第13話 探索して見つけた宝箱を開けてみた


 田助は今、ダンジョンを探索していた。


 決して、初めて顔を合わせて以来、よくわからない流れでライバル関係になったアンファと衣子きぬこの、田助を巻き込む形での変な戦いから逃げ出したわけではない。本当だ。


「……なんだよ、どっちの方がどれだけ俺のことを、あ、愛しているとか、わけがわからない!」


 顔が意味もなく熱くなっていることも、本当にわけがわからない。


 とにかくダンジョンの探索だ。


 元が廃病院だけに、普通のダンジョンよりも変な迫力がある。


 お化け屋敷っぽいと言えば、その雰囲気が少しでも伝わるだろうか。


 散乱した窓ガラス、カルテ、治療器具。


 壁の、よくわからないどす黒いシミ。


 ちかちかと不確かに瞬く廊下の灯り。


 完全に廃墟だった頃とは違い、ある程度修復されているが、かえってそれがお化け屋敷っぽい雰囲気に一役買っていた。


 正直、ダンジョンを探索しているというより、ホラーゲームをしているような気持ちになってくる。


 スケルトンやゾンビしか出てこないのが、そんな思いをますます強くさせる。


「まあ、ホラーゲームと違って、俺は神社の手水舎から頂戴してきた水で倒すわけだが」


 言いながら、田助は現れたスケルトンをアイテムボックスから放出した水で倒した。


「相変わらず、ドロップはなしか」


 WEB小説の定番であれば、魔石とか、そういうものがドロップしてもおかしくないのに。


 このダンジョンではドロップしないというわけじゃないだろう。


 アンファもそんなことを伝えてくれたし。


 田助がどれだけモンスターを倒してもドロップしないことを知って申し訳なさそうになって、むしろ田助の方が申し訳ない気持ちになった。


 すべて田助の運の数値が悪い方向で作用しているとしか考えられないからだ。


「経験値にはなるからいいんだけど」


 それにしても手水舎の水で完全に消滅してしまうため、素材を剥ぎ取ったりというお約束も体験できないのはつらい。


「やってみたかったんだけどな、素材の剥ぎ取り」


 できたところで現実世界に冒険者ギルドはないので、アイテムボックスに死蔵することになりそうだが。


 アンファのレベルが上がれば、あるいは出現するモンスターも変わるのだろうか。


 それとも新しいダンジョンコアを購入して、違う場所に設置するとか?


 だが、どこに設置すればWEB小説でお馴染みのゴブリンやらオーク、あるいはドラゴンが出現するのだろう。


「やっぱり洞窟か? 洞窟だな。ここら辺にあったか? そんなの」


 まあ、新しいダンジョンコアを設置するにしても、そもそも異世界ストアでダンジョンコアが出品されていないので無理。


 アンファを造り出した魔導帝国レヴァイドギアには引き続きがんばってもらいたいものである。


「――っと、考え事はここまでにして集中しろ。ダンジョンの探索中に余計なことを考えていて、命を落とした冒険者は星の数ほどいるんだからな」


 そんなことを呟いたのは、格好つけたかっただけだ。


 ただ、ふわふわした気持ちでいたら危険なことは確かだ。


 田助は気持ちを切り替え、手術室と書かれた部屋のドアを開けた。


 中にはモンスターはいなかったが、その代わり、


「宝箱!」


 があった。


 駆け寄って開けよう――としたが、考え直す。


 安易に開けて、罠が発動したらどうする?


 アンファが宝箱を出現させた時はなかったが、あれはダンジョンコアであるアンファの力によるものだろう。


 これもアンファが出現させているといえば同じなのだろうが、まったく同じと考えてもいいのかどうか。


「どうすればいい?」


 考えて、閃いた。


「鑑定を使えばいけるんじゃないか!?」


 早速使ってみた。


――――――――――――――――――――――――

●宝箱

 罠なし。

 ポーションが入っている。

――――――――――――――――――――――――


「おお、出た!」


 しかも中に何が入っているのかまでわかるとは、何て便利なんだ。


「けどなぁ、これはこれで助かるけど、開けた時に何が入っているかというわくわく感はなくなるよなぁ」


 残念に思いながら田助は宝箱を開ける。


 ギギギッ、と錆び付いた蝶番が音を立て宝箱が開き、鑑定したとおり中にはポーションが入っていた。


 いわゆる、HPを少量回復させることができるあれだ。


 異世界ストアを使うことで、いつでもどこでも簡単に入手することができることを考えれば、はっきり言って価値はないに等しい。


 当然、アンファが出してくれた金塊とは、比べるまでもない。


 だが、これは田助にとって、ずっと価値のあるものだった。


 ダンジョンを探索して、宝箱を見つけて、初めて手に入れたものだから。


 記念品として、大事にとっておくことに決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る