コミュ英の田中
5
「時間ってやばくない?」と、妙に真剣な顔で言っているのは黒髪のマカナだ。
私が「かわいい~、彼女にしたーい」と言っていたら仲良くなった。
「なんで~」の気の抜けた返しをするのはコトハ。私はコトと呼ぶことにした。
授業が始まって一週間。初めに私が喋るようになったのは、この二人だ。自己紹介の時に気になっていた二人に、私から近付いたからだ。他の人とは話さないというわけではないんだけど、この二人はなんかちょっと感覚というか、センスがいい。そういうことって誰にでもあるでしょ?
「だって何もしなくても進んでいくんだよ? ほんとやばいって!」
マカナは、まるでその事実を自分が発見したかのように目をキラキラさせている。
「そっか~。それはやばいかも~」
コトの腑抜けた調子に、私が「語彙力!」と鋭いツッコミを入れる。私たちはこれだけ内容の無いような会話で大爆笑できる。これはもはや才能だと思う。
この一週間で、少しずつクラスの様子が見えてきた。
まず、クラスで一目置かれているのは、神田朱里(アカリ)。優等生の鏡のような生徒で、授業中の発言や提出物はもちろん、普段の立ち居振る舞いにまで隙が無い。きっとお父様とお母様もさぞご立派な方であらせられるのだろう。
それに唯一対抗できるんじゃないかと私が密かに目を付けているのは、宮原優子だ。多分一番静かで、誰かと話しているのをほとんど見たことがない。いつも優しく微笑みながら、本か辞書かよく分からないような分厚い何かを読んでいる。この子は絶対裏がある、と私は注目しているのだ。
ちなみに担任の八木は放任主義なのか、特に何もしない。
「次の授業何?」と私が聞くと、コトが「わかんな~い」と答えて、すかさずマカナが「うわ最悪、コミュ英じゃん」と、心底嫌そうに顔をしかめた。
「なんで~」とコトが聞くと、マカナは「あの先生嫌なんだよね」と言いながら、教科書を取りにロッカーへ向かった。
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