第14話 ダンジョンを探索する相棒を手に入れてみた
いろいろあって田助の許婚になった
許婚になった当初は、
『許婚となったからには、身も心も田助様に捧げたいと思います。つきましては一緒に暮らすということでよろしいですね?』
よろしくありません。
清楚な外見なのに、どうしてこんなにぐいぐい来るのか。
もしかして元許婚に対しても……?
『いいえ、違います。こんな気持ちになったのは田助様が初めてです』
そんなふうに言われて、うれしくないわけがなかった。
『田助様だけなんです。この人は絶対に逃してはならない。私の勘がそう告げるのは』
言葉も表情もやわらかいのに、何かとんでもないものに絡め取られてしまったような気持ちになった。
とにかくそんな感じで一緒に暮らそうとしたのだが、そこは田助が断った。
その時はまだ、何とか衣子との許婚関係を解消できないかと模索していた時期だったので。
そんな田助に対して衣子は、
『なるほど。田助様は照れ屋さんなのですね。そういう田助様もかわいくていいと思います』
と勝手に勘違いをして、
『では、少しずつ距離を縮めていく方向で。お互いのことを少しずつ知っていきましょうね。田助様』
やわらかく笑っていた。
通い許婚はその一環なのだろう。
アンファとライバル状態になっている今、アンファは衣子をダンジョンから閉め出すのではないかとも思ったがそんなことはなく、今日もやってきた衣子を、
「ぬー!」
と、笑顔で迎え入れていた。
ちなみにこの「ぬー」は衣子の「ぬ」だ。
田助に挨拶をした後は衣子とアンファがお互いに向き合う。
「今日も勝負をしますよ、アンファ様。そしてどちらが田助様の本妻に相応しいかを決めるのです」
「たー!」
何だかんだ仲良くやっているじゃないか。
「では、田助様。今日はどちらの方がより田助様に喜んでいただけるかを勝負しますので」
「たーう!」
「よーし! 俺はダンジョンを堪能してくるぞ~!」
田助は二人に背を向けて、ダンジョンに向かった。
逃げたのではない。
戦略的後退というやつだ。
そんな田助を衣子とアンファが「仕方ない人ですね」「た~う」とやさしげな眼差しで見つめていることに、もちろん田助は気づかない。
そんなわけで田助は今日もダンジョンを堪能するわけだが、実は密かに考えていたことがある。
そろそろ手水舎の水を使わずにモンスターを倒すということだ。
手水舎の水を使いまくってレベリングしたことで、今では田助のステータスはこんな感じになっている。
――――――――――――
名前:山田田助
性別:男
年齢:30歳2ヶ月
職業:無職
レベル:6
HP 39
MP 28
力 38
体力 38
知力 27
俊敏 39
器用 31
運 0
スキル:異世界ストア/アイテムボックス/鑑定
――――――――――――
最初に比べてレベルが上がりにくくなっているのは、レベルアップに必要な経験値が多くなってきたからだ。
それでも初期の貧弱さに比べたらグッと強くなった。
「相変わらず運だけは0だけどな! ちくしょう! 何でだよ!? いい加減上がれよ!」
このままでは永遠にモンスターを倒しても何もドロップしないではないか。
なので田助はちょっと前に、異世界ストアで運のステータスを上げる装備はないか探し出して購入した。
それはラピスラズリをあしらった、聖銀と呼ばれるミスリル、そう、ファンタジーのド定番、魔法金属のミスリルを使ったブレスレットだ。
この世界でもラピスラズリ――瑠璃とも呼ばれる石はパワーストーンとして知られているが、異世界でもそうだとは思わなかった。
鑑定の結果、装備することで運の数値が100上がると出た。
勝った! と謎の高揚感に包まれながら装備。
自分自身を鑑定した結果、運の数値は見事に、
『あが、あが、あが、あがってねえええええええええ!』
上がらなかったのだ。
というようなことがあったので、その後も運のステータスを上げるアイテムを異世界ストアで探しているが、あれ以上に効果がありそうなものがないので、購入していない。
運の話はこれくらいにしておこう。
ステータスもかなり上がったので、今の田助なら手水舎の水を使わないでも、
「倒せるはずだ! たぶん!」
というわけで、まずは何か武器になるものを購入する必要がある。
「魔剣とか、聖剣も売ってるんだよな……」
異世界ストアを検索した結果だ。
憧れないと言ったら嘘になる。
だがしかし、ダンジョンを堪能するなら今のレベルにあった装備を選ぶべきだろう。
「というわけで、ポチッとな!」
田助が購入したのは魔剣である。
「こ、これは違うから! 魔剣の割にお値段据え置きで、初心者向けな感じがしたからぁ!」
誰が見ているわけでもないのに、見苦しい言い訳である。
そうして届いた魔剣は刀だった。
妖刀・断ち切り丸。
おそらく異世界に召喚されたか、あるいは転移、あるいは転生した日本人が向こうで作った逸品に違いない。
鑑定の結果はこれだ。
――――――――――――――――――――――――
●妖刀・断ち切り丸
魔剣鍛冶士グライアスが大陸の果てからやってきたと自称する怪しげな雰囲気の人物サイトウに依頼され、作り出した。
切れ味鋭く、この刀に切れぬものはないという。
ただし、装備すると呪われ、運の数値が劇的に下がる。
――――――――――――――――――――――――
「俺の運の数値はゼロ! これ以上、下がりようがない! つまり、この断ち切り丸は俺にこそ相応しい最強の武器!」
うれしいのに、何だか泣きたくなってきた。
だが、これでスケルトンやゾンビと戦えるというものだ。
さっそく腰に装備した。
気分は冒険者というより、異世界を流離う侍である。
あと、自分も鑑定してみた。
「運の数値は安定のマイナス9999かぁ――って何でだよ!? マイナスとかあるの!? え、マジで!?」
さすがにこれはあり得ない。
そう思って腰から外そうとする。
外れない。
「これが呪いか!?」
断ち切り丸から『……コンゴトモヨロシク』という思念が伝わってくる。
「悪魔じゃねえか!」
最悪である。
だが、切れ味は最高だった。
骨をカタカタ鳴らしながらやってきたスケルトン。
現状に対する恨み辛みをすべて乗せて、田助が刀を振る。
「は……?」
手応えすらないまま、一刀両断していた。
「何だこの切れ味!?」
もう一度試すべく、モンスターを探す。
今度はゾンビだ。
スパッ!
再び一刀両断。
「これは!」
スパッ!
「なんて!」
スパッ!
「気持ちいいんだ……!」
スパァァァッ!
田助は感動に打ち震えた。
刀を鞘に戻し、すっと腰を落とす。
半眼になって、目の前に群がるスケルトンたちに向かってそれを放った。
「秘剣・
切ることにしか己の存在意義を見いだせない哀しみを月夜に歌う、そんな意味が込められた幻の秘剣である。
もちろん、田助のでっち上げだが。
音の響きと字面の格好良さが最優先だ。
だが、その切れ味は本物だ。
一刀両断されたスケルトンたちがバラバラとその場に崩れ落ちる。
「……こうすることでしか、俺は自分の存在意義を見いだせないのか。諸行無常だな」
ここまで呟くのが『秘剣・切月歌』のセットだった。
田助は断ち切り丸を鞘に戻すと、柄をぽんと叩いた。
「切れ味がすごいのは認めてやるよ。けど、勘違いするなよ? 俺が認めるのはそれだけだからな!」
誰得のツンデレみたいな発言をしつつも、まんざらでもない表情の田助だった。
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