第25話 コンビニ強盗を退治してみた
幸四朗の魔の手(?)から
田助の姿はダンジョンではなく町中にあった。
平日の真っ昼間、普通のサラリーマンなら働いている時間である。
無職にジョブチェンジ(?)したての頃の田助は、みんなが自分のことを白い目で見て陰口を叩いているのではないか。
そんな妄想を抱いたものだが、今ではそんなことはないとちゃんとわかっている。
「ママー、あの人、平日の真っ昼間なのに私服でぷらぷらしてるよー。リストラされたダメリーマンなのかなー?」
「シッ、見ちゃいけません! 無職がうつるわよ」
田助を指さす幼児を窘め、母親がそそくさとその場を後にする。
………………。
「無職はうつらないからぁ……!」
さて、田助が町中にいるのには理由があった。
ドロップアイテムを現金化するためだ。
いつも同じ質屋に、しかも大量に持ち込むとなると、いろいろと面倒くさいことになるのは目に見えているので、毎回、行く店を変えている。
今日はどこにするか考えつつ、ちょっと喉が渇いたので自販機を探すものの、すぐ近くに見当たらない。
「仕方ない」
すぐそこにあったコンビニに向かった。
コンビニにはコンビニ強盗がいた。
金髪にピアスをたくさん、ネックレスをじゃらじゃらさせた、チャラチャラした20歳くらいの男が、レジにいる店員にナイフを突きつけ、金を出せと言っている。
田助が動こうとすると、
「動くな」
商品棚のせいで見えなかった。
死角から丸坊主の目つきの鋭い、やっぱり20歳くらいの男が現れ、田助の腕を掴もうと手を伸ばしてくる。
何かしら武道の心得があるのか、その所作に澱みはなく、最適な動きで田助は絡め取られる――はずだった。
「なっ!?」
坊主男が驚愕の声を上げる。
絡め取られたのは田助ではなく、むしろ坊主男だったからだ。
「ふむ」
田助はそのまま坊主男の首にチョップ。
意識を失わせた。
「痛っ」
今度こそ、意識を失わせた。
「ちょ、痛いって」
間違いなく今度こそ確実に意識を失わせた。
「痛いって言ってるだろ!? マジで!」
「いい加減意識を失えよ!」
最終的には頭突きで黙らせた。
首トンというのは意外と難しいらしい。
これをあっさりとやってのけた衣子の祖母、美津子のすごさを改めて実感する。
「なっ!? ケンは柔道の黒帯で全国大会に出場するレベルなんだぞ!?」
「説明してくれてありがとな。じゃ、お前も意識を失っておけ」
今度は最初から素直に頭突きした。
「あへぇ」
金髪チャラ男はそんな声を発して意識を失う。
店内をざっと見回して、他に仲間がいないかどうか確認する。
田助の実力を知って、あえてこの場をやり過ごすことを選ぶ奴がいないとも限らない。
「おいおい、仲間がやられたんだ。なら、お前も刃向かってこないと。それが仲間ってもんだろ?」
そんなことを言って田助が向かっていったのは、地面に伏せていた長髪の男。
「お、俺は別にそいつらの仲間なんかじゃ――」
「そういう嘘は俺には通じないから。なあ、松井アキラくん?」
「!?」
田助に名前を言い当てられて長髪男が驚愕している間に近づいて、
「ま、待て待て待て待ってくれ! 大人しく捕まるから! だから頭突きだけは――」
ゴンッ!
店内に痛そうな鈍い音が響き渡る。
「ごめん、よく聞こえなかった」
もちろん嘘である。
何が起こったのか理解できていないみたいな表情で、呆気にとられている客に警察への通報を頼むと、水を買って田助はコンビニを出た。
慌てた様子で田助を追いかけて女子高生も出てくる。
「あ、あの、どうしてあの男も仲間だってわかったんですか……!?」
「鑑定したんだ」
「え?」
「君も早く学校に行った方がいいよ、
呆気にとられている彼女に手を振って、田助はその場を立ち去った。
歩きながら買った水を飲む。
「……ふむ」
衣子を助ける時、幸四朗が用意した100人の刺客と戦った。
エキストラかと思うくらい弱かったが、衣子は田助がレベルアップしているからだと言った。
わかってはいた。
だが、ついさっきコンビニ強盗を自分でも驚くくらい、あっさりと撃退してようやく実感した。
どうやら自分は本当に強くなっているらしい。
普段戦っている相手がモンスターなのであまりわからなかったのだ。
「そうか。俺、ちゃんと強くなってるんだなぁ」
田助が思わずにやついていると、スマホに着信があった。
表示を見れば衣子の祖父、正和からで、大事な話があるから来て欲しいというものだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
コンビニ強盗が現れたのは水無瀬雫が入ったすぐ後だった。
気がついたら金髪のチャラチャラした男が店員にナイフを突きつけ、金を要求していた。
雫は見た目こそ、黒髪黒目の可憐なお嬢様だったが、護身術の心得があって、この程度の相手なら決して引けを取らないと思っていた。
だから隙を見て何とかしようと思っていたのだ。
そんな時、おじさんが入ってきた。
見るからに頼りなく、冴えない感じだった。
回れ右をして急いで逃げ出せばいいのに、目の前で起こっていることが理解できないのか、むしろ店内に踏み込もうとした時には驚いた。
思わず「あっ」と声を出しそうになって、慌てて口を押さえたほどだ。
死角から鋭い動きで男がおじさんに迫り、おじさんは為す術もなく捕まってしまう――そう思っていたのに。
目の前で起こったことなのに、雫は理解できなかった。
どうしておじさんがコンビニ強盗を退治しているのだろう。
しかも、あからさまに仲間っぽくない人まで仲間だと見抜いてしまった。
理由が知りたくて、慌てて後を追いかけたら、雫の名前まで言い当てられた。
初めて会う人だ。
なのにどうして。
立ち去るおじさん――田助の背中を、熱い眼差しで雫が見つめていることに、雫自身、気がついていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます