と同時に鑑定。
「マジかよ……!」
HPが田助が想像していた以上に削れていたのだ。
どうやら、
【 断ち切り丸 > 物理耐性(強) 】
ということらしい。
レベル110になって能力値が軒並み3桁になる中、運の数値は相変わらず【1】のまま。
断ち切り丸の呪いによるものだ。
だが、そうやって運を犠牲にしていることで、この窮地を抜けられる可能性が見えてきた。
「相棒、最後まで気を抜くんじゃねえぞ……!?」
お前こそ、そんな意思が断ち切り丸から田助に伝わってきた。
それからおおよそ一時間。
ついに決着がついた。
崩れるように倒れる田助。
その口許にはこらえきれない笑みが。
なぜなら倒れる田助の視線の先、デーモンキング・ゴーレムがガラゴロと音を立てて崩れていくのが見えたからだ。
田助が倒れたのはダメージを受けたからではなく、これまでずっとデーモンキング・ゴーレムの攻撃を回避し続け、その集中力が途切れて、疲れが一気に押し寄せたせいだった。
「ねえ、やったの? 本当にやっちゃったの……?」
「コラ駄女神! 何でお前はそうやって余計なフラグを立てようとするんだよ……!?」
慌ててデーモンキング・ゴーレムを見るが、復活する気配はなくて、ホッとする。
同時に、体がぐんと軽くなったような、不思議な感覚に襲われる。
疲れも消えてなくなった。
レベルアップしたのだ。
鑑定してみれば、
「おおおっ、レベル170になってる!」
田助は喜び、能力値の詳細を見る。
――――――――――――
名前:山田田助
性別:男
年齢:30歳3ヶ月
職業:無職
レベル:170
HP 1325
MP 849
力 1026
体力 1129
知力 1059
俊敏 796
器用 1019
運 1202
――――――――――――
「これだけレベルが上がってもやっぱり運は1のまま――じゃない!? え、なんで!? どうしてこんなに高くなってるんだ!?」
田助が激しく混乱した時だった。
ピシッ。
すぐ近くからそんな音が聞こえてきた。
それは何かにヒビが入るような音。
「そんな……嘘だろ……」
断ち切り丸が粉々に砕け散る音だったのだ。
「おい、断ち切り丸!」
いつもなら呼びかければ応えるのに、それがない。
「これからも一緒にダンジョンを堪能しようって言ってたじゃないか!」
呼びかけにも応じず、運の数値が【1】じゃない。
どうやら田助は立ちきり丸の呪いから解放されたらしい。
断ち切り丸が砕け散ることで。
ある意味それは喜ばしいことであるはずなのに田助はうれしくなかった。
ちっともうれしくないことだったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます