第72話 狙ったモンスターを倒したら、新しい問題が発生した


 金貨やアクセサリー、それに付与魔法がそこそこに施されたアイテムを売り捌く以外の金策を、田助は見つけることができた。


 まず、ダンジョンに潜ってモンスターを倒す。


 ここまでは今までと変わらない。


 だが、そこから先が違う。


 そのモンスターの肉を売るのだ。


 卸先が道本というところに目を瞑りさえすれば、まるで田助がこれまでに愛読してきたWEB小説に出てくる冒険者のようである。


 興奮するなと言う方が無理だった。


 ダンジョンに潜るための準備も、いつもと違い、熱がこもる。


「武器や防具は大丈夫か!? 回復薬はちゃんと用意してるんだろうな!?」


 そんな田助を衣子たちが生温かい眼差しで見つめているが、冒険者っぽい活動ができると喜びまくっている田助は気づかない。


「準備万端、整った!」


 そうする必要などまるでないのに、田助は腰に帯びた真・断ち切り丸を鞘から引き抜き、ビシッと構える。


「行くぜ、ダンジョン!」




 田助に同行するのは衣子とウェネフだ。


 田助のテンションについていけないシャルハラートは留守番。


 その見張り役として、アンファとポチも残ることに。


 特にポチには重要な役割があり、シャルハラートが変なことをしでかした際にはガブガブしてもらうのだ。


 ポチはスカーレットフェンリル、神殺しの獣。


 ガブガブした際、うっかりシャルハラートを昇天させてしまうかもしれないが、その時はその時である。


『ちょ、そんなの絶対嫌なんですけど!?』


 田助の呟きを聞いたシャルハラートがそう抗議してきたので、なら余計なことをしなければいいだけだと言っておいた。


 田助たちはいつもどおり、モンスターを倒しながらダンジョンを進んでいく。


 廃病院ダンジョンから草原ダンジョン、本格的ダンジョンを経て、密林ダンジョンへ。


 今回の目的はここに生息している密林竜フォレストドラゴン


 体長は10mを越え、一見したところ鰐に似ている。


 表面は苔で覆われ、普段は光合成をして過ごす。


 そう聞くと穏やかな性質を連想するかもしれないが、縄張り意識が強く、侵入者には容赦なく襲いかかる獰猛さがある。


 その肉は異世界ストアで二千万円前後で取引されていた。


 前後と値段に差があるのは、部位によるものだ。


 密林竜は以前、ダンジョンを堪能している際、遭遇したことがあり、鑑定した結果、レベル120だった。


 当時の田助には倒せず、逃げ帰ることしかできなかったが、レベル170である今ならいけるはずだ。


 とはいえ、それも確実ではない。


 魔王と戦い、レベルが上なら余裕で勝てるわけじゃないことを、田助は思い知らされた。


「だから油断はしない」


 田助としてはキリッと顔を引き締めて呟いたつもりだったのに、ウェネフにはニヤけていると言われてしまった。


 救いを求めるように衣子を見れば、


「はい。田助様はいつも素敵です!」


「お、おう。ありがとな」


 まったく答えになっていなかったが、うれしかったのでよしとする田助である。


「おっと。そんなことを言っている間に、そろそろ密林竜の縄張りが近づいてきたぞ」


 田助たちの間に緊張が走る。


 慎重に歩みを進め、視界に密林竜を捉える。


 ひときわ大きく育った樹の上にいた。


 気持ちよさそうに光合成している。


 弱点は火。


 なので、火属性の魔法を使えば、おそらくそう難しくなく倒せるはずだ。


 だが、そんなことをすれば、肝心の肉が食べられなくなってしまう。


 この場で田助たちが食べるというのならば、それはそれでありかもしれないが。


 なので、武器を持って戦うしかない。


「いくぞ」


 真・断ち切り丸を鞘から抜き放ち、田助は衣子たちに呼びかける。


 衣子には田助と一緒に攻撃してもらい、ウェネフには魔法でサポートに回ってもらう。


 密林竜との戦いが始まろうとしていた。




 密林は相手側陣地であり、不利な勝負になるかと思ったが、それほど負傷することなく、密林竜を倒すことができた。


「衣子とウェネフのおかげだ」


 二人が、田助が攻撃しやすいようにサポートしてくれたから、田助はその力を十全に発揮することができた。


「それでもこうやって見事に密林竜を倒すことができたのは、ご主人様の実力よ。さすがね」


 ウェネフはそう言って、田助を称えた。


「よし! それじゃあこいつを道本に卸して売ってもらおう」


 目の前に横たわる密林竜を前にして、田助はこいつがいったいどれほどの値段になるのか、楽しみで仕方がなかった。


「あの、田助様。少しよろしいでしょうか?」


「ん? どうした、衣子」


「道本さんに卸すにしても、このままというわけにはいきませんよね? どうするのですか?」


 衣子に指摘され、田助は改めて密林竜を見る。


 今回の密林竜は20m近くもある巨体だった。


 衣子の言うとおり、このまま卸すわけにはいかない。


 捌く必要があるだろう。


「なあ、ウェネフ。お前、Sランク冒険者なんだから捌けるよな?」


「無理。冒険者ギルドに任せていたから」


「マジか」


「マジよ」


 田助も捌くことはできない。


 せっかく密林竜を倒したのに。


 新しい問題が発生してしまった。

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