第59話 モンスターにおいしくいただかれてみた
ワイルドペングルの巣を襲ったというモンスターがいる場所まで向かう田助たち。
その道中、
色とりどりの珊瑚礁や魚たち。
そのほとんどがモンスターだったりするのだが、美しいことには変わりない。
田助でさえも、初めて訪れた時はダンジョンを堪能することを忘れて素直に感動し、しばし見とれたものだった。
そんな衣子たちの姿を田助は微笑ましそうに見る。
が、すぐに思考を切り替え、ワイルドペングルから聞いたモンスターのことを考える。
ちょっと大きなカメのモンスターで、名前はロングホーン・タートル。
その名が示すとおり、特徴的な
その話を聞いてウェネフは言った。
『ロングホーン・タートルは大人しくて温厚なモンスターよ。餌だって草や葉っぱを、しかもちょっとだけしか食べないし。暴れたり、襲いかかったなんて話、あたしは聞いたことがない』
だが、ワイルドペングルはロングホーン・タートルに巣を荒らされ、雛を奪われたと言っていた。
どっちが本当なのか。
ロングホーン・タートルと対峙すれば、自ずとはっきりするだろう。
ワイルドペングルに聞いたロングホーン・タートルのいる場所にやってきた。
海上だ。
点在している無人島のうちのひとつに上陸し、周囲を見回す。
「さてと、ロングホーン・タートルはどこにいるんだ?」
甲羅に特徴的な長い角が生えているから、すぐにわかるという話だったが、
「……いないな」
田助の言葉に、衣子たちも同じように周囲を見回してうなずく。
もしかして場所が違ったのだろうか。
そういうことなら場所を移動する必要があるだろう、などと田助が思った時だった。
「ん……?」
さっきまでぽつんと見えていたはずの小さな島が、何だか大きくなっているような気がする。
いや、まさか。そんな馬鹿なことがあるわけがない。
単なる見間違いだろう。
そう思った田助が目をこすってみれば、島はさらに大きくなっていた。
「ははーん、なるほどな! つまり、島がどんどん近づいてきてるってわけだな……!」
「そこに気づくとは、さすが田助様です!」
「はっはっはっ」
などと、衣子の田助上げに笑って応じている場合ではなかった。
「待て待て待て待てぇぇぇ!? 島が近づいてくるとかあり得ないだろ!?」
では、どういうことだろう。
答えは簡単だった。
それが島ではないからだ。
島ではなく、モンスターだからだ。
甲羅に森やら山やらを生やしたまるで島のような、超巨大なモンスター。
その名をロングホーン・タートルという。
鑑定したから間違いない。
間違いはないが、
「これのどこが
「なる」
「マジで!?」
田助は衝撃を受けた。
「ていうか、長い角なんかどこにも生えてないんだが!?」
「田助様、田助様」
衣子が脇腹をつついてくる。
「どうした?」
「あの山が角なのではありませんか?」
「山が……角?」
「はい」
確かに。
言われてみれば、そう見えなくもない。
だが、山が角って。
「あり得なさすぎる……!」
「そうよ、あり得ないわよ! ねえ、あんなのと本気で戦うつもりなんてないわよね!?」
及び腰になったシャルハラートが田助の腰に抱きついてくる。
その反応はある意味当然だった。
何せシャルハラートは、田助がどれだけレベル上げをしろと言っても聞かず、未だにレベル1のまま。
対してロングホーン・タートルのレベルは520。
田助のレベルを三倍してもまだ届かない存在だ。
それでも、
「戦う……!」
ワイルドペングルから聞いた話と全然違うと文句を言いたい。
戻ってどういうことかと激しく問い詰めたい。
だがそれはこの局面を何とか乗りきってからだ。
そもそもロングホーン・タートルの方がすでにやる気充分なのだから。
その超巨大な体に相応しい大きさの頭を海面から覗かせ、怒りに染まった目で田助たちを睥睨。
「ロングホーン・タートルは本当に大人しいモンスターなのに……どうして? これは絶対におかしい。何かある」
ぶつぶつ言っているウェネフに向かって、ロングホーン・タートルがその首を大きく伸ばした。
噛みつくつもりだ。
いや、あの巨体を考えれば、噛みつくというより、呑み込むつもりだろう。
ロングホーン・タートルの攻撃はその巨体に似合わず、鋭く、素早い。
ウェネフは未だに考え事をしていて、ロングホーン・タートルのその攻撃に気づいていなかった。
「ウェネフ……!」
ドンッ! と田助が突き飛ばすことで、ウェネフは事なきを得た。
「え……?」
と驚くウェネフが田助の視界に入る。
よかった、ウェネフが無事で。
そう思った瞬間、田助の視界は暗闇に閉ざされる。
ロングホーン・タートルに呑み込まれたのだ。
ごっくん、と。
「田助様あああああああああああああああああ……!」
そんな衣子の絶叫が聞こえたような気がした。
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