第73話 発生した問題を解決してみた


 モンスター肉の販売を新しい金策とすることに決めた田助は、手始めにドラゴンを退治した。


 そこまでは、これまで愛読してきたWEB小説に出てくる冒険者みたいな気分を味わうことができて最高だった。


 だが、最後の最後で新しい問題が発生したのは、予想外だった。


 誰もドラゴンを捌き、解体することができないことが判明したのだ。


「いや待て。ここにいない、あの駄女神が解体できるなんてことがもしかして――」


「ないですね」


 と言ったのは衣子で、


「ない」


 と言ったのはウェネフである。


「だよなぁ」


 自分から言い出しておいて、二人の意見に賛同する田助である。


 ちなみにこの時、田助たちがシャルハラートのことを話題にしていたからかどうかはわからないが、シャルハラートが盛大にくしゃみをぶちかまし、アンファに『こいつばっちぃな』という顔で見られていた。


「どうしたもんかなぁ」


 田助は倒した密林竜を見る。


 モンスターを解体することができなければ、新しい金策が早々に頓挫してしまう。


 早急に打開策を講じなければ。


「誰かに教えてもらうというのはいかがでしょうか?」


 衣子がそう提案してきた。


「それは俺も考えた。けど、それはそれで新しい問題が出てくるんだ」


「というと?」


「この世界に、モンスターを解体したことのある人っている?」


 田助の考えをウェネフが代弁した。


 そうなのだ。


 たとえば猟師。彼らなら、自分で取ってきた獲物を自分で解体したりするだろう。


 そういう人に習うのはどうだろうかと田助は考えた。


 思いついた瞬間はいいアイデアだと自画自賛したくなったのだが、ふと思ったのだ。


 モンスターの解体を、普通の動物のそれと同じと考えてもいいのだろうか、と。


 モンスターには魔石というものが存在している。


 他にも、普通の動物にはない器官だって存在しているだろう。


 炎を吐き出して攻撃するモンスターなら、それに応じた器官。


 体毛に石化能力のあるモンスターにも遭遇したことがある。


 普通の動物と同じだと考えて解体した時、果たしてこちらは無事でいられるのか。


 そもそも、そうやって解体した肉を食べることはできるのか。


 この世界にだって、解体して食材として提供するのに、特別な知識と資格を必要とする食材がある。


 河豚とかがそうだ。


「いい考えだと思ったのですが……」


 しゅんとなって落ち込む衣子を励ましていれば、ウェネフが言った。


 異世界においてもモンスターを解体するには熟練の技術が必要で、経験を積んだ専門家が行っているのだと。


 それは田助の考えを裏付けるものだった。


 それと同時にこの事態を打開するための妙案も田助にもたらした。


「異世界から、その専門家を招けばいいじゃないか!」


「え、ご主人様、召喚魔法でも使うの?」


「ウェネフ、俺もできることなら使いたいが、そうじゃない」


 首を傾げる衣子たちに、田助は言った。


「奴隷を買うんだよ!」


「「なるほど!」」


 と二人が納得したところで、異世界ストアの出番である。


 必要な条件を絞り込んでいく。


「モンスターを解体するのに必要な知識と経験を持った、かわいい女の子の奴隷!」


 ウェネフが呆れ、衣子の背後に鬼の形をしたオーラが浮かび上がる。


「俺が愛しているのは衣子だ! それは変わらない! けど、ほら、あれだ! どうせ教えてもらうなら、むさ苦しいおっさんより、かわいい女の子の方が俺のやる気も違うというか……!」


 田助の愛の言葉に衣子は鬼の形をしたオーラを収めた。


「では、田助様。今夜はいっぱいがんばるということで手を打ちましょう」


 そういうことになった。


 ちなみに、夜に何をがんばるかは聞いてはいけない。


 さて、検索結果だが――0、一人もいなかった。


 かわいい女の子では無理だったかと考え、条件を変えて検索してみるも結果は同じ。


 ならばとおっさんまで選択の幅を広げたが、駄目だった。


 散々な検索結果に、田助はうなだれる。


 自分で倒したモンスターの肉を売る。


 冒険者みたいでいいと思ったのだが……。


 普通に考えれば諦めるしかないのだろう。


 だが、田助は諦めたくなかった。


 何か方法があるはずだ。今はまだ、わからないだけで。


「……っと、その前に、とりあえず密林竜を収納しておくか」


 このまま放置するのはマズい。


 肉に詳しくはないが、倒したらすぐに血抜きしないと肉が臭くなるとか何とか聞いた覚えがあるような気がしなくもない。


 あと、鮮度も落ちる。


 というわけでアイテムボックスに収納だ。


 アイテムボックスに収納さえしてしまえば、時間は凍結され、このままの状態が保たれる。


 いつか解決方法を見つけるまで、アイテムボックスに死蔵するしかない。


 そういうわけでさっそく収納しようとした田助だったが、


「……ちょっと待てよ。たとえばだけど、全体じゃなくて、こいつの肉だけを収納とかできたりしないか?」


 思いついたのは、部位を選んで収納する方法だ。


 そうすれば解体することなく、必要なモンスター肉を手に入れることができる。


「そんなことができるって聞いたことがないんだけど」


 とウェネフが言ってくる。


 確かに田助も聞いたことはない。


 だが、やってみる価値はあるだろう。


 それに、田助はできそうな気がしていた。


 鑑定や異世界ストアが変化し、進化したように、アイテムボックスにだって同じようなことが起きてもいいではないか。


 いや、むしろ起きるのが自然。


 起きないのがおかしい!


 というわけで、


「進化しろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! 俺のアイテムボックスゥゥゥゥゥゥゥ――!!」


 力の限り、絶叫する田助。


 果たして、その結果は――!?


「さすが田助様です……!」


 衣子に抱きつかれ、


「……もう本当に無茶苦茶よね、あたしのご主人様は」


 ウェネフに呆れられた。


 見事に肉だけ、収納することができたのだった。

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