第33話 非常識だと言われてみた


 今回、田助が異世界ストアで購入したのは奴隷である。


 いつものように購入手続きを進めながら、


「けど、奴隷もいつもと同じ感じで届くのか……?」


 だとしたら段ボールで梱包された状態ということになるのだが……。


「それはそれでシュールだな……」


「確かにそうですけど、さすがにそれはないのではないですか?」


 衣子きぬこの言葉に、田助も、


「だよな。さすがにそれはないよな」


 と同意を示しつつ、購入手続きを終える。


 果たして、どのような形で奴隷が現れるのか。


 ぴんぽーん♪ と玄関チャイムのような音ともに光が集まり、やがて人が余裕で入れるサイズの段ボールになった。


「………………」


 田助と衣子は無言で、


「もごっ、むぐぅっ」


 という声がする段ボール箱をしばらく見つめることしかできなかった。


 もちろん、すぐに我に返って、段ボール箱から解放した。


 少女は涙目だった。


 無理もない。




 さて、今回、田助が購入した奴隷は魔導帝国出身のウェネフという。


 いかにも魔法使いっぽいとんがり帽子に、ダボッとしたローブ。


 年齢は18。


 身長154cm。体重43kg。


 スリーサイズは上から77、60、84。


 ちなみに処女。


 Sランク冒険者。


 人間とオークのハーフ。


 とんでもない額の借金を背負ったことで奴隷落ちになった。


 ――というのが、ウェネフの購入ページの説明欄に書いてあったことである。


 いろいろと聞きたいこと、確認したいことが満載だが、まずは何より魔法についてだ。


 ウェネフの出身地、魔導帝国。


 魔導帝国といえば田助が購入したダンジョンコアであるアンファの産みの親(?)でもある。


 さらにSランク冒険者であるならば、めちゃくちゃ魔法に詳しいに違いないと考えたわけだが、残念なことにそれ以前の問題だった。


 言葉がまったく通じないのだ。


 英語やフランス語など語学に堪能だという衣子が何とか意思疎通を図ろうとしてみたが、駄目だった。


 結局、ウェネフの言葉は地球上に存在する、どの言語にも似ても似つかないということがわかっただけだった。


 正直なことを言えば、この状況は予想できた。


 何せウェネフは異世界人だ。地球人である田助たちと話す言語が違うことは簡単に想像できる。


 だが、そこは謎の力が働いて、都合よく言葉が通じるという展開を期待していたのだ。


「そう甘くはなかったか……」


 あるいは田助が勇者だったのならば、そういう展開もあり得たのかもしれない。


「ですが、田助様なら何とかできます」


 断言されてしまった。


 衣子を見れば本気で言っている顔だ。


 嫁の期待がハンパない……! と衝撃を受けつつも、期待されたら応えたいと思ってしまう田助である。


「もちろんだ。任せてくれ!」


 話ができないことには魔法について聞くこともできないし。


 果たしてどうすればいいのか。


 困った時の異世界ストア頼みである。


 何かいいアイテムは存在しないだろうか。


 異世界には現実世界より多くの種族が存在している。


 奴隷を探していた時、それは実感していた。


 たとえばエルフ。たとえばドワーフ。たとえば獣人。たとえば魚人マーマン。たとえば樹人ドライアド。たとえば蜥蜴人リザードマン


 そういった異なる種族の者たちが意思疎通を図るための術があるはずだ。


 魔法や何かしらの神の加護という線も考えられるが、すべての者が魔法を使えるわけではないだろうし、加護を与えられているとも思えない。


 だからきっとある。


「コミュニケーション、ツールで検索してみるか」


 すると、いろいろと出てきた。


 言語理解というスキルオーブもあったし、全種族言語辞典と数百冊にも及ぶ上、一冊がものすごく分厚い本もあった。


 他にも多種族言語を理解し、翻訳することができる奴隷も出てきた。


 スキルオーブは確実とは言えないし、全種族言語は論外だ。


 異世界言語がわからないのに、異世界の言葉で書かれたものが読めるわけがない。


 何より量が多すぎる。


 なので翻訳のための奴隷を購入することも考えたが、そもそも地球の言語を理解できるのかどうか。


 購入してから「理解できません」となって、じゃあ「必要ありません」なんてことは、あまりにも無責任すぎるだろう。


「他には何かないか……」


 目を皿の様にして探して、田助はようやくそれを見つけた。


「見つけた、これだ……!」


 購入手続きを終えると、ぴんぽーん♪ と品物が届いた。


 それはピアスだった。


 装着した者同士、意思疎通が図れる、古代遺跡から発掘された品物らしい。


 しかも耳にピアスのための穴を開ける必要はなく、耳に近づけるだけで装備できるらしい優れものだ。


 田助は自分の耳に付け、衣子にも渡し、さらにはウェネフにも渡した。


 だが、ウェネフは驚愕した顔で手渡されたピアスを見て固まっている。


 早く付けてくれないと意思疎通が図れないのだが。


「仕方ない」


 固まっているウェネフからピアスを取り上げ、ウェネフの耳に近づける。


 ピアスはウェネフの耳に装着された。


「これで話ができるはずだ。おい、俺の話がわかるか?」


 ウェネフに話しかければ、ようやく硬直状態が解けたウェネフが田助に詰め寄ってきた。


「あ、あなたはこれが何なのか知っているんですか!? 秘宝ですよ!? しかも伝説級の!」


 近い近い近い。


 あと顔が恐い。


 妙に鬼気迫る感じがしてめちゃくちゃ恐い。


「そ、そうなのか? 確かにちょっと高かったけど」


ちょっと・・・・? 今、ちょっと・・・・って言いましたか!? 何なんですかあなたは!? 意味がわかりません! 非常識すぎます……!」


 襟首を掴まれ、ガクガクと揺さぶられた。


 どうやら異世界人的に非常識なことをしでかしてしまったらしい。


 だが、


「さすが田助様です」


 衣子に、


「たーぅ!」


 アンファに、


「わふっ!」


 ポチに褒められたので、悪い気はしなかった。

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