第2話 スキルを確認してみた
取得した複数のSNSアカウントを駆使してシャルハラートがどれだけ駄女神であるかを世界中に拡散しまくった田助は、一仕事やりきったみたいな清々しい顔をして流してもいない汗を拭う仕草をした。
「さて、それじゃあスキルの確認をしてみるか!」
それ以外にもいろいろと確認しなければいけないことはたくさんあった。
たとえば仕事。たとえば今生の別れみたいなやりとりをした家族や数少ない友人たちとの関係。たとえば住居問題。
そういった諸々は、とりあえず今は考えない。
つまり現実逃避だ。
だがこれは田助が悪いわけではない。田助の人生をめちゃくちゃにした駄女神、シャルハラートが悪いのだ。
「ふっ、我ながら完璧な理論だぜ!」
というわけで現実逃避の開始――スキルの確認である。
「まずはそうだな……。よし、ここはWEB小説のお約束、定番中の定番、鑑定から行くか。――鑑定!」
ノリと勢いで思わず中二病的ポーズを取ってしまう田助。
ふと我に返って顔が熱くなるが、幸いここには田助しかいないので、田助の尊厳が失われるような事態には発展しなかった。
そもそもスキルは叫んだり、ポージングしたりしなくても、田助が使いたいと思えば使えるらしい。
どうしてそんなことがわかるのかと言えば、そういうものなのだという感覚がするからとしか言いようがない。
とにかくそんなわけで、田助は初めての鑑定を自分自身に使ってみた。
目の前に透明なウィンドウが現れる。
――――――――――――
名前:山田田助
性別:男
年齢:30歳2ヶ月
職業:無職
レベル:1
HP 10
MP 3
力 7
体力 8
知力 9
俊敏 4
器用 6
運 0
スキル:異世界ストア/アイテムボックス/鑑定
――――――――――――
「なるほど……?」
ゲームみたいだと思えばわかりやすいが、この数字がいいか悪いかはわからない。
「けど、これだけはわかる! 運が0って何だよ! 最悪じゃねえか! ふざけるな!」
現在田助が置かれているこの状況は、この運の数値が影響しているに違いない。
まったく腹立たしい。
「それにしてもMPもあるんだな。もしかして魔法とかも使えるのか?」
試しに知っているゲームの呪文を何個か唱えてみたが魔法が発動することはなく、ただ痛々しいだけだった。
誰も見ていなくて助かった。社会的に死ぬところだった。
何にしてもこうして鑑定ができた以上、スキルは無事に使えるということだろう。
「じゃあ、次はアイテムボックスを使ってみるか」
これもWEB小説ではお約束の有能スキルである。
とりあえず手近にあったゴミを収納してみる。
手の中にあるゴミを収納すると意識した瞬間、ゴミが忽然と消えた。
でもって田助の脳裏の片隅に「!」というアイコンが表示されたような感覚がして、そちらに注意を向けると、【アイテムボックス】という領域の中にゴミが収納されているのがわかる。
「なんだこれ、不思議な感覚だ!」
取り出そうと思えば手の中にゴミが現れ、再び収納すればゴミはアイテムボックスの中に。
ゴミ以外のものを入れると、その分、領域の中にそれらが収納された。
ぐぅ。
腹が鳴った。
時計を見ればいつも夕飯を食べている時間だ。
「コンビニにでも買いに……いや、待て。せっかくだから最後のスキルも試してみるか」
異世界に召喚されることで真価が発揮される【異世界ストア】。
異世界にいながら、この世界のものを購入することができるチートスキル。
本当ならこのスキルで胡椒や塩、それに砂糖といった調味料を安く買いまくって、異世界で高く売り、大金持ちになる予定だったのに。
「異世界ストア」
鑑定をした時のように、目の前に透明なウィンドウが現れた。
ただし、鑑定と違い、そのウィンドウは田助がよく知る密林っぽい感じだった。
「はぁ。異世界に召喚されてたらこれでウハウハできたのに……」
そんなことを思いながら商品を検索して購入しようとしたが、
「あ? なんかおかしいぞ?」
と何かがおかしいことに気がついた。
だが、何がおかしいのかわからない。
なので、今度は詳細に観察する。
で、わかった。
「商品ライナップだ!」
田助の知っている密林と違うのだ。
「ひのきの棒、銅の剣、革の鎧って……」
武器や防具だけじゃない。
ポーションやら薬草、果てはゴブリンの肉、スライムの魔核なんてものまで売っていた。
異世界だ。
田助の望む異世界がそこにあった。
「けど、どういうことだ? 異世界ストアってこの世界のものを購入するスキルじゃなかったのか?」
詳しく調べてみるため、俺は異世界ストアに鑑定を使ってみることにした。
「こ、これは……!」
驚くべき結果が出た。
このスキル、異なる世界で売買されている、ありとあらゆるものを購入することができるというのだ。
「つまり、異世界に召喚されていれば、この世界が異世界扱いとなって、この世界のものを購入することができるようになっていたというわけか」
だが、田助は異世界召喚されなかった。
だから、こことは異なる世界――田助が望むファンタジー世界で売買されているものを購入することができるわけだ。
「……もしかして、俺にも運が回ってきたのでは?」
何度も言うが、異世界に召喚されなかった。
そのこと自体、悔しいし、腹が立つ。
だが、このスキルを使えば、この世界でも一発逆転を狙えるのでは?
たとえばエリクサー。
これはありとあらゆる怪我や病気(身体欠損も含む)を回復する、とある。
これを必要としている人に売ることができれば……。
いや、いきなりそれはハードルが高いか。
エリクサーのことをどうやって信じてもらう?
胡散臭いインチキ霊感商法と一緒にされて、警察に通報されてしまうかもしれない。
それならまだ、武器や防具類をその道のマニアに販売した方がいいような気もする。
何にしても光明が見えてきた気がする。
「けど、その前に。まずは実際に買ってみないとな」
本当に異世界のものを購入できるのか否か。
試してみる必要がある。
田助は何を買うべきか、慎重に確かめることにした。
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